0−2.居場所
霧谷光喜の家族構成
父 霧谷光三(他界)
母 霧谷香代子
兄 霧谷貴也
俺 霧谷光喜
妹 霧谷結衣
3ヶ月前。それは喉が乾いて2階から下に降りた時の事だった。
「おい人権無し! 気持ち悪いんだよ。出てけゲームオタク!!!」
一瞬頭の中で時が止まったように感じた。兄さん、今日に限って急にどうして……
それに続けて結衣が便乗する。
「お兄ちゃん。いや、人権無し。あなたって最低よね」
「人権無しは此処にいるべきじゃ無いんだよ!」
「え?何で、急にどうして……?」
そろそろと玄関の方に後退る。こんな事を言われたのは何度かあるが、今回は何かが違う。
「お前はなぁ、ずっと部屋に引き籠って、それで毎日ゲームばかり。正直この家のお荷物なんだよ! 金ばっかり使わせやがって。人権無い癖にふざけんな! とっととこっから出てって死んで来い!!」
「意味が、解らねぇよ……どうして、何で……」
俺はこの家が無いと生きてけない。それは分かっている。ネトゲの仲間もいる。大事なもんが沢山ある。
「うるせぇささっさと消え失せろクズ!!!」
「そうよ、お兄ちゃんの言う通りよ!!」
もう、何でだよ。
ただゲームが好きなだけなのに。学校に居ることが存在感の無い俺にとって辛くて耐えられなくて不登校になっただけなのに。
それで特に才能があるわけでもないから家事なんて出来るわけ無いのに。
俺には、何も無かったんだ。真面目に就職活動をした時だってあった。でも、俺みたいな奴を雇ってくれる所なんてはなっから無かった。だからもう真面目に生きるのをやめたんだ。
どうして……俺が……
決して家族に迷惑を掛けるつもりはない。何を言われようとも。誰とも関わるつもりなんて無いし関わることは無いと思った。家でも誰一人として喋ろうともしなかった。
俺が出来ることは全てやった筈だ。それなのに何故まだ何かを俺に求める。俺には分からねぇよ。もう良いだろ。
俺はこの家を、出る。そう思って玄関の方を向いて歩き出した。
きっと母さんは止めに来るだろう。
「待ちなさい光喜!!!」
ほら来た。だがもう遅い。俺はこの兄妹に嫌気が差したんだ。それに、俺が居ない方が母さんもコイツ等も幸せだろう。
「良いんだ母さん。あのクソ野郎のことなんて忘れて俺と結衣とで楽しく暮らそうぜ?」
わざと聞こえるように言ったのが分かった。舌打ちしかける。
「そうだよお母さん。もう何も考えなくていいの。だから……ね?」
少しの間があった。
その間に俺はすぐさま玄関から財布とスマホだけを持って家から出る。
こういう私物はなぜか部屋への持ち込みが禁止されていた。これも、俺が反抗するのを防ぐためか。
そして、いつも飲み物は外で買う。これも関わりを避けるためだ。
「あっ光喜!!! 待ちなさい!!!」
俺は聞こえないふりをして勢いよく飛び出した。
◇◇◇◇
あの後何があったのかは考えないようにしている。もうあの日から3ヶ月か。
スマホの充電は切れてるし、財布の金ももう底をつきそうだな……一応十万位は入ってたんだけどな。
俺は空き家の中で一人そっと笑った。悲しみや、怒りが混じったような笑みだった。自分でも分かる程だった。
「舌がザラザラする。久しぶりにジュースでも飲んでみるか。ゲームをしていた日々は毎日の様に飲んでいたエナジードリンク。もうすっかり飲む気が失せたな」
独り言は毎日のように言っているが今回は何故か言うのが恥ずかしくなった。
笑った。
この家の目の前には謎に自販機が置いてある。何かと便利だ。
何を買うかも決めずに俺は立ち上がった。