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第93話





男が死んでしまったらほとんどの仲間のモンスターは近くの森やらに逃げてしまった。男との絆があまりなかったかららしい。一番最初から男の隣にいたゴーレムは男が死んでしまったその場所から動かなくなった。


男は旅の途中で病気になったものだから人のいない遺跡後で亡くなった。男は冷たい床の上で体を温めるように丸まり、口から血を吐いて眠るように死んでいて、ゴーレムはその男を包むように覆い被さって動かなくなった。


話しかけても『動きたくない』と返ってくるのでボクもそこでゴーレムとは別れた。


何年振りだかなん十年振りだか分からなかったけど、人間のいる町にやってきた。もしかしたらあの男みたいな仲良く過ごせる人間が他にもいるのかもしれない。そう思ったからなんだ。


町に入ると“テイマー”がいっぱいいた。そう、その町はまだ小さい町だったこのロッテリーだったんだ。あの男と同じく、動物達と同じようにモンスターを仲間として連れて歩く人間達。テイマー。


ボクは誰かいい人がいないか物色したよ。でもボクってよく知らない人から言ったら本当にただの犬にしか見えなかったんだ。そうこうしているうちに男が亡くなってから長い月日が経っていった。


ある時子供が近くの川で溺れてたんだ。近くには子供しかいなくて、しかも川はその前の雨で増水してたんだ。ボクは通りかかって、その子供を助けたんだ。


もちろん風のように走って。


それを見ていた大人がテイマーで、ボクがモンスターだって気づいたらしい。お仲間の誘いをその時受けたよ。ボクもボクを求めている人を長いこと探していたからその声をかけてくれたやつがどんなやつかも考えないで返事をしてしまったんだ。


だってあのゴーレムといっしょにいた男といた時間は思ったよりもボクの心に残っていたんだもの。でももうちょっとあの男の時のように逃げるなりして考える時間をとれば良かった。


川で出会ったテイマーは3人組で、女が1人と男が2人。それとモンスターが2体。モンスターは鳥のと馬の形のモンスターだった。その時違和感を感じたんだ。でも心が踊っていたから気づけなかった。


あのね、そのテイマー達、モンスターを仲間と思っていなかったんだ。


『モンスターは俺達の道具だ。何をやったっていい』


笑いがこだましていた。それを聞かされたときボクももうそいつらに特殊な魔法をかけられてテイマーと絆を結ばされていたから、ボクはボクの心を押さえつけられ、ボクはボクとして生きていけなくなったんだよ。


ロッテリーの町は領主がね、テイマー達にそれをすることで強い冒険者になることを推奨していた町だったんだ。そうしてその領主がテイマーのためのテイマーの町を作ってどんどん大きな街になっていって、ボクはその間ボクではないボクだった。


ゴーレムがあの男から動こうとしなかったのはこういう事があるからって知っていたのかもしれない。あの男もこういうことがあるから町や村に寄らなかったのかもしれない。


ボクは浅はかだったんだ。


ボクがボクでなくなったとき、ビャッコ達もこの街の噂を聞きつけたらしくて、無理やりテイマーに縛りつけられてたモンスター達を正気に戻し始めた。その時の最初に助けられたうちの何体かは今ビャッコ達と一緒にいるビャッコの周りにいる猫のモンスター達だよ。


ボクも正気に戻った。ボクもモンスター達を助けるのに奔走したよ。そしてモンスターの暴走がこの街で起こった。大したことはしていない。テイマー達に噛みついたり、髪の毛焦がしたり、気絶させたり、一般の人には基本的に手を出さないように頑張ったよ。


まあ、頭のいいモンスターばっかりじゃなかったからいたかもしれないけど、ボクは見てないから知らない。でもボクもだけれどモンスターだからってだれもかれも殺すようなやつらばかりだと思われて終わるのは(しゃく)だったんだもの。


アイツらテイマーとボクらモンスターは違う。ボクらのほうがアイツらテイマーとは違って理性的だって、分かって欲しかったのかもしれない。


暴動のあとこの街にはモンスターというモンスターは1匹もいなくなった。そして動物も近寄らなくなった。無理やり飼われていた動物達はどんどん死んでしまうようになったらしい。


モンスター達に共感してくれたんだって後から知ったよ。優しすぎるって罪だよね。この話は風の噂で聞いたんだ。


だってね、ボクはボクじゃなくなった場所にあんまりいたくなかったからまた逃げたんだ。他のモンスター達も、苦い思い出だけが残るから逃げただけなんだよ。


そしてまたこの街から離れて適当に暮らしていたら、ここの領主が居なくなったからロッテリーはもう安心の場所になったって噂で聞いたんだ。


テイマーもいない、テイマーギルドっていうのも撤退したって聞いて、あんなに人間がそれで繁栄していたのに、まさか、と思ってつい見に戻ってきたんだ。


本当に、いなかった。本当に、本当に、本当に、街だけ残してテイマーもテイマーギルドもなくなってたんだ。でもね、そこに住んでた普通の人々はそんなものなくても生き生きしてたんだ。


あの食べ物に困って子供にだけ食べさせてた村の、あのキラキラしたボクの欲しかったそれを、この街の人達は持ちつづけてたんだ。


不思議だった。元気な人間がいっぱいいたんだ。キラキラして、力強くて、でも儚くて、人間ってスゴいなぁって思ったんだ。


だからね、その後もここに残って住み始めたんだ。その不思議が知りたくて。ただもう人間に真っ向から関わるのはゴメンだったから、前みたいに動物のマネをしてモンスターってばれないようにして。


ボクはね、ボクは、ボクとして一緒にいれるトモダチを求めていたんだと思うんだ。


テイマーは大っ嫌いだ。だからモナちゃんがあのテイマーと同じにならないと口約束してくれたとしても、ボクはあのテイマーのヤツラを常に思い出してしまうから、もう君とは居れなくなる。


今トモダチでも心が離れてしまう。


これが今までのボクを作り上げた過去だよ。ボクはボクであり続けるために、ボクがモナちゃんを嫌いにならないために、ボクがモナちゃんにテイマーになるかどうか聞いたのはこういうわけがあったんだ。


でもボクのことはボクだけのことだから。


もしモナちゃんがテイマーになることを決めた日が来ることになったら、必ず教えてね。


ボクはこの街を風のように去るから。


テンクウちゃんの1人語り終わり。次回から通常に戻ります。




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