第89話
私の小気味いい歌が空気に消えゆく。
「ぶるんる、ぶるんる、ぶるんる。はるちるがるとるぶる。おるいるけるのるまるわるちるにる、のるばるらるがる、さるいるたるよる。ぶるんる、ぶるんる、ぶるんる。はるちるがるとるぶる。」
「なにそれ。」
足が止まった。
「えっとー、蜂の歌?正式名称覚えてないな。」
「えっ・・・どこにハチの要素が?」
今はお昼の手伝いまで終わったのでテンクウちゃんとお外を散歩中なう。2人きりなので普通に喋って歩いている。いい天気。歩いてるとそこそこ暑くなるけどどこから吹く風が冷たいので相殺してくれる。
「んっとね、もっかい歌うね。」
「うん。」
「ぶんぶんぶん、はちがとぶ~」
「違う歌だよ!?」
「ぷっははは!ごめんごめん!同じ歌なんだよ~あははははは!あのね、ぶんぶんぶん、の間に“る”を足して歌う遊びだよ。さっきのは足したバージョン。」
「る。る?」
「る!」
「普通のほう歌って」
「オッケー。せーの!ぶんぶんぶん、はちがとぶ~。おいけの周りに野バラが咲いたよ。ぶんぶんぶん、はちがとぶ~。・・・次はさっきの、るを足して歌うやつ歌うね。・・・せーの。・・・ぶるんる、ぶるんる、ぶるんる、はるちるがるとるぶる。おるいるけるのる、まるわるちるにる、のるばるらるがる、さるいるたるよる。ぶるんる、ぶるんる、ぶるんる、はるちるがるとるぶる。」
「・・・・覚えるとなにか良いことでもあるの?」
「ないよ」
「ないの!?なんでそんなの覚えたの?」
「えっ楽しいから覚えたよ。うーん。趣味?」
小学生の時に流行ったんだったっけかな~。歌だけ覚えてしまってるの巻!ヘムヘムヘムヘムヘム!
「シュミ。シュミかー、奥が深いね」
「深かったのかー。そっかー。」
「口の運動になりそう。」
「それな!テンクウちゃんは頭いい!」
「えっへん!」
猫のビャッコくんとコエキちゃんは私が仕事している間に、仲間がお迎えに来たらしいので今は出掛けてしまっている。この歌ふたりにも聞かせてみたかったな。テンクウちゃんと同じ反応したかもしれない。後で聞かせてみよっかな~。
あ、そういえば。
「テンクウちゃん」
「ん?」
「こないだ2人っきりになった時色々お話したじゃない?だけど詳しいことってそんなに話せなかったから・・・もしテンクウちゃんが良ければ、テンクウちゃんの今までを聞いてみたいなぁって思ってるんだ。モンスターって人間には計り知れないくらい生きてるんでしょ?色んなことがあっただろうけど、タヌキさんたちも、猫さんたちも、そこには仲間がいる。けど、テンクウちゃんの仲間って見当たらない。この辺りにいないだけかも知れないけど。その・・・私・・・聞いてみたいなって・・・」
「・・・・」
「・・・・」
テンクウちゃんは神妙な顔つきになって黙ってしまった。
「ごめん、不躾だったね。」
「あ、違うんだ。あのね、うーん。」
歯切れが悪い。なんだろう。
「ボク実はね、あまり人間を信用してはいないんだ・・・っでもね・・・。モナちゃんは、ボクの足を治してくれたのもあるからっていうのもあると思うんだけど、信頼してるし、好きだし、友達だとおもってる。」
「うん。」
「だから喋ってもいいかなとは、なんとなく、思うんだけど・・・・ボク長く生きてるからどこから話せばいいのかわからなくって。」
「お話とっても長いの?」
「たぶん?遊ぶ時間なくなっちゃうかもよ?モナちゃんの境遇とかは、キジンさんがいた所でも聞いたしあの後サルのところでも少し聞いたし、昨日寝る前もビャッコ達に説明して色々ボクたちの質問にも答えたりしてくれたでしょ?そのくらい長い話になるかもしれない。」
「聞いてみたい!」
「ほんと?」
テンクウちゃんがソワソワしている。シッポが下に向いたまま軽く揺れている。少し嬉しそうに見えた。
「あの小陰!」
「ん?」
「モナちゃん。ボクの話長いかも知れないから、あの小陰で座りながら聞いて!」
テンクウちゃんに言われるがままにそちらに移動した。そこそこの大きさの巨木。不思議の国のアリスが一番最初にお姉さんと一緒に居たあの小陰みたい。とっても素敵な小陰だ。
こんな小陰ならクララだってウシに驚いてついつい立ってしまうよね。アルプスの山の夏もココと同じくらいの気温なのかなぁ。いや、ここの標高がどのくらいかしらないけど流石にアルプスの山のほうが寒いよね。うん。たぶん。アルプス行ったことないからわからないけど。
小陰で座ってひと息ついたら、テンクウちゃんが身の上話をし始めた。どんな話が聞けるのだろう。
「まず、ボクはね、モンスターってことは話したよね。」
「モンスターは血が動物とも人間や獣人とかとも違うんだよね」
「うん。それでね。モンスターってどうやって生まれるかって誰かに聞いたこと、ある?」
「・・・ない。えっ動物とかと違うの?」
「動物から進化してモンスターになる場合と、最初からそういうものとして生まれてくる場合があって、そういうものとして生まれてくる場合は、動物や人間みたいにそれの流れや規則性に則った形で生まれてくるものと、基本的には何もないと言われる空間で勝手にそこに生まれるっていう場合があるよ。」
なんか凄い話だ。
「でね、ボクはね、ボクがボクだと気づいた時には、もうボクがボクだったんだよ。そしてそれはボク以外、誰も見ていなかったから、後からこの規則性の事とか聞いても結局ボクは、進化してそうなったのか、それとも何もない所から生まれたのか、たぶんどちらかだろうとは思うけど、結局どっちから生まれたのかわからないままでいるんだ。」
ほとんど「ぶんぶんぶん、はちがとぶ~」の“る”付け遊びで埋まった回(笑)皆様は間違えずに言えますか。私は言えます(ドヤァ)・・・っていっても寿限無とか覚えるより楽だから誰でもできるよね。たぶん。
最近カップ麺のCMで寿限無みたいなCM流れてんだけどついつい画面を凝視しがち。あれ覚えてみたい・・(メラァ)
早口言葉とか結構言えないけど、好きです。「赤巻き紙、青巻き紙、黄巻き紙。」・・・今さらだけどなんなんだ巻き紙って。「東京特許都か局。」とか。色々あるよね。コロナ過で人に会えなくなると口が動かさなくなって病気かも?と疑う症状出やすい人は早口言葉みたいのをやるといいらしいよ。
口の筋肉よ!衰えてはならん!
最近「能筋」系漫画が世にはびこりまくってて、気がつくと私は何を読んでいるんだろうと我にかえってしまうときがあったりなかったり。
ではまた次回!