第72話
「本当かよそれ」
「ええ今申し上げたとおりです」
「そうか大変だったな」
「それほどでも。ではこちらの方はお引き取り願います。」
「了解した」
「お前も運が無かったな。王子を暗殺なんてしようとするからだ。しかもメイドまで使って。」
そこはアンドレの屋敷だった。アンドレの屋敷の中では人の引き渡しが行われていた。居たのははプントと騎士団長のカメーリャと数人の騎士団員、そして紐で縛られているアンドレのコックだった。
「何故だ何故バレたんだ」
ブツブツと言っている。
何があったか知らないが身は綺麗なのに心がズタボロになっているような顔をしていた。きっと何かされたんだろうが何も分からないし騎士団員としてはその身柄を持ち帰って詳しい事をさらに吐かせるだけである
「企業秘密です」
初老のプントはいい笑顔をカメーリャ達に向けた。
「見苦しいぞ行くぞ」
カメーリャと数人の騎士団員は元コック長という名の罪人を引き連れて館を去っていった
「お坊っちゃま、本日この後はいかがなさいますか。」
「昨日言った通り変更はない。お兄様がこちらの館に移動してくるそうだから、俺はここで待つ」
「そうですね。ではそのように取り計らいます。お伝えしておかなくてはならないことがあります」
「どうした?」
「実は昨日の夕方頃からモナさんが熱を出して倒れているということです」
「なんだって!?」
「しかし本日はディオ様がこちらに来られるのを待つということで決定されたのでアンドレ様は明日以降お会いになってくださいませ」
「謀ったな・・・」
ぐぬぬぬっと顔をしかめている。王子のする顔ではない。
「いいえご予定を聞いたまでです」
「その予定を言う前にその話を聞かせればよかっただろう」
「何をおっしゃいます聞かれなかったので言ったまででございます」
「屁理屈を」
「あらでは予定を変更なされますか。ディオ様がこちらにいらっしゃるというのに?」
「そ、それは・・・・・・」
「ではご予定の通りにいたします。昨日プントからご報告があった通りコック長を拘束しましたので本日の晩餐から変わりのコック長にふさわしい方をこちらにお呼びする手筈になっています。」
「こんなに早く来るのか?昨日の今日だぞ普通見つからないんじゃないか。コック長がいなくっても今までやってくれていた者達がまだまだいるだろう?」
「いいえ、前からこちらに来たいとおっしゃってくれていた方がいらっしゃったのです。何でもプントさんの昔のお知り合いの息子さんだそうで身元ははっきりしていますしこちらは安全です。元々貴族街のレストランで副料理長を務めていたらしく自分の厨房を持ちたいと前から言っていたそうなので渡りに船ということでこちらに来ることを即決したらしいです。」
「それは本当だったら普通は店を持ちたいっていう意味ではなかったのか」
「自分の厨房を持てれば何でも良いそうです」
「変な奴だな」
「そうですか?結構そういう人多いですよ」
「そうなのかへー。でもプントの知り合いの息子かぁ。ここに来てプントの故郷だっていうことを再認識したなぁ。」
「あちらも渡りに船という話でしたがこちらの方がもっと渡りに船でしたしね。」
「苦くって死ぬかと思った・・・」
ふへぇって変な溜め息が出てしまった。ここは地獄か・・・。
「大げさね~~。そのうち慣れるわぁ。でもはい、これはちゃんと薬を飲んだご褒美よ~~」
「飴だやったー!」
体が動かないので口をあーんと開けた所に入れてもらった。とっても小さい、私の5歳の指くらいの小さい飴だった。うむ!?これはリンゴのお味。うまぁ~。ここは天国か。(ゲンキン。)
ミリーちゃんとユリーくんは帰った。お手伝いに満足したらしい。子供の手伝いは親御さんが近くにいると大概「あれはだめ」「これもダメ」と制限をかけてしまうことが多い。
守る一環だからこそ通常の行動とも言える。が、しかし、子供の成長などを考えた場合ある程度は経験をしないと失敗も成功もせず、出来ないのが当たり前になってしまう。
やってみて出来なければ得手不得手は人それぞれ違うのだしと誰もが思う。しかしやってもいないのに出来ないと決めうちしてしまうのは傲慢だ。
あと不憫なことに人間と言うものは一回くらい出来なくても次はやってやると燃えるものが多い。むしろ一回で出来ないほうが燃える。
だからこそ何事も、得に本人が興味を持ったのなら尚更、無理難題でなければ、経験させるが有用なのだ。
スミコットさんはその辺りを上手く子供に教えるのが上手。さすが娘を2人育てたことだけはある。経験は血となり肉となる。
私は多少疲れたけれど、ミリーちゃんとユリーくんの成長の助けをしたと思えば痛みなんて・・・いや、やっぱり痛いのはあんまりしたくないかな。まだ5歳だし。体壊したくないな。
スミコットさんの笑顔が時々恐いけど、今は大人じゃなくって子供なんだから駄々をこねるなりして次回は回避しようと心に誓った。
「ところでどういう薬だったの」
今更だけどハタと気づいた。なんの薬か聞かずに飲んだ。あはははは。
「解熱剤って言っていたわ~~。強い薬は子供の体に負担だから熱を下げる薬だけ処方しているみたいよぉ」
なんともそれはありがたい話だ。羞恥心に耐えながら飲んだ甲斐があったというものだ。
「・・・あれっポーションだとだめなの?」
「ああそっか、説明してなかったわねぇ。レフティさんもミギィさんも薬にあまり頼らない人達だものねぇ。」
着替えながらみんなの安否とか街の現状とかさらさらっと聞いたけど、自分のことなんて後回し中の後回しである。
「えっとねぇ、ポーションは主に傷、怪我の回復薬。高級ポーションが毒を治せるのは毒を薬へと反転させて毒で起こった体内の傷や怪我を修復できるからなのよぉ~」
「そうなの!?」(東急リバ●ル)
「解熱効果は全然無いし今回魔力使いすぎのいわゆるオーバーヒート状態だから、魔力回復薬なら治るけれどもポーションでは治らないわ。」
「そうなの!?」(東急リバ●ル)
おお・・・そうだったのか。そういえばポーション以外の別の薬も色々あるって言うのは話に出てたな。高級ポーションが馬鹿高い値段だったから、万能薬だと思い込んでしまったけど、そう言うことじゃなかった。
「オーバーヒート・・・」
「子供にはよくあることなのよぉ?とっさに出た魔法が大きすぎて倒れたり、体内で魔力が蓄積され過ぎて溢れて目を回したり、ね?でも体が成長しきっていない子供に魔力回復薬はお酒と同じで酔いやすいし成長を妨げやすいのよぉ。身長伸びなくなった話も多いし人によっては子供を作れなくなったとも聞くわ。もちろん男性も女性も関係なくね。」
えええええ、怖すぎるんだが。
「うん。自分の力で頑張って治すね」
これしか言えないよね。大丈夫。
なんとかなるなる。きっとなる。成せばなるならねばならぬ何事も、きっと魔力もすぐ回復。byモナ心の俳句(?)
友蔵・・・私頑張るよ。(ちび●る子ちゃんのおじいちゃん)
「そろそろお店に戻らないと。1人で大丈夫かしらぁ?」
「クゥン・・・」
テンクウちゃん、いつの間にか戻ってきてたみたいだ。
「テンクウちゃんもセイリューちゃんもいるから大丈夫。」
多分ね。テンクウちゃんもセイリューちゃんも居てもさっきは寂しかったからね。
「調子を取り戻すにはゆっくりすることよぉ。眠るといいわぁ、お休みなさい」
「おやすみなさい」
しかし目は冴えているのである。
次回は28日予定。
鉄分不足なのか睡眠不足なのかここ数日よくふらふらっとします(笑)