第395話
「マジで行くんですか?俺、プントさんに怒られてしまいますよー。大体、本当は王都にとっくに出発してたはずなのに、祭りなんかに参加するって言うから。そりゃあ俺も祭りは好きですよ?好きですけど、ほら結果を言うなれば、騒ぎに巻き込まれているじゃないですか。貴族っていうか、おうぞ・・・ごほん、そう、なんていうか立場の高い人達なんだからもっと自分の身を大事にしてもらいたいですね。護衛もいますよ?いますけど、そういうことじゃないんですよ?え?わかってる?いやいやいや、むしろわかってるならやらないで下さい。わかってるならやっちゃダメなやつ。わかってなかったからこそ、お小言もらって、ごめんなさいするアレでしょ?わかってたなら、お小言ノーダメージだよ?言ってるこっち切なくなるからね?それなのに今から冒険探索するんですか?幽霊出るかもなのに?なんか凄い事を成し遂げてくれたっていうおふたりお墨付きもらってるぐらいの神官さんが怯えてるぐらいのことらしいのに?ほら、お祭りに来ていたキャラバンだかの人達とか、冒険者チームもまだこの街にいましたよね?その人達に任せましょう?帰りましょう?ね?いや、俺、ムリ。無理。アッ、ヤダ、アンドレ様!?その子供特有のしょんもりした哀愁で俺を籠絡しないで!?振りほどけそうな力の弱さでズボン掴まないで!振りほどくの逆に難しいんだけど!?ちょ、リネア!助けて!俺、謝るから、こないだ勝手におやつ食べたの俺です!ごめん、謝るから助けてぇぇ」
「いやぁ、すんげぇ喋るニイさんだな」
「申し訳ありません、私の護衛で今日は少し小うるさくなってしまっていますが、実は彼怖いのが苦手なだけなんです。聞き流してあげて下さい。」
顔の濃いオッサンとディオは先頭を歩きながら後方のペラペラグチグチ言っていたチェルキョについて語っていた。
顔の濃いオジサンの3人のうち1人はついて来てくれたが他の2人は元々騎士団の人手不足での手伝いを続行させるために帰った。神官が妙な事を言っていた事やネズミ駆除の手伝いをしていたディオやアンドレ達の面々も騎士団の面々にこの場を離れることは伝えなくてはいけなかったのでそれの報告も任せてしまったのだ。
報告の類をあまり知らない人間に全て丸投げするのも本来ならやってはいけないことだ。口伝なんて言い方ひとつで印象がガラリと変わってしまうからだ。
ロッテリーにいるほとんどの騎士団員はディオ達の事を王族だとは知らず、単にたまたま療養に来ていたお貴族様ぐらいの認識だ。王族だと知っている人間は王都から離れたココでは騎士団上層部ぐらいのものだ。
多少伝え方が柔らかくなってしまっても問題ないだろうと、ココで1番判断をする人物、ディオ自身がそれでいいと判断しそうさせた。
「申し遅れました。私、ディオと申します。地下では私の連れの女の子を助けて頂いたのにお礼もあまりできずに申し訳ありませんでした。その事もありまして今回の調査、私達がやらせて頂きますね」
「ああいえ!私こそ、ご挨拶が遅れました!ええと、神官をやらせて頂いてます、ククリと申します。」
「俺も挨拶しておいたほうがええか?俺はコニーカツってんだ。よろしくな。ところでそのキツネ可愛いな?ククリさんのキツネか?」
顔の濃ゆいオジサンはコニーカツと名乗った。のっぺりとした塩顔に独特の髪形。なぜ頭にろうそくのように毛が立っているような形状になっているんだろうか。耳の上辺りには毛があるのに天辺付近には毛がほとんどなく、なのに頭の天辺付近のさらに中央だけろうそくのように毛が立っている、そういう不思議な髪形なのだ。
そう、モナがいたら言うことだろう。おやじっちっぽいオジサンがいる・・・と。
「いいえ、こちらはネズミの騒動で迷っていたみたいで気づいたら神殿の中にいたんですよ。かなり大人しいのでどこかに飼われている子だと思うのですが。」
「その子はセイリューだと思うぞ」
ディオとコニーカツとククリの3人を先頭に、後ろにリネア、チェルキョとアンドレがついてきていて、アンドレが後ろから声をあげた。
「モナが確か、世話したキツネの話をしてたと思う。な、チェルキョ!」
「そうでしたかね、そうだったかもしれません。それよりも俺も神殿行かなきゃだめですかぁぁ」
引け腰のチェルキョはほっておいて、ククリは「ふむ」と訝しげにキツネを見つめた。
「弟さんがいう、モナというと、もしやあの時倒れた女の子の事では?」
「そうですね」
「あの子は!あの子はあの後大丈夫でしたか!?また倒れたりとかしてませんか?私も頑張ったつもりですが、魔力がごっそりあの子に吸収されて驚きました。たまにああいう子供に出会うのですが、多分アレですよね。詳しく診断していないので勝手な予想ですが、“魔力過多”の病気の正反対の病気の“魔力漏れ”になりやすい病の子供だったということですよね?他の先輩神官の人がまだ騒ぎの後に戻って来ていない人もいるので、私の憶測が大きいのですが、魔力漏れ系統の病は魔力過多系統の病と同じく、心の臓に負担が大きいので命を削りかねません。無事ですか?」
「ええ、無事ですし、もう魔力の漏れも今のところ収まったようです。ククリ神官様のお陰です。」
ディオもアンドレもモナが走り去ってしまった後キチンと姿を確認してはいないけれど、スズちゃんがそばにいた。
スズちゃんがそばにいる事で、スズちゃんはモナの体とリンクしていることを知り、モナの体になにかあればすぐにわかった。
しかし、ディオとアンドレの心配もよそに、起きた後のモナは力が増していて、スズちゃんから出てくる言葉は、力がみなぎってて元気いっぱい!だよー!など、能天気なものばかりだった。
フテゥーロちゃんが見つかった後はスズちゃんから“モナママの元気な匂いするー”といったフテゥーロちゃんからの言葉もあり、不調は無さそうだった。
今回のネズミの駆除に、モナの魔力を大いに利用した為に、『モナ、ネズミで疲れてるから、スズとフテちゃんモナのとこ戻るね!』と言われたので了承した。アンドレはそれについて行きたがったけれど、後でみんなで会いに行くことで納得させた。
ディオは少し抑えていた。勝手に走って行ってしまった女の子に今会ったら、怒ってしまいそうな気持ちだった。
無茶をする子供は多い。ディオ自身も小さい頃は無茶をしていたのかもしれない。弟や妹が生まれてから、気にかけるようになってから、子供というものは無茶をするものなのだと理解するようになった。
でも今回は。
目の前で命が尽きるのかと、心配していたのに。
「ニイちゃん、綺麗な顔がちょっと歪んで怖え顔んなってるぞ」
コニーカツさんに声をかけられハッとした。
「申し訳ありません、少し考え事をしていました」
周りの人に心配されているのをディオが気づくのは久しぶりのことだ。なるべく顔に出さないようにしているのに。
神官のククリ様の腕にいるセイリューもディオを心配しているように見えた。
「あ、もう神殿ですね」
「お兄様」
「はい?」
「コレが終わったら、次こそ絶対モナの所に連れて行って下さいね」
落ちていた手に子供体温の手が触れてきた。不安そうというよりも、ディオを心配する目線でもなく、手を繋いできた弟のアンドレの顔は誰よりもしっかりとしているように見える。
「そうですね」
まさかまた神殿内に戻ってくるとは思っていなかったけれど、この後すぐにはモナの所には結局行けなかった。発見したものが、モノだった為に。
結局、チェルキョはプントに怒られることになるし、王都に戻れるのはさらに遅れることになるのだった。
ディオさんは、モヤモヤしたままモナに会いたくなかったので遠回りしてみたら、その遠回りがめっちゃ遠回りになるルートだった。ってことですね!
何が見つかったのかなー(棒よみ)へへへ
次回は3月6日予定です。小刻み!できるかな!
いつもご覧になって頂いてありがとう御座います。咳がもしかしたら、花粉症かもしれないんだってさ。ごふっ