第382話
あけましておめでとうございます。
今回、少なめです。
「そふ?」
「祖父。お爺さんということですね。父親のさらに父親とも言います。」
なんだか放心しているゴールデンハムスターのゲンブは、わかっているけれど、わかりたくなかったのか「そふ?」と空気が抜けたような声を発していた。そしてそれに対して事細かに説明するゲイリー。
「ばばば、馬鹿にするな!わ、わ、わ、わかっていたけららど、確認じゃい!」
ゲンブの言葉は誰がどう聞いても噛んでるし慌ててるし、なんなら語尾がジジイ臭くなってしまっているけれど、誰もそれに触れようとしなかった。
「祖父はこのあたりに大きなホクロがありまして、この辺りにも農具が倒れた時に切れて、ひっかき傷のようなものがついているので、たとえ似ていてもわかりやすいと思うのですが」
ゲイリーは祖父のゲーリーが目元に2つのホクロが並んでいることと、首に近い肩に大きな切り傷のようなものがあると指摘した。
ゲイリーの服は着るものなんて小綺麗なら何でもいいと言わんばかりに襟首が少しよれたUの口のシャツのような服を着ていたので、指で縦にスパッと傷があったのだと軽く指でなぞるように示してみせた。
「あら、そんな大きな傷があったの?」
「そうなんだ。子供が農具の倉庫でかくれんぼか何かをしていたらしくって、大人に見つかった所で驚き過ぎたらしくて引っ掛けて農具倒したらしくてね、子供を助けた勲章だったらしいよ」
「さすが、ダーリンのお爺様!素敵!出来たらその傷口も私が縫製して塞ぎたかったわぁ・・・」
大きな切り傷を想像して傷口を縫う自分を思い浮かべてヨダレを垂らしそうになっている美女は目がおかしかった。
「ハニーがうっとりしていてとっても可愛い」
「いや、めっちゃ怖いんだが?」
ゲンブはもちろんドン引き1択である。ゲンブはゲイリーの胸にムササビのごとく飛びついていたけれど、アッチには絶対に行くまいと、服が千切れんばかりに拳を固くしたのは言うまでもない。
「しかし、まあ、最初はそうだった。」
ゲンブは思い出しながらポツポツと話しだした。
「怪我が治ったと聞いたのだ。前にあった時に。」
その前というのは最後に会った20年前のことだからそれを話した人は祖父のゲーリーではなく、父親のヒューリーのはずだ。
「私は喜んだ。元気ならもっと色々教えてくれとお願いしたけれど、昔と違うから教えられないとか言われた。まあそんなもんかと思っていたけれど、ゲーリーじゃなかったんだな」
思い起こせば違う人間だと簡単に気づけたはずなのだ。ゲーリーと今目の前にいるゲイリーは瓜二つと言ってもいいほどそっくりだったけれど、ゲイリーの父親のヒューリーは少し似てはいたけれど、にていない部分の方が多かったからだ。
「モンスターと人間の生きる長さが違う事は分かっていたけれど、こんなに差があるとはまるで分かっていなかった。とっくに死んでいたなんてな。笑ってしまうな。」
この小さな生き物の顔は今は下を向いて顔が見えない。ゲイリーは自分の手を広げてその手を見つめた。
この小さなモンスターはこの手で潰せる程度のサイズだ。この手よりもさらに小さいマリーの手でも潰せそうにとても小さい。
しかし単なる動物ではない。この小さな体で、爪で、ゲイリーの服が引き裂けそうだ。そう、しっかりとモンスターなのだ。知性のある、奇妙な生き物。
「ハニー?この子は解体しちゃいけないからね?」
「はあっはあっ・・・ごきゅり。じゅるっ、ごめんなさい。興味深くて。」
「ひあっ!?ぬぇ!?わ、わ、わ!?」
マリーの顔が妖艶に高揚している。間近に近づいているのをゲイリーのセリフでようやくゲンブがマリーの顔の近さに驚き過ぎて、じゃかじゃかじゃかじゃかとゲイリーの顔をまっすぐ登って後頭部に隠れるように逃げた。
「痛い」
「ダーリン、顔に可愛い切り傷がいっぱい!うふふふふふ」
マリーの白衣のポケットから小さな入れ物と荒いハンカチのようなものを出して、小さな入れ物の中の液体をハンカチのような物に染み込ませて顔にポンポンと軽く触るように塗っていった。
「ハニー、まさかそれ新薬かい?クククク」
「あら、目に染みた?匂いが少ない消毒液の試作品だったのだけれど、うふふふふふ」
「これは、目に、染みない!最高だ、ハニー!」
「良かったわダーリン!」
「でも威力が弱いな」
「やっぱり?そうなのよねぇ?」
「人間怖い。ゲーリーなんで死んだんだ!お前の孫達めっちゃ怖いんだが!?ひぃっ」
ラブラブしながら新薬検証しつつなぜか、その場で楽しくダンスのようにクルクルクルクル回り始めたので、ゲイリーの後頭部に避難したゲンブはこの約2分後、たった2分後に目を回して倒れたのだった。
次回は明後日の12日の予定です。
あけおめ!ことよろ!
今年、この作品は終わるのだろうか?