第370話
レフティは考えていた。モナちゃんが説明したことについて、だ。
ユーグリッドがモナちゃんに疑いを向ける要因は理解した。
理解したが、だからといって“周りにとっての都合のいい真実”をその子の口から出させるわけにはいかない。そんなの単なる嘘である。
あと、疑わしいからといって、口先だけでの物事を決めきってはいけない。
情報は雄弁で有り難いが、人間と言うものは結局は行動が全てだ。
口八丁手八丁、上手いことやる奴らもいる中で、全てを話そうとしてくれた事には、少し信用してくれているという嬉しさはあるが、モナちゃんが全て話たことで周りを警戒しなくなってしまうのもこの世界では、生き抜く事に些事を投げたと思われることもある。
特に、別の世界から来たというのなら尚更だ。
“共依存“という言葉を知っているだろうか。
共に支え合っているという、聞こえはいいが実情は
“私がAを助けてあげないとAは生きていけない”
“Bは私を必要としているのだからBは離れるわけがない”
と、お互いがお互いに干渉し合って、お互いを求めてお互いをお互いの心の檻に入れて、お互いに理解ある人物は他には居ないと思い込ませて世界を狭くするという、実に厄介な関係性だ。
親子でもカップルでも成り立つが、そこは「愛だから」という言い訳だけでどうにかなる可能性が高い。
そして他の世界へ渡ったという人間なら、まず起こり得ることがホームシックだろう。そして優しくされたのなら?そして信用しきったのなら?
依存というものは恐ろしい。
レフティは薄々気づいていた。兄のナエは、レフティに依存していた。ただレフティにはナエのことは結構どうでも良かったし、むしろウザいとも思っていたので“共依存”にはならなかった。
突き放せば諦めると思っていたのに、ミギィが手を伸ばしてしまった。ミギィはナエのことは嫌いではなかったために結婚まで許した仲にはなったけれど、「王都で一旗あげるぞ!」と言う言葉に呆れ果てて、「ひとりで行くならお好きにどうぞ」と突き放していた。
恨みのこもった目を忘れた訳じゃないけれど、今回の急な訪問にはとても驚いたものだった。
話は戻すが、モナちゃんは見た目通りの5歳の子供ではない。らしい。
だからと聞かされたからって、見た目から得られる情報のほうがレフティにとっては全てである。どうしても見た目に対しての対応になる。
そんな子が話した全てをもし飲み込んだとしよう。そして全てを知った上でなにかふとした瞬間に事件でもおきたとしよう。モナちゃんは言わないかもしれないが「全て信用して話したのに!」と責められる自体も起きかねない。
そう、ナエの二の舞いだ。
そうならない可能性もある。しかし人間は分からない。まだ本当の子供、5歳の女の子であったのなら、そんなことも考えずに、どこかで語られる物語のように、全て聞いて受け入れる事ができたのかもしれない。
しかし総合的に考えて、たぶん中身は5歳では無いのは明らかだ。彼女の全てをレフティは背負い切れる自信など無かった。
ムキムキだろうと老体に鞭打つような事象はごめんである。レフティは別に若いわけではない。
そして今日それを聞く前に、実はもう知っていた。
あの声が教えてくれた。
あの声のことは信用していたわけではなかったけれど、全て言っていたことは事実だったのだと、確信に変えた。
あの声の主達、約10数年後のアンドレだ。10数年後のディオも近くにいたらしい。
ゴールデンハムスターのゲンブはガクシャセンセーとやらと一緒にいて「夢見」の魔法について研究していたのを間近で見ていたらしい。
その中でこの近くにいるという女神がいる場所を見つけたとかなんとか。その発見が今の神殿にあるという女神像の起こりだとかなんとか。
それを聞いた時は驚いた。お前どれだけ生きているんだと。モンスターと言うものは長生きとは聞いていたけれど、あのちみっこいゴールデンハムスターが少なくともレフティよりも年上の可能性が高かった。
ガクシャセンセーを探しているらしいが、とっくに死んでいるのも気づいていないのだろう。モンスターと人間の寿命は差が大きい。
世に聞くエルフしかり、血というものは抗えない。寿命の差もどうしようもない。
声の主のアンドレも、なんだか抜けてるゲンブも、この先の未来、ロッテリーの街は完全に無くなるらしい。
そしてそのきっかけのいくつか思い当たることで阻止して欲しいと言われているのがナエの死とユーグリッドの死だ。
なぜかどちらにも今、モナちゃんが深く関わっているようだ。
声の主のアンドレからは、モナちゃんの力は覚醒させても構わないけれど、暴走はさせないで欲しいという、無理難題を言われた。
無茶言うな。
というか覚醒ってなんだ。神殿でしてしまったかもしれない。夏祭りだからって離れるんじゃなかった。
モナちゃんは一度死んだらしい。死んでしまったから、未来のアンドレは魔王になったそうだ。意味がわからん。死んで悲しくなって魔王になることを選んだとかどういう未来だ。
ディオの力で今ここに5歳の姿でこの世界にしかも時間を遡って落ちてきたらしい。
モナちゃんが倒れていた場所がすなわちモナちゃんが死んだその場所なのだという。
出来ることなら元の世界に帰る手助けも出来ればして欲しいとかなんとか。
アイツは本当にワガママだ。私達の事を師匠呼びしていたけれど、今のあの8歳のアンドレにその兆候はなさそうなのだけれど。
今の8歳のアンドレの運命も変わりつつある。いや、もうとっくに変わっているのかもしれない。
レフティにはそのあたりの判断ができない。未来なんて見たこと無いし、見ようとも思わない。生きているこの1分1秒が過ぎていくごとに未来になり、過ぎた時間が過去になるのだ。
「レフティさん、みんなまた集まりましたよ。カメーリャさんもいらっしゃいました。」
声をかけられた。ユーグリッドには後でまたキツイお灸をすえるとして今は立ち込める暗雲を晴らす作業が先決だ。
隣にいるモナちゃんは少し不安そうだ。頭をクシャリと撫でると力が思いのほか強かったのか、髪がぐしゃぐしゃになってしまった。
近くにいるビャッコが冷めた目をしている。
1人目の男はナエ。女はレフティ。
2人目の男はシュエ。女はオウジュ。
最後の3人目の男はアンドレ。女はモナ。
運命は変わった。
それを見ていた1人の男がいた。単に偶然近くに居合わせただけであったのだけれど、見るのは好きだった。
男は別に何かを企むでもなく、何かを楽しむでもなく、そしてすぐに興味も失せた。
男は昔、女を生き返らせたことがあった。
“なんとなく”だった。意味など持ち合わせていなかった。
男は大昔、人々によって、始祖だとか、創造神だとかそういう呼び方をされた。
今はまた名前などなくなった。
今もまた放浪している。
次回は3人目の男(もう答えは出てる)のお話予定です。あ、もちろん未来のほうですよ。今までも未来の話だったでしょう。ふへへ。
最後に出て来た男は、以前5人の兄弟の話の中に出てきた変わり者の男のことです。
分かりづらくてすみません。その話もそのうち書きます。一応、創造神って呼んでおけばいいと思います。創造神っぽくはないんですけど。一応神を生んじゃえる男なので、まあ、一応。
ちなみに創造神って書くととんでもスキルのデミウルゴス様が好きですね!一緒にちまちま梅酒とか飲み交わしたいですね!
こっちの作品の創造神は可愛げなんて無いので、デミウルゴス様可愛くて仕方ないです。
おじいちゃん!!おじいちゃん!!(歓喜)
次回は25・・・26のどっちかですw。25にはアップしたい。