第37話
「テンクウちゃーん、お待たせー」
「ワフッワフッ」
ユーグリッドさんと庭に出た。
「おー、おー。すっかり仲良くなったなぁ。」
「ユーグリッドさんがあの時に高級ポーション売ってくれたおかげだよ。本当にありがとう。」
「どーいたしまして。」
ニヤリ顔で笑う熊。本物の5歳が見たら泣くぞコレ。な笑顔だ。悪そーな顔。そしてクマ。めっちゃ熊。服着てる?関係ない。だってくまだもん。
「火災の熊さん達は大丈夫そう?」
「ん?ああ、アイツから聞いたんだったな。ん。みんな無事だよ。」
「それは良かった。あっレフティさん達だ。おーい」
手を振ったら手を振り返してくれた。
「ただかなり混乱している。怪我人はほぼ居なかったが住んでた場所は失くなってしまったからな。他の騎士団からも支援も来てるし、貴族から冒険者を送ってもらっていて人手は足りてるが、急に場所が変わるとどうしてもな。」
「枕が変わると寝られないもんね」
「だよなー」
「わふっ?」
獣人も枕が変わると眠れないのは同じなのか。ほえー。支援者の人達も被災者の熊さん達と一緒に行動しているらしい。ていうか冒険者?冒険者ってあの冒険者だよね?
「まだ熊さん達見かけないけどこっちまで来るんでしょ?」
「貴族達がな、貴族街周辺で野宿をする獣が居ること自体忌避しているから、昨日1日はどうにか説得したが今商店街前の中央公園に移動中だ。」
「ユーグリッドさんはここに居て良かったの?指揮は?親戚居るんでしょ?」
「ハハハ、心配すんな嬢ちゃん。仕事出来る奴は他にも居るんだぜ?もう一人の副長と交代してきたから大丈夫なんだよ。」
「そっかーなぁんだ。」
頭ワシワシされた。ってか副長って他にも居るんだね。騎士のシステム知らないから重要人物2人ともこっちに居るとか大丈夫か!?と思ってたけど心配損だったようだ。
「それに砦の手筈と移動組の現状の齟齬が発生しないように・・ってな。こんな短距離で“問題が!”なーんて起きた日にゃ、目も当てられないだろ。」
「なぁるほど。」
大量のクマ!かー。楽しみなような、でも被災者だからなー。素直に喜べない。他のクマもユーグリッドさんみたいに強面なんだろうか。コワモテコワモテ、クマクマさん。クマさんクマさんクマクマさん。
ユーグリッドさんみたいにtheクマァ&コワモテが大量だと、私また泣くかもしれん。本能的にビエッって出たからね涙。叫ぶのはあまりしたくない。
「こわもて?」
「あ?」
「みんなユーグリッドさんみたいな顔してる?」
「・・・。ぶあっはっはっはっはっはっ!!」
「んなっ」
「腹イッテェ~!はははははは!」
「なんで笑うの~!?」
「そーだな、そういや俺の顔みて泣いてたもんな!アーッハッハッハ!熊、怖ぇよな!いやいや、それが普通だ。普通なんだが、お嬢ちゃんの口からそんな心配そうに言われるとは思わなかったぜ。」
「私だって子供だよ!女の子だし!」
「だな。スマンスマン、クククククッ。」
笑いを止めて下さい。おのれ、クマァ。
「心配しなさんな。普通に小熊も居るし、人間に近しい身体をしている獣人も居るし、お嬢ちゃんが泣くこたぁ無い、かもな?クックックッ」
「テンクウちゃーん、ユーグリッドさんがいじめる~~~」
「クゥン?」
「あ!?おい、いじめてネェよ」
「ワフッワフッ!」
「ゆけ!大型犬系戦闘機テンクウ☆ちゃん!悪の化身ユーグリッド軍曹を倒すのだ~!」
「ワンッ!」
「あっこらっ」
「わーい、テンクウちゃんの方がつよーい!」
「ワォン!キャンッキャン」
「イッテェ、この犬マジで突進スゲエんだけど!?」
「大丈夫大丈夫。2人とも毛皮があるからクッションになるしそんなに痛くないよ!たぶん!」
「いやいやいやいや、イテェけど!?」
「モナちゃーーーん」
「あっ!ミギィさーん」
「ワンッ」
「うごっふっ」
「あっ」
「あ?」
「ん?」
「アッハッハ、ユーグリッド。ワンちゃんにミゾオチ食らってるけど死ぬなよ?助けないよ?」
「だぁんちょおおおぉぉぉ!」
団長のカメーリャさんが悪い訳ではないのにユーグリッドさんの矛先はカメーリャさんにロックオンしてしまった。笑うからである。
「お待たせぇ。ユーグリッドなんかしたんだべ?アタシもとっちめてあげようか?」
ミギィさんが臨戦態勢に。
「ち、ちげえよ・・・!?」
ユーグリッドさんがどん引いている。レフティさんじゃないから安心して欲しい。
「うん!遊んでただけだよ!」
遊ぶの意味がちょっと違うけど(笑)
「うーん?」
「カメーリャさん、どうしたの?」
「モナちゃんって社交性高いねー。動物と仲良くなるのも上手いし。小熊とか興味あるかい?」
「団長。」
「カメーリャ、アンタ。」
「興味?興味はそりゃもちろんあるよ?」
「なら!」
「でも回りくどい言い方しなくても、お手伝いならするよ?」
カメーリャさんの周りから笑い声が湧いた。言いたいことくらい分かる。
「ハッハッハ~、わかりやすすぎたかな?」
「でも人手は足りてるんでしょ?」
「団長。足りてますよ?」
「熊種と仲良くなりたいのだよ。今この街には異種族がほとんど住んでいないだろう」
「ま、昔は住んどったな」
「森が焼けてしまったこれは良い機会ではと思っている。昔は人が多かったおかげもあって、土地も空いている民家もいっぱいある。領主様や貴族街の人達は今が黄金の時代だとか言っているが、黄金の時代はとうの昔に消え去った。」
「そんなこと言ってるの?」
「人が流出しない為に言ってるだけの戯言だべ。」
なんか貴族って。そういう人ばっかりではないと思うけど、まともな人ほど噂にはならないからなぁ。マトモな貴族の話はそのうち聞けるのだろうか。別に求めてはいないけど。あ、でも、小説とか映画とかの格好いい貴族とかは見てみたいなー。
「ま、今回の避難に来た全てが残ってくれるとは思っていない。けれど、一匙すくえる程度でも構わない。なんでもいいんだ。今後のキッカケを作れる程度でね。そこで、君だ!」
「うん?」
「つまりは懐柔しよってことだべ」
「子供を出しに使う考えってぇのはよっぽどの腹黒だべ」
「腹黒!?」
「あー。」
カメーリャさんの喋り方は、素直にとらえられなくは無いが裏があっても不思議ではない物言いではある。
「納得しないで欲しいかな!?」
「まあ昔はこの街に熊種も沢山住んでいたらしいからなー。俺からしたら同胞が住んでいるというのは落ち着くが、こんな俺でも住み処変える時は大変だったぜ。無理じゃね?」
忌避:意味:嫌って避けること。主に裁判などで使われる用語。
改めてユーグリッドさんは、砦で熊の獣人は1人のみ。騎士団の副長。
庭に出てから長くなる不思議。なぜだ。部屋で話せばイイのに←