第360話
丸々1日遅れました。すみません。
今回は馬の顔の神様、シュエの話です。
男はとある女と関わり合いが深かった。
そしてその男はその女のせいで道を大きく反れた。
しかし人生とは面白いもので、その男は女の事を一生忘れられなくなり、そして言うのだ。
「俺は不幸だ」
「俺は幸せだ」
「俺はバカだ」
3人の男はそれぞれの人生を総括してそう言った。
しかし女は気づかない。男の人生が女のせいで反れたことなど、女は気づかない。
男が自分で決めた道だと女は思っていたからだ。3人の女は真実を知った時こう言うだろう。
「アイツはバカだった」
「あの人はアホだった」
「その人は愚かだった」
女は男に対し辛辣だったが、愛の言葉を吐いていた
修慧は横竪を妹のように思っていた。
修慧は馬の頭の男である。
修慧は日本で生まれた八百万の神の末端の末端の末端のとても小さな神だった。修慧自身も神という自覚も早々無く、生き残ればめっけもんぐらいの存在でしかなかった。
修慧は馬車の道で生まれた神である。馬と共に発展し、馬と共に成長し、馬が引く馬車に活気をも神の力で引いて伸ばした。
そうして修慧は大きくなった。しかし時代はそう長くは続かなかった。
文明開化、近代日本の発展を見ればわかるだろうが、今や車文化が主流で馬で町中を走る人間などほとんどいない。個人で馬を所有している人がいなくなる度に神が一柱消え、また一柱消え・・・・。
修慧は末端の末端の末端だったために、自分のところの大きな神が完全に消えてしまう前に縁を切り、違う道をひとり進んだ。
人の祈りと共に消えるなんてまっぴらゴメンだった。今でも日本の各地には馬車の道の名残が点在してそこかしこにあるけれど、修慧は変わりすぎたそれを見る度に、神の死んだ墓場だと思った。
単なる歴史の一端は修慧にとっては忘れたい事柄でしかなかった。
そんな折、別の場所から迷い込んだ男がふらふらと現れ消えた。しばらくするとまた現れたので後ろをついていくと、異空間に帰る姿が見て取れた。
修慧は異空間が閉まる前に飛び込み地球に別れを告げた。
目の前に広がるのは、見たこともない異国の土地。土地の名前はキングヴァギアン。建国してまだ20年ほどしか経っていなかったそこには、日本では廃れて無くなってしまった馬との生活があった。
修慧は王都の端に居を構えた。日本にふらふらと現れていた男はいつの間にか居なくなっていたので、それきりだったけれど、戻るつもりは一切無かったので気にすることなどなかった。
幾年か月日が過ぎてもキングヴァギアンの生活は安定したものだった。修慧は日本の生活など忘れかけていた。
そんな時だった。不思議な力が生まれた気配がした。生まれた力は山を降りてきた。その人は横竪だった。
横竪は前は違う名前だったらしいけれど、生まれ変わったことにより横竪に成ったのだと言った。
詳しいことはわからない。いつの間にか、かの人は横竪になっていたのだ。見た目は変わっていないらしい。美しい女だった。女は家族が見当たらないと嘆いていた。
修慧は家族というものがよくわからなかった。しかし横竪から流れ出る力は懐かしいような自分と似ているようなそんな感覚を覚えた。同じ神の力だから、もしやこの女と家族になれるのではとも思った。
横竪は修慧に国の事などを聞いて過ごした。そしてすぐに横竪の家族について調べがついたけれど、キングヴァギアン建国からはとうに70年を超えていて、横竪の血筋はいても、もう家族は残っていなかった。
横竪が絶望した時、何かに引き寄せられるように横竪が風に攫われた。
修慧も知らなかったのだけれど、人が信仰をした時土地に神が縛られることがあるのだ。
とある土地は神を欲した。人間が神に祈りを捧げた。そうして横竪はロッテリーという街の土地神として動けなくなってしまった。
修慧は嘆く女を見て、力になりたいと申し出た。残っていない家族を嘆くよりも、新しい友である自分と楽しい時間を過ごして笑ってくれることを望んだ。
いつかは修慧も神として土地に縛られてしまうかもしれない。それまではずっと友でいようと。
修慧は土地神から解放されるための手段がないかと、情報を得る変わりに人間の手伝いなどをしてそれを支払いとして納めていった。
いつの間にやら修慧という存在は神ではなく、この世界での精霊のような、日本で言うところの妖怪のような、人に恐れられつつも愛されとても不確かで、人と隣り合わせの生活を送る、そういう者として扱われた。
そう。修慧はキングヴァギアンの修慧として人に浸透していたのだ。特に馬の顔が人々に恐れを抱く要因だったのだけれど、それ以上に彼の作り出したものは人々を助け、人々に必要とされ、人々の羨望を集めた。
恐れなど、興味と好奇心には抗えない。
修慧は横竪という女の為に動き、道を大きく反れた。しかしそれは、彼にとって“とてもいいこと”だった。
横竪との出会いで、自分に自信をつけた修慧は輝いて見えたのだろう。その姿が横竪の苛立ちを高めてしまっていた。
家族に会えない。友は出来たがその友はひとりでも生きていけそうだ。そして修慧が離れて活動している間に彼女は気づいた。このロッテリーの周辺のモンスターは、姉の力が元になっているモンスター達だと。
そしてそのモンスター達は年々人間に使われて死んでいくモノが増えていて、モンスターと言うには弱々しく、人間に怯えながら日々を過ごしていた。
あの長女が与えた力を持つ、そんなモンスター達が、狩られていくモンスター達が、哀れだった。
やられっぱなしでいいのか?
待ち続けるだけでいいのか?
修慧がいい情報を手に入れられて、横竪に久しぶりに会いに行くと、沢山のモンスターを仲間に従えた彼女がいた。
鬼気迫るような、それでいて何かに吹っ切れたような、独特な笑顔の彼女はとても幸せそうだった。
もうかの国が建国してから300年は過ぎていたように思う。彼女の気が晴れるのなら、いくらでも力を貸すと言った。
修慧は横竪の事を妹のように思っていた。その思いは、横竪には一切届いていないようで、修慧は彼女に「親友」といいつつ、彼女の心の一切を諦めた。
「俺は幸せだ」
君が笑ってくれるなら。
力になれていない自分の不甲斐なさを押しつぶしても。
横竪は少女に受けた傷が癒えず、死の間際、どこかの誰かに「親友」の本当の気持ちを語られて、涙しながら次に会うことができるなら、謝りたいと思いつつ毒づいた。
「あの人はアホだった」
家族になりたい?最初から言え。あほんだら。
少女をこの世界に呼び込んでしまったせいで、修慧と横竪の世界は終わりを告げるのだ。
しかし、魂は巡る。
少女が修慧と横竪という神を亡き者にしようとも、その2人は別の者としてまた、少女と出会うのだ。
ひとりはもう、次の形に成っている。
テンクウ「うーん、興味深い話ですが、今する話だったんですか?」
順流様「そうだね。」
ビャッコ「肝の部分だから、いいんにゃよ」
フテゥーロ「オウジュ様の話のようで、シュエ様の話のようで、でもどっちの話?」
テンクウ「過去の話をしているようで、実は今現在の話?」
スズ「そう。結局はモナの近くに2人は関わり続けるんだよ!」
フテゥーロ「そうなの!?」
スズ「えっへん!」
順流様「そうですね。はい!では、キリのいい所で終わりにしましょうね。さてさて、次回は26日予定です。次は日がズレない事を祈っております。ふふふ」