第359話
どうでもいいかもしれませんが、どうでもいい男、ナエの話です。ふぇへへへ。
ナエという男性はどこにでもいる、そんなイメージです。
日本にいたらきっと「ユーチューバーやって人気者になりたい!」ってネットに手を出しそうな、そういう普通の人。
男はとある女と関わり合いが深かった。
そしてその男はその女のせいで道を大きく反れた。
しかし人生とは面白いもので、その男は女の事を一生忘れられなくなり、そして言うのだ。
「俺は不幸だ」
「俺は幸せだ」
「俺はバカだ」
3人の男はそれぞれの人生を総括してそう言った。
しかし女は気づかない。男の人生が女のせいで反れたことなど、女は気づかない。
男が自分で決めた道だと女は思っていたからだ。3人の女は真実を知った時こう言うだろう。
「アイツはバカだった」
「あの人はアホだった」
「その人は愚かだった」
女は男に対し辛辣だったが、愛の言葉を吐いていた。
ナエという男は、とても平凡な男だった。
レフティという妹がいて両親がいた。家族はとても貧しい暮らしをしていたが両親はそれ以上を一切望んでいなかった。
けれどもレフティとナエはその両親とは違い“何かをやりたい”“何かを成し遂げたい”と思っていた。それは漠然としたものだったけれど、2人とも親とは違う道を歩みたいと日々思っていた。
その“何か”を先に見つけたのは妹のレフティだった。レフティは“料理”に興味を持った。ナエはそれを見てレフティにも自分と同じ平凡さをそこに見た。
“女だから料理”に興味を持ったんだと。
先にやりたい事を見つけたのは、料理だったから。女だったから。だから俺はまだレフティに負けていない。
兄としてのプライドのようなものがそこにはあった。そしてナエの不運はレフティがまだ小さく兄を頼って料理について聞いてきたことが1番の不運だった。
ナエはレフティに兄として妹に色々教えた。妹が喜ぶたびに兄としての吟侍が満たされた。何かをやりたい。何かを成し遂げたい。それに近い達成感がナエの日々を満たしてしまっていた。
ナエは平凡な男だった。
レフティはあっという間に兄の知識をものにして、兄に頼ることはなくなっていった。ナエは焦っていた。妹が友達と共にいつの間にかとても小さい店を始めてしまっていた。
そんなことにも気づいてすらいなかった。ナエはレフティに頼られていると思い込んでしまっていたし、日々の暮らしにいっぱいいっぱいだったからだ。眼の前に見えたとても小さな店は、まだ屋台だったけれど、繁盛ぶりを見ると店を大きくしていける才能があるのは明らかだった。
ナエは兄だから兄として関わることにした。
妹はなにかと力で解決しようとする癖のある妹だったが、妹の友達は妹とは違い大人しそうな子だった。
ミギィという女性はナエの暮らしの中では滅多に会わないような人間だった。興味があった。なんせ妹の友達だ。そして共同経営者だ。そして少し憎らしかった。
ミギィの顔はレフティと同じく、とても生き生きしていたからだ。2人とも、ナエとは違い目標もありやる気もあり、そしてなにより自分より若かった。
周りから見れば大差なかったかもしれないけれど、ナエにとって、自分にとっての“特別”が未だに見つからないことは気づいてしまうと、焦りしか生み出さなかった。
焦りは苛立ちに変わり、馬鹿なことをする。
今までは優越感に浸れていたじゃないか。
仲間に入れてくれよ。
ナエは兄だからとレフティの手伝いをしだした。ミギィとはレフティという共通の話題を通して仲良くなった。魅力的な笑顔は日々を癒してくれた。そして何より自身を肯定してくれた。
レフティに取り入ったはずが、気づけばミギィに夢中になった。レフティに取り入ったはずが、“料理の仕事”に夢中になった。
それが自身の夢でもなんでもないのにも関わらず。ナエは平凡な男だった。馬鹿なことをした。自分自身の足で夢を、希望を、目標を、探しに行けばいいのに、近くのもので補填できると思い込んでいた、そういう男だった。
補填できると思っていたから、夢中になったその全てに、人生を注いでしまっていた。
ミギィに告白をして結婚した。レフティの手伝いをして上手くいったからと今度は自分の店を持つことにした。
しかし、誰もついてこようとしなかった。
ナエには計画性も根拠も信頼も無かった。ミギィが結婚を承諾したのは嫌いではなかったし、そういう結婚はどこにでもあったし、なによりナエがずっとレフティと共に3人で、店をやり続けると思っていたからだ。
不安のある人物ではあるが、悪い人間ではない。そのあたりはフォローできる範囲だ。ミギィは実はレフティよりも打算的だった。ナエの評価は実はレフティよりもかなり厳しく見積もっていたけれど、使えるものは使う人間だったのだけれど、ナエは気づいていなかった。
だからナエが王都で店を構えるという行動には誰もついていかなかった。結婚して約3ヶ月ほどで離縁した。ナエは納得いかない顔をしていたけれど、根拠のない自信があり、王都で店を繁盛させればミギィが頭を下げてこちらにつくと踏んでいたのだ。
ナエは、当然のことながら王都でうまくいかなかった。
理由は色々あるけれど、トラブルが舞い込みやすい地域に店を構え、トラブルが舞い込んだ時になあなあにして、トラブルを放置したことがさらに災いを呼び寄せて、店は傾いた。
それでもノウハウがあるから大丈夫だと次に向かい、さらに次に向かい、と、努力は見られた。
しかし人の口に戸は立てられず、運も悪く、ナエがやること全てにケチがついて回った。努力も無に帰すような、まるで周りから臭いものでも見られるような、そんな目線が目につくのが日常に変わっていった。
それでも店を出し続け、少しの間だけだけれど、うまくいった。
今までゾンビでも見ているかのように見られていた目線は減り、ナエの日常は子供の頃のように穏やかななものが続いた。しかしそれは、単に嵐の前の静けさが生んでいたものだった。
ナエは絶望していた。
全財産が消えた。王都に来て、幾度となく立ち上がれたのも曲がりなりに平凡さを極めていても、むしろ平凡だったからこそ、絶対に絶望しないようにと、予防線をいつでも張っていた。
その予防線である全財産も、予防線である人間も、ナエの為だけに、ナエを絶望させるためだけに、消えてしまった。
ナエは絶望したら首を吊って死ぬしかないと思い込んだ。もう何もやる気がなくなった。とくに最近はうまくいっていたから余計だった。
死のうとした時、1匹のネズミが声をかけてきた。
ネズミが喋れるなど聞いたこともない。実は自分はもう死んでしまっていて、あの世で立っているものかと勘違いするほどには、驚いていた。
ネズミは今までのナエを見てきた。だから手を貸してやろう。その代わり、ネズミもナエの手を借りたいと言ってきた。
復讐
ナエには甘美な響きだった。
王都にいる人間に復讐。
ミギィに復讐。
レフティに復讐。
嘲笑った世界に復讐。
ナエは平凡な男だったから、こうなったのは周りが悪いからだと思い込んだ。周りも悪い部分も無くはなかったけれど、結局はナエの行動全てがそれを呼び込んでいたのに、ナエは全て周りが悪いと口にする。
ネズミは笑った。仲間を増やしたい。仲間を強くしたい。強くしてアナタの嫌いな人間を根絶やしにしていきましょう。私達は小さいから、力が足りません、だからあなたが必要です。とてもとても必要です。
ナエは人生のなかでこれほどまでに求められたことがなかった。
嬉しかった。
ネズミの向かう先は、奇しくも妹のいる街だった。
ナエはこの争いが終わった後、後悔の念に押しつぶされて言うのだろう。
「俺は不幸だ」
妹は兄の遺体を見てこう言うのだ。
「アイツはバカだった」
ナエの本来の未来はここで終わるのだ。
ひとりの女の子がロッテリーの街に現れなければ、終わり、そしてレフティとモンスターの戦いの火種が生まれる、そういう話だった。
ネズミは火種を生む役割でしかなかった。
誰も知らなかった。
闇に葬られた。
そしてその策略のもとは、ひとりの女神、横竪の作戦のひとつだった・・・・はずなのだ。
まだ夏祭りは終わっていない。
次回は22日予定です。
こういう感じの書き方的なストーリー進行もう少し続きます
テンクウ「ボクの出番は?」
当分無いです
テンクウ「そんなぁ!!」
ナエは不憫かというと、色々と抜けているので結構自分で墓穴掘りまくっている結果なので、不憫とはちょっと違います。
「ユーチューバーだから、炎上させれば見てもらえるかも!」みたいな浅はかなかんじですね。
レフティ「もう中年なんだからいい加減落ち着け」