第358話
お久しぶりです。
のろのろですが再開いたします。
ユーグリッドさんの独白的ななにか。
ユーグリッドは目の前の小さな女の子に少しばかり疑いを持つようになった。最初からではない。この夏祭りでのこの騒動が起きたからだったからだ。
この子どもは5歳だという。そんな小さな身体でなにかできるものだろうか。いやしかし、少し前の猿の騒動のときも周りの人々を助けることに奔走していた。本当に5歳なのだろうか。
疑うことはとても簡単だ。
疑うことを辞めるべきなのもわかっている。なんせ、ババアと呼んでいるあの2人が一切疑っていない。だからこそ、疑ってもいいことはない。はずだ。
ババアと呼んでいるミギィとレフティは騎士団長のカメーリャとは昔なじみな上、女だてらに、騎士団員よりも役に立つと言われている。
新人の時はそれを聞いてすぐに喧嘩を仕掛けて返り討ちにあったからそれなりにできる人間なのだということを思い知らされたことがあったが、むしろその時その程度で済んで良かったと、最近になって思う。
ユーグリッドは強くなればなるほど、大人になればなるほど、2人は規格外なのだと思うようになった。
カメーリャ団長いわく「昔は騎士団は女性は入れなかったから、諦めちゃったんだよね。」レフティ達からは騎士団に入りたかったなんてことは聞いたことなどないので、カメーリャ騎士団長の諦めの話だったんだろう。
もし昔から女性も騎士団に入れていたなら、カメーリャ騎士団長の2人への勧誘は必死だったに違いない。そしてきっと、あの2人は自分の上司になっていたかもしれない。
たまたま獣人でたまたま強くなるのが好きで、命をかけて仲間とともに国を、街を、村を、守ることに生きる意味を見出したと思って、騎士団員になり、気づいたら副長という上から数えたほうが早い立場になっていた。
けれど、もしあの2人がいたら、きっとこの地位にはいつまで経っても就けずにいただろう。今ならわかる。その強さは、ユーグリッドが新人だった時はもっと強かったに違いない。
その2人が、一切疑っていない。
この5歳の女児は一体何なのだろうか。やはり気になる。
ただまだ頭が働かない。急に変な洞穴に昨日の夜からいて、帰るために動き続けて寝ていなかった。寝れる時は寝るべきだけれど、謎の場所でぐっすりできるほど胆力は高くない。
しかも時間が立つにつれてあの場所がダンジョンだと途中から気づいた時からには特に気を張り詰めた。
やたらと現れる謎の生き物達がモンスターだと気づいたのはだいぶうろついてからだった。その上通路は小人専用と言わんばかりに少し体の大きな熊獣人の自分にはかなり厳しい洞穴。身動きとるのもかなり苦労した。
暴れすぎると天井が崩れ落ちそうになるのだ。神経を使う。そこにこの子が現れた。とうとう天使がお迎えに来たのかと思う程度には、疲れていた。やかましい小熊達の場所に最初に行けたのはある意味ユーグリッドにとってありがたかった。
甲高い子供の声はいい目覚ましだったからだ。
眠い、腹が減った。
騎士団のお祭り時の駐屯テントまで来れて体が安心たのだろう。さっきお腹が鳴ってから、疲労がドッと湧いてきている気がする。
眠い、腹が減った。
うん。眠い。すんげぇ眠い。でもそれより腹減った。死ぬほど減った。やばい、マジでやばい。
熊獣人は一応人間の部類になってはいるけれど、ユーグリッドは獣寄りの獣人である。見た目も完全に熊なのだ。お腹の音も熊のハラヘリ音である。
グルルルルルルと、人間からはしないような独特の鳴り具合いはまるで本物の獣が餌を求めている音のようでもある。
少しうつろうつろしていた時にそんな音が鳴り響いて、ハッとした。抱えていた目の前の女児との初対面の時の事を思い出した。
彼女は、モナは、ユーグリッドの顔を見て泣き出したのだった。この大きな音はきっとまたモナを怯えさせると確信に似たなにかがあった。
モナが若干硬直したのがわかった。
しまったな、と思い、今まで抱えていた彼女を隣の椅子に座らせた。さっきこのテントに来る前に鳴った腹の音よりも大きく凶暴そうな腹の音なんて鳴るのはいつぶりだろうと思う。
昔、遠征に出かけて食料が底をつきかけそうになった時ぐらいだったかもしれない。
気まずさを紛らわせるように昔を思い出して見たもののそれ以上の出来事がぱっと思い出せなかった。
やっぱり頭が働かない。
そう思っていると体を震わせているのが見えた。申し訳なく思っていると、声が聞こえた。しかしそれは意外な声だった。
泣いているかと思ったら、モナから出たのは笑い声だった。抱きかかえられていたからモナの体に音からなる振動が体に伝わったのだという。ブルブルと震えて“マッサージましん”とやらに似ていたとかなんとか。
マッサージは分かるが“ましん”とはなんだろう。ましん、ましん?魔神?
マシーンのことなのだが、ユーグリッドはわかるはずもなく、なんだかボーっとした頭で笑顔の子供を見つめていた。可愛らしく笑うそれを見て、色々と考えていた自分が馬鹿らしくなった。
ネズミやサルを扇動していたかもしれないだなんて、ありえるはずがない。
「嬢ちゃんのほっぺた、パンみたいで美味そうだよな」
この後走って逃げられたが頭が回っていなかったので何がいけなかったのかわからずクリストファーが食事を運んでくるまで、彼女が逃げたテントの入り口を見つめ続けるのだった。
次回は18日予定です
次回もこんなタイプのお話形態になりまする。
ちなみに、
ユーグリッドさんのハラヘリが進行し過ぎたら、美味しそうだなぁじゃ済まなくなって喰いに人を襲うやもしれません。
1週間くらい断食すればの話ですが。
獣らしさが残っているのがユーグリッドさんの良さであり、悪さと言うか短所というか。ははは