第349話
予定日を1日間違えていました。申し訳ありません。
アンドレは目の前のことに困惑していた。兄である、ディオのテンションがおかしいからだ。アンドレは生まれて8年のうちほとんどがこのディオールウェリスという兄と過ごしていることの記憶で埋め尽くされている。
アンドレに兄や姉は山程いるが、度々訪ねてきて一緒に時間を過ごしてくれる人間など、ほとんどいなかったからだ。
たった8年。たった8年でアンドーレリユースという少年は“人間というものは、恐ろしいものだ”と理解してしまっていたが、唯一、ディオールウェリスにだけはトリのヒナのすり込みの如く、信頼と親愛を向けていた。
アンドレから見て、ディオという人間は怖い事をしない人間だと思っていた。しかし、今、目の前にいるディオールウェリスの目は狂気に満ちていた。
単なる怒りからの狂気ではなく、喜ばしく微笑みそして神を見るかのような狂信者めいた目、顔、仕草で満ち満ちていた。
アンドレも忌避をしたいほど悪い訳では無い。ただ、心からゾワゾワと少し気持ち悪いだけだ。心地いいわけではない。少し歯がゆく、嬉しさも少しあるけれど、そんな目を向けられるほどの事をした覚えがないので、気持ち悪いのだ。
アンドレはテイマモナを好ましく思っている。正直言って、出会って間もないのに、心から好きだと思っている。
だからこそ、祝福ごっこをして目の前で倒れてしまったモナに、年下の可愛らしい少女に、力になりたいと思って、療養が済んで体の調子が戻ったら王都の教会か神殿で祝福を受けようとしていたことを繰り上げて、モナの為に祝福の儀式を神殿のあの部屋で行った。
結果、アンドレのおかげでモナは死なずに済んだ。それがなぜかディオをおかしくさせた。
いや、もしかすると、目の前のディオは偽物かもしれない。と、突拍子もない事を思い始めた時、ディオが声をかけてきた。
「アンドレ?大丈夫かい?無理そうなら別の方法にするから、心配せずに何もしなくても怒りはしないし、安心してほしい。」
お兄様のキラキラとした目が元に戻っていた。
「お兄様?」
「すまない。私はね、アンドレのその祝福できちんと整えられたであろう不安定だったスキルがキチンと使えるようになって、少し、羨ましかったんです。見たことが無く、大昔の、ある意味、伝説とでも言えばいいのか、私達の根幹に関わるようなスキルを使えるだなんて。」
そしてその後、ディオは言葉として出せない思いを飲み込んだ。
(国王であるお父様や生みの親の母上様は知っていたのだろう。でなければ、王族とは言えこんな年端のない少年に、間の兄弟をすり抜けて王位継承権が3位に繰り上げられているだなんて・・・。)
アンドレは困惑している。しかしディオが心躍らせるその理屈はアンドレの近親者であれば少なからず持ってしまいがちな、普通の感情のひとつに過ぎなかった。
アンドレは知らなかった。慕っている兄は、まだまだ少年に過ぎないのだと。
謝られてしまってアンドレは急に、ディオがこちらへ向けていた感情は過度な期待などではなく、本当に単なる目の前の、フテゥーロへの最短の解決方法だったと思うに至るしかなかった。
未だに泣き声は響いている。
「お兄様、でも、俺のスキル、まだ初期状態の技しか出せないんですけれど、本当に大丈夫なんでしょうか」
「何言っているんだい。初期?初期でそんなに凄いのなら、最終的には世界をも驚かせるようになりそうで恐すぎるよ。」
答えになっていない。
「だから全然心配しなくていいよ。大丈夫、フテゥーロには効くはずだ。」
ディオの目に曇りは一切なかった。アンドレは少し考えた後、答えた。
「やってみます」
ディオは喜んだ。しかしアンドレの言葉は続いて、今度はディオが悩む番になった。
「でもお兄様?モナはどこに行ったんですか。スズ、なあ、スズはテンクウとかの所に行ったかもと言っていたよな?そこにテンクウ達がいるのに、どうしてモナはいないんだ。あそこで消えて一体どこに消えたんだ。お兄様、もし俺がフテゥーロを泣き止ませたとして、フテゥーロやテンクウ達にモナが消えたって言ったら、また泣かれそうな気がするんです。どうしたらいいですか?お兄様?」
実はモナはテンクウの元にも、ビャッコの元にも、セイリューの元にも、キジンの元にも、小熊達の元にも行っては居なかった。
アンドレもディオも聞いていたはずなのに、可能性のひとつから除外してしまっていた。
モナは決意していたから向かったのだ。過去を思い出している最中に向かわねばと思っていた場所に。
(茶色の猫)リキッドキャットのアメフリ「にゃっふー!更新予定日を間違えたから、明日も更新にゃー!」
(ぶち柄の猫)フェスティバルキャットのコエキ「そうだそうだ」
そんなわけで明日も更新予定です。