第342話
それから数分も経たずにリヴァイくんを呼び戻した。恐る恐る戻ってきた彼は客人がいないことに気づき小声でアレッと呟いている。
「もうお話は済んだのですか?」
「うん。偉い人なだけあって忙しいからとっても簡潔だったよ。・・・・何を話したか、気になる?」
くすりと笑みがこぼれてしまった。少年が、“少年らしく”“少年だった”からだ。私のその態度を見て、彼はカッと顔を赤くした。気安く話しかけている間柄ではあるけれど、肉親でもなければ友でもない。
本来はそこのシーラのように侍従関係に徹するべきなのは当然の事で、ディオである主人の奥方になる予定の人に気になることを気になるからと素直に口に出すべきではないとわかっていたはずなのに、目の前の人を怖いと、モンスターではないのかと罵った直後にコレだ。
リヴァイは自分の行動に恥ずかしさが込み上げた。若いがゆえの赤面だった。
「いいえ、いいえっ。俺は気にしていません。ええと、そうだ、そうです。俺にまだご用があったんでしたよね。ご用向きを伺います。」
心の距離を置かれてしまった。まあ、いいけど。でもさっきの宰相様が来る前の彼よりも今の彼のほうが、少し気持ちが軟化しているように見えた。この後のセリフを聞かせたらまた距離を離れさせそうだなと思ったものの、それを話すために呼び出したのだ。話さないわけにはいかない。
「あのね、私わからないの。本当に分らない。私はアンドレくんが近くにいてもアンドレくんが野心の強い人間だなんて、そんなこと思ったことなかった。私詳しく知らないんだけれどアンドレくんにはなにかあるのか知っている?そして助けに入ることは可能だと思う?」
「どうしてそんなことを俺にお聞きになるのですか」
「アンドレくんを助けようかと思っているんだ」
「はい!?」
「そこにいるみんなの意見としては『出来るけれど少し無茶をしないと、入るのは簡単だけど、出ることは難しい』っていう判断なのだけれど。私は・・・もし本当にアンドレくんが野心を強く持っていて、私にだけわからないように芝居をしていた、とか、捕まり続けることによってディオさんに厄災が降りかかる、とか、そういう可能性とかがあったりするのかな。蜘蛛隊には色々と情報収集はさせているのだけれど、結局まだまだ付け焼き刃なものばかり。とくにここ王城においては、私達はお客様だから完全にアウェー感があるでしょ。」
「あうぇい?」
おっとしまった。ええと、ええと?あ、そうそう。
「アウェー感っていうのは、つまり、敵の本陣に孤独に立ってるって感じのことを言うの。」
「そんな言葉があるのですね」
やべぃ、シーラから感嘆の声があがってしまった。日本での言葉です。元々サッカー用語的なものだったらしいですアウェー感。
「なるほど、そういうことを踏まえて俺に聞きたかったのですね。ふむ。」
リヴァイくんはそれからしばらく熟考したかと思うと、こう言い放った。
「俺も最初は驚きを隠せませんでしたが、アンドレ様はお助けしなくてもそのうち出てこれると思います。」
行くか、行かないかの判断をリヴァイくんに言ってもらおうかと思っていたのに、そうではなくて“出てくる”という答えを出したのでむしろ私の方こそ少し驚いた。そして彼は言葉をそのまま続けた。
「公然の秘密なのですが、アンドレ様は特別な力をこの王家の中で1番の物をお持ちだと知れ渡っています。さすがにそれがどんなチカラなのかまでは知りませんが、前の国王様がアンドレ様の王位継承権を繰り上げるほどのものだと誰もが知っているからです。」
「・・・?見たこともないチカラをどうしたら信じられるの?」
根拠の無い自信など、絵に描いた餅同然なのに、なぜかリヴァイくんはさもありなんと自信満々に言い切っている。
「アンドレ様が今まで生き残っているからです。俺はディオ様にお仕えしてからしか知りませんが、でも、この王城でディオ様とアンドレ様の近くにいれば、お2人共この王城の中では王家に連なる者なのに大変な苦労をしているのは目に見えて明らかだからです。ここに来るとひしひしと感じているでしょう。好奇とも侮蔑ともとれるねっとりした人の視線、いつまでも続く噂話の絶えない人々。俺達王城には短期でしか入らない人間でさえ、簡単に感じ、わかりやすいほどのこの空気を、その話の中心として生きて来たなんて、何かに守られていなければ絶対に心折れます。・・・こう言ってはなんですが、攻撃性の高い、色々ととってもわかりやすい王女王子様もいますので、アンドレ様は変だと前々から思っていたんですよ」
「変て。」
ツッコミがつい出てしまった。
でもリヴァイくんの言葉で決まった。助けには、いかない。でも・・・
次回は17日予定です