第339話
テュルさんは私達とロッテリーの街に帰らないということになった。
帰るまであと数日という所で、言うのは今だとテュルさんのタイミングで言えるのがこのタイミングだったらしい。
すぐに今スグお別れではないのでホッとしたのは私の勝手だ。
キツネのテュルさんにはモンスターだったけれど、お姉さんのような安心感があって私より短い生を生きてきたハズなのに私よりシッカリしていたからだろう。
私はこのキツネさんに甘えていた部分が多かった。
ただ死しての別れではないということで、いつかまた会える。
私とテュルさん、いいや、私と今の仲間たちとは私の言った神殺しを共に叶えたいと思っている仲間である。
同じ向きに向いているけれど、道が違うだけだ。だから必ず、そのうちまた会えると確信している。
「そうだ、今なら丁度いいな」
テュルさんが真剣に急に話始めたらメイドのシーラは気を利かせて部屋を自主的に出ていってくれた。だから今は私とモンスターたちだけだ。
「あの王様とか言うのが広げてしまったことはソイツが悪いだろうけれど、ロッテリーで止まなかった噂も、今回の噂が止まらないかもしれない理由も、もうだいぶ前から蜘蛛隊達の情報でなんとなくわかっていただろう。そんなに情報を信じたくないのか?それとも、我々がウソをついているとでも思っているのか?それともモンスターだからと軽視しているのか?離れる前に聞いてみたかった」
蜘蛛隊は優秀だ。
そう、ディオさんが原因を作っているらしい。
この王城に来てからロッテリーの街を離れてからそこまで時間が経たずに判明した。
“無くならなかった噂”が私達が移動してからというもの、ほとんどパタリと“無くなった”らしいのだ。あちらに残ったみんなが蜘蛛隊を通じて教えてくれていた。
逆にこちらに来てから私の周りが騒がしくなった。最初に疑ったのはもちろん女神関係だった。1番可能性あったからだ。
しかし、女神の横竪との繋がりのありそうなものが見つからず、範囲を広げて修慧の方も調べてもらったけれど見つからず、なぜかそこに通うアンドレくんの情報が手に入った。
まさかやはりアンドレくんがと調べてもらった。それっぽい動きはいくつもあった。しかし私の想像していない所でディオさんが人を使って、色々やっている事を蜘蛛隊がそれかもしれないものを見つけたと、報告を受けた。
アンドレくんもディオさんに使われるコマのような事も気づかずさせられていたみたいだった。
でも、それが、それ自体が消えた噂と本当に関連していたのかさえ疑わしかった。蜘蛛隊が見つけてきたの証拠と呼べるものは、まるで“スパイ映画で色んな国をデータ送金で経由して最終的に裏金をスイス銀行に預けてどこの誰も調べることが出来ない鉄壁な状態にして肝心な部分がどうにも出来ない”というような、とってもとっても回りくどい証拠しかでてこなかったからだ。
最終的な1番肝心な部分がディオさんだとは決定した証拠は掴めなかった。色々とディオさんが動かしたであろうものが経由している、ように見える。
そんななんとなくの証拠では、起訴も送検も出来ませんよ!といえてしまう程度のものだった。
「本当に、本当にごめんね。でも、みんなを信じていないわけじゃない。もし、彼がディオさんが、そうだったとしても、ううん、今回のことでチラッと見えた彼の行動が、きっと今までのソレもそうだったんだろうけれど、最終的にディオさんが目指してるものがわからなすぎる。ドラマの殺人事件にしてもスパイ映画の悪役にしても、動機っていうものがあるはず。なのに、ディオさんの行動をみんなの情報として合致させても、最終目標が見えてこないの」
「んえー?足で立ちたいだけー」
「んおー?えっちらおっちらー」
とグレムリン2匹。
「そうだよね、僕ならモナのスキル頼らないでそんなことしないで神様のチカラとか魔法で治せないか修行とか頑張ろっかなとか考えるなぁ」
とサイショウくん。
「スズはね、ディオ嫌いじゃないよ。アンドレはね、フツー。だからね、モナが幸せそうならなんでもいいの」
とスズちゃん。
「ちゃんとモナの考えがあってこそなら、もう何も言わない。だけど、ああいう手合いは後で手のひらを返すこともあるからな。注意するんだぞ。」
「うん、ありがとう。テュルさん」
ちょうど話が途切れたタイミングでシーラがお茶とお菓子を持ってきた。パーティーに出されるお菓子の一部を拝借していたらしい。
ベッド用の小さめの机をシーラは設置してくれたので少し行儀が悪いかもしれないけれど、そこでお茶をいただくことになった。
「ディオ様は車椅子のままパーティーに参加なさったそうです。」
その報告を聞きながら目の前に置かれるお菓子のひとつに四角いお菓子を見つけついつい見つめてしまった。
なんかどっかで見たことあるお菓子ににているような。なんだっけ。
なんかこうホラーっぽいグロテスク寄りのアニメにこういうの出てたような。あんまりに見つめたものだから、キョトンとしているシーラにこのお菓子は?と名前を聞くと、聞いたことのない名称が口から出てきた。
「ロクムというお菓子だそうで、今回パーティーに来れなかった第3王女様からの贈り物のひとつだそうです。」
フォークで刺したら意外に固く、なんだか日本の和菓子でもこういうのあったような。なんとなくモグモグと咀嚼しながら考えていたら、あっ、となんのアニメに出てきたのか思い出した。BLOOD-Cっていうアニメに出てきたギモーヴとかいうお菓子ににてるんだ。見た目だけ。
あれはたしかもっとこう、フニョフニョしたやつだったはず。これはもっと固い。異世界限定のお菓子かな?とも思った。
「こちらは皆様も食べられそうなので、沢山ご用意させていただきました」
カートの中段にモンスター達の分だと山のように持ってきていたお菓子をみて
「食べ放題!うぇーい」
「甘いのー!うぉーい」
特にグレムリン2匹は大喜びしたのだった。
そういえばアンドレくんは今日はパーティーに出たのだろうかと、ふと思い出した。
この後、蜘蛛隊の外に出ていた子が戻ってきてアンドレくんの現状を知るその時まで、シーラの優しさと心地いいお茶の香りに心を落ち着けていた。
本当にほんのひとときの出来事だった。
次回は8月8日予定です
ロクムは日本でも販売しているお菓子で、日本で買うとしたら別名で販売しているのでそちらで検索したほうがいいかも?
「ターキッシュデライト」というトルコの伝統菓子の事です。日本のゆべしに近い、四角いお菓子です。すんごい美味しいって訳ではないのですが、紅茶に合いそうなヤツです。作者は好きです。
今回は第3王女が商人の妻ということで色々なお取引している中のひとつとして、パーティーのお菓子にと王城に大量に送った、という感じです。
第3王女がトルコ系の所にお嫁に行ったとかいうパターンではありません。パーティー行けないけどうちの商会ご贔屓に!っていうそういうあれデス。
ちなみに私がターキッシュデライトを直近で知り得たのは「業務スーパー」で売っていたからです。海外のお菓子売ってるから面白いよね、「業スー」。
ではまた次回