第338話
ドレスをせっかく作ったのに1着しか着てないし、さらに言うならそのたった1着は最終的に2度と着れないくらいボロボロになった。まだ部屋の衣装タンスに予備も合わせて沢山買ってしまったのが眠っている。
「1着銀貨3枚分ぐらいずつもしたのに」
おっと口から出てしまった。日本円にして1着30万近くするドレス。が、ひーふーみー。しかも1枚駄目にしてて、Oh No。忘れろ。忘れるんだ。
「モナ様ディオールウェリス様がおいでになりました」
おや?いつも通り車椅子でやって来たディオさんが現れた。
「体調はどうだい?」
「お陰様で身体の方は王城のお医者様とか高級なお薬とかで、もう本当にキレイサッパリです」
「それならよかった」
「・・・・あの?ディオさん、今頃、昨日の続きで今日もパーティーがあったはずでは。ディオさんは私の出れない代わりにひとりで出ると言っていたのになぜまだここにいるんでしょうか」
「それなんだよ。」
どれなんだよ?
「今朝から早々に出されてしまった広報紙を君も聞いたと思っていたのだけれど」
「ハッ!?そそそそそういえば」
「わかったかな?今まで、アレの許可を出した兄上に会っていたんだ。兄上達には昨日の私の足のことは包み隠さず、モナの力による一時的なものだと弁明しておいた。だからすぐにあの広報紙は撤去されるだろう。」
「本当ですか、よかった。」
いやもうどうしようかと思ったよ。
「しかし兄上から困った提案をされてしまってね。」
おん?
「兄上がね、私がこの両の足で立って歩いているのを本当に、たいそう喜んでくれてね。ここにいる間だけでも、ほら、あと少なくとも3日はいるだろう、その間だけでも私が歩いている姿で暮らしている姿を見ていたいとおっしゃってね。広報紙は取り下げるし、私とモナの結婚も子供も全て認めるから、この数日間だけでいいから、そう過ごしてほしいと・・・懇願されてしまったんだ」
言葉が出なくなった。うん、そりゃあ、本当に自分の家族の足が治ったなら喜ぶよね。わかる。でも、でもさ。あれは私のチカラがディオさんを立たせただけだ。
とてもすごいものに見えたかもしれない。でも結局まやかしだ。ハリー・ポッターに出てくる、“みぞの鏡”と同じで現実ではない。それから離れられなくなったらおしまいだ。
ううん、どう言ったって、多分。いやいやいや、諦めちゃだめ。結局は私のチカラなんだと私から懇々切々と説明すれば。
「ディオさん、アトム王様と私とで話すことはできますか?」
懇願されて拒否できないのは身内だからのはずだ。
「ごめん、パーティーが終わるまでは戻ってこれないよ」
そうでしたね(絶句)
「でも、私が隙を見て連れてこよう。君の頼みだからね」
「いいの!?」
「ただ、人を送っても結局はパーティーの後にされてしまうと思うから、こっそりと私が直接行ったほうが確実だと思う。」
「え、と・・・?」
つまり結局はディオさんに“蜘蛛糸の踊舞歌”を使って欲しいってこと?ソレって結局・・・いや、ディオさんに限って。でも。
その行動自体がアトム王へ、私がOKを出したことと勘違いされないだろうか。
ディオさんを見るといつも通りの心配してくれるその顔。
背筋が寒くなった気がした。私の見ているものは真実だろうか。
「ごめんなさい、ディオさん。私まだ少し寒気がしてきてしまったので、その・・・・。横になりたい。急がなくて良いので、パーティーの後にでも会えるならそれでいいです。」
「・・・わかった。ごめんね。体調が安定していないのに押しかけてしまって」
「いいえ!来てくれて嬉しかったです」
これも一応本音だ。ディオさんを好いている自分がいる。間違いではない。私がベッドに横になるのを手伝ってくれた。
メイドのシーラもずっといたからシーラにやってもらえればそれでよかったけれど、車椅子の魔道具さえあれば大体のことはできてしまう。ディオさんの優しさに結局甘えてしまった。
そして額に軽くキスを落とされた。
「また来るね」
ディオさんは静かに部屋をでていった。簡単に蜘蛛糸の踊舞歌をかけるべきだったのだろうか。そんなことをするべきなのか?あのスキルは、私が近くにいないと効果がほとんど出せない。
いわゆる、人形劇の人形の状態になる。マリオットとか、そういう糸操りの人形のように、オモチャの箱を飛び出して踊るオモチャのチャチャチャという、そういう状態なのだ。だから、スキル名が“蜘蛛糸”と書いて“オモチャ”なのだ。
私が離れたら、ディオさんは車椅子の魔道具のない状態で床に崩れてしまうだろう。
彼は、それを解らない彼ではないはずだ。なんせ、領主の館で何回か体験しているのだから。
その流れを全て見ていたみんなは私の所に駆け寄ってきてくれた。
「モナーー?」
「だいじょぶかー?」
「回復しますか?」
「モナ。こんな時にすまないが、私はここまでだ」
テュルさんの声がみんなの声を消してしまった。なんの発言だろう?頭がついていかなかった。思考回路がショートしそうだ。
ベッドに入った体を起こしてキツネのテュルフィングの顔を見えるようにした。
その顔はもう付け入る隙がないくらいに、相談というテイではなく、決めきった顔をこちらにみせていて、さっきのディオさんとの対面よりも、喉に声が詰まって出せなくなりそうな気がした。
人間なんて図太いもので、私は彼女の理由を聞いて、聞いて、そして了承した。
次回は8月5日予定です