第337話
白いフクロウのタイサイが降り立ったのをメイドのシーラが驚いて見つめていた。
「ああ、部外者がいたか」
シーラの前にキツネのテュルさんが動いた。庇うようにして立つと、タイサイさんは急に興味を無くしてシーラの方を見なくなった。
テュルさんが睨むようにしていたけれど、タイサイさんは何か仕掛けようとしたのだろうか。タイサイさんについては伝書バトみたいなことを主にする白いフクロウだと勝手に思っていたけれど、女神の元にいるモンスターなのだからそれだけではないことくらいわかりそうなものだが、今の今まですっかり抜け落ちていた。
「女神の力が完全に戻った。モナ、新しい力を授けたいと横竪様が言っている。力を増やし、さらに味方を多くして、平穏な世にして欲しい。お前にしか出来ない。この世界を導くために」
表面だけ聞けば、まるで勇者のようだ。響きの良い言葉を並べているが、“平穏な世”は私やこの世界の住人の為ではなく“横竪”さんの“平穏な世”の話だ。
なんせ私が強くなればなるほど、横竪さんのコマである“魔王”が出来上がるらしいからね。
「あの 敵の女どもと凶弾犬が戻ってきているようで、この王都に潜伏しているようだから気をつけるように。そういうわけだから、あちらに早く戻ってきてくれると助かるよ」
言うだけ言ってタイサイさんはまたどこかへ飛び立って行ってしまった。
「全く、ここの警備どうなってるんだ」
スズちゃんが蜘蛛隊の子達とプリプリしながら王城特有の防御、防壁の魔法の類について語っていた。神の使いのような特殊な位置づけのタイサイさんには、なぜかそれらのシステムには一切引っかからないようで謎だった。
まあ蜘蛛隊達をあらゆる所に張り巡らせている私の言えた義理ではないけれど、その蜘蛛隊の網にも引っかからないのがあのタイサイさんらしい。
「シーラ、大丈夫?ごめんね、私、その、普通よりも、秘密が多くて色々と、ちょっと」
なんて言っていいのかわからない。戸惑っている王城のメイドさんには荷が重い案件な気がする。
シーラは私から見たら信用できる人間だと勝手に思ってしまっていたけれど、シーラから私を見たらそういう信頼は一切無い単なるお客様の可能性は否定できないのに、今、現れたタイサイさんの言動を見て、どう捉えたのだろうか。
私を怪しい人間だと思ってしまうのも致し方ない状況すぎる。
「モナ様」
「はい?」
「王城に務めるメイドを侮られては困ります。特に私のような一般的には変わり者と言われるようなメイドは、通常よりも頑固で融通が利かない仕事を全うする変人がなりうると言われておりまして、人様の秘密を言いふらし、人の評価を勝手に上げ下げするような下賤な輩とは違う。と、断言させていただきます」
ぱちくり、キョトン。
私も周りのモンスターのみんなも、まさかそういう言葉が一介のメイドさんから出てくるとは思ってもみなかったから、びっくりした。
「このままだと殺されるにゃよ」
闇からネコが生まれて喋る。暗くジメジメとし冷たい石の壁に囲まれたそこは、ほとんどの者が知らない地下の牢獄だった。
「アンドレ、死にたいのか?」
闇を操る黒猫と幻影を司るカラスはそのまだ太陽が昇っている日中にも関わらず、夜にも似たその牢獄の空間でアンドレに脱獄を進言した。
アンドレは昨日思い出して助けに行けなかった悔しさに、歯噛みして、あの人が歌っていた歌を思い出して気休めになるかと歌い出した。
部屋は石造りなこともあり音が響いていた。
「♪煌めいた世界 遠い記憶は
見上げた空 夢呼び起こす
果てしない夜に 出逢う景色は
過ぎた日々の 結末も見えず
こんなにも遠く 離れていても
照らす光 君にたどり着く
奇跡は叶うはず
♪」
ゆっくりと言葉を噛みしめるように歌った歌は響き渡った。
黒猫もカラスもその声をただ聞いていた。
最後にアンドレが歌ったのは
玉置成実さんのbrightdownという曲です。アニメのDグレイマンで流れてたやつです。
モナがどっかで歌っていたのをアンドレが覚えちゃって歌っています。
モナは常に歌って発散してるので歌い過ぎだと思う。って言ってしまったらこの物語終わっちゃうね。お口チャック!!
次回は8月2日予定です