第335話
1日遅くなりまして申し訳ありません
ドレスはボロボロ。所々、自身の血や他のモノの血も付いている。なにより、肌はコスモオークの攻撃のせいもあって、傷だらけだ。
辺りはざわめいた。目の前の女性の異様な光景に戸惑う。笑っているのに、目が虚ろ。今にも崩れ落ちそうにも見えるのに、生き生きとしているようにも見える。
そして誰かがとても小さな呟きを漏らした。
「まるで魔女のようだ。」
今までのざわめきが嘘のようにシンと静まり返る。そしてなにかに呼応するようにひとり、またひとりと、口火を切っていく。テイマモナという女性の姿も異様なことではあったけれど、それだけではなかった。
ここの空気こそが異様な様相になっていた。しかし
、誰もがその空気の異様さに疑問を持たなかった。それはある種の集団心理状態だった。
『そう見える。』『そうかもしれない。』『きっとそうだろう。』『それが正解である。』
人は流されやすい生き物だ。どんなに根拠が乏しくとも誰かが肯定すれば真実になってしまうのだ。
それこそ魔法のように瞬く間に今集まっている人々は口にした。
「魔女に見えなくもない・・・」「魔女?」「魔女かもしれない」「いいや魔女だ。」「あれは魔女だ。」
その群衆の声をかき消したのは1人の人間だった。
「モナ!!無事だったかい」
車椅子の魔道具をいつものように四足歩行状態にして、モナに駆け寄って行った。
「あれは?」
「ディオールウェリス様だ」
一部の気づいた人がハッとしてディオとモナを見た。
「パートナーの方だ」「婚約者?」「まあ」「なんてことだ」
ざわめきが騒々しいに変化していった。注目されていることに徐々に嫌気がさしてきたモナはディオが来る方向とは逆に進み始めた。
ディオ以外の誰もその場を動く様子もなかったので、来るに任せた様子だった。気落ちしているモナは心配をしてくれて近寄ってきてくれているディオの方向へ向かう気持ちにはなれない。
そうでなくとも周りの目があり、人々の目は好奇の目か、疑惑の目か、なんとも言えない空気がモナの体にチクチクと刺さるのがわかったからだ。
そしてディオの車椅子を途中まで押して来てくれていたリヴァイがディオが来たであろう後方にいた。彼の表情はいつになく驚き、そして怯えをはらんでいた。
倒れているテュルフィング、ディエース、ウェスペル、アイゼン、クプファー、ズィルパーと蜘蛛隊達は見るも痛ましい。
しかしその行動がまさかの仇となる。
後方からその場を見ていた人々から悲鳴が上がった。キャアっと女性があげる声はこちらの方への悲鳴だ。
モナが振り向くと車椅子の魔道具から落ちていくディオが見えた。車椅子の魔道具の真下にはコスモオークが放った攻撃の残滓の砕けた石のカケラが散らばっていた。それに足を取られて車椅子の魔道具が傾いてしまったことは明白だった。
落ちるのをどうにか止めたくとも距離がありすぎてどこの誰にも何もできない、そんな状況でしかなかった。
傷つくディオを想像してしまいとっさにモナは叫んだ
「ーーーー蜘蛛糸の踊舞歌!!」
あたりはシンと静まり返った。
地面にそのまま落ちると思われたディオはその場で立っていた。その動かないはずの両の足で、立っていたのだ。
靴の底はジャリッと音を鳴らした。ディオを串刺しにしようとしていたカケラも高級な靴底は貫通しなかった。
ディオも驚いていたが、何よりも周りの人間が驚きを隠せなかった。
あたりは今まで以上に騒然となってしまった。
「弟の足が、治ったーーーー!?」
一国の王もその場にいたのだから。
次回は27日予定です