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第334話

毎回遅くてすみませんぬ。

大きな魔法をパンのさんにんは行使した。それはまるで夏の大きな花火が夜空にきらめくようにどんどんと天高く大きくなっていく。


それはとても凄い魔法だとは見てわかる。見てわかりはするが、焦る。


いま、あのオークの腕が少しだけ動いた。


いや、首が。


「アイ、ゼ、ズィル、ぱ、ク、プファ」


なんてこと。


また声が枯れて声が彼らに届かない。


コスモオークが目覚めてしまった。


頭上のその大きな魔法陣に気付いたオークは発動させている周りのパン達に攻撃を加えた。


コスモオークが大きすぎるせいで大人と小動物ぐらいの差があるから吹き飛ばされた。その音は体のどこかが折れたのではと思うような、大きくて鈍い音が響いて聞こえた。


ズィルパーが横に攻撃を受け地面を転がった。動きそうにない。


しかし普通の魔法ならひとりいなくなってしまえば消えると思われる魔法はなぜか未だに成長しつづけている。


それを見てコスモオークも止まると思っていたのだろう。頭上のそれが大きくなり続けていて焦ったのか他のふたりも攻撃した。


ふたりが攻撃される際、テュルさんは立ち上がってくれたが距離が離れていたので間に合うことはなかった。


テュルさんの声から悔しさが滲む声が、漏れた。


それでもテュルさんはパンのさんにんの元に向かってくれた。私も声はかすれてでなかったけれど痛む体を無理やり起こして、行こうともがいた。


しかし、私の周りには未だに倒れて気絶したままのサイショウくんとディエースとウェスペルと蜘蛛隊が居た。


ここを離れることはできる。しかし、もしここに今、あのオークが来てしまったら、守れるのは誰か?


テュルさんに来てもらう?違うだろ?私しかいない。


私もテュルさんと共にパンのさんにんのもとに行って無事を確かめたいのを歯噛みして、体を引きずるのをやめた。


さんにんとも術者がいなくなれば流石に止まるだろうと思ったその魔法陣は、手をかざせず、地面に転がったパンのさんにんから、転がったその姿のまま、胸のあたりから可視化された力を吸い取られ続けていた。


その魔法陣はそうしてコスモオークの頭上に位置づけされているように常に移動しつづけた。


追尾機能でもあるのかのように魔法陣はコスモオークと共に移動していた。遠くから見ると一目瞭然だった。


さんにんの力はスゴいな。なんてキレイでスゴいんだろう。


コスモオークも気づいたようで地面に転がってしまっているパンのさんにんは起き上がらないからと、置いておいてその場を、魔法陣を置き去りに走ろうと、走り去ろうと辺りを駆け回っていた。


魔法陣はコスモオークを叩き潰さんとコスモオーク目掛けてハエたたきのように天から降ってきた。


とっさにみんなを上から覆いかぶさって守る体勢をとった。


洋画で飛行機やヘリコプターなどが地面に墜落するようなシーンがあるけれど、そういう巨大なものとぶつかった音が辺りに響いた。


さっきのパン達の攻撃の比ではないほどの爆発音に負けるとも劣らない、バキバキと全てを粉々にするような音のようなそうでないようななにか。


そして、撒き散らす汚い水と、果てしない風圧。砂煙と轟音。頬を切り裂くなにかが飛んできた。頭にもなにか硬いものが当たるが、コスモオークが放った超新星爆発と比べると大した痛みではない。


「神の鉄槌、というヤツ、か?」

「コワァ」


超新星爆発の後の2度目の衝撃波にグレムリンの2匹がようやく起きてきたらしい。いつもと同じ口調に少しだけホッとした。


辺りが静かになった。


サイショウくんがピクリと動いて起きた。


「ももももも、モナちゃ、けけけ怪我ぁあ!?」


プルプルして大泣きしそうなのを止めた。そんなことで泣いてもらったら困る。サイショウくんも怪我をしているのに。


「ごめんね、少ししか回復出来ないなんて」


蜘蛛隊の力も借りて、立つことが出来るようになった。とりあえず足だけでも動けるようにと最小限に回復してもらった。私より、パンのさんにんに力を使ってほしいとお願いしたのは私だから。ね。


頬が痛んで片目を閉じる。このほうが頬の痛みが和らぐ。コスモオークがいた辺りの埃が落ち着くと、地面にコスモオークと同じぐらいの穴が下に空いているのが見えた。


穴の先は黒くて全く見えない。血溜まりにもみえるような気がしたけれど、でも、ただただ穴が深くて暗く見えているだけにも見える。


「どうでもいい」


さっさとその場を離れた。テュルさんがアイゼンとズィルパーとクプファーを見て回って戻ってきた。


「テュルさん」


テュルさんは首を横に振った。振るだけで何も言わない。


「なに?」


テュルさんは首を横に振ることもやめた。


「・・・」


一番近くにいた、クプファーに近づいた。まだ息が聞こえる。テュルさんったら、首を横に振ることしかしないなんて、ほら、まだ生きてるじゃない。


「クプファー、大丈夫?サイショウくんが今、助けてくれるからね」


そう聞こえるように言ったらクプファーの口からゴポリと吹き出したものがあった。進化したせいか分からないけれど、紫色のそれが口から出るとクプファーの目が閉じた。






辺りがとても静かだ。


おかしいな。アイゼンもズィルパーもそこにいるのに。テュルさんもそこに。


テュルさんがまた倒れたらしくずしゃりという音が響いた。


大丈夫だと言って。


誰か。


ああ、こうやってゴーレムのカンショウもイポトリルのウェールも旅立ったのだろうか。見てさえいないけれど。








私の何かが弾けたような気がした。


ついつい感情のまま、歌を歌い出した。

いつものことだけれど、いつもと違った。


だって、こんなにも祈るように心から自分の命を削ることばかりされたら、同じことを返すのは普通でしょ


だから、だから、だから?


プツッと弾ける。








「♪幸福も

別れも

愛情も

友情も

滑稽な夢の戯れで

全部カネで買える代物

明日死んでしまうかもしれない

すべて無駄になるかもしれない

朝も

夜も

春も

秋も

変わらず誰かがどこかで死ぬ

夢も明日も何もいらない

君が生きていたならそれでいい

そうだ本当はそういうことが歌いたい


命に嫌われている


結局いつかは死んでいく

君だって僕だっていつかは枯れ葉のように朽ちてく

それでも僕らは必死に生きて

命を必死に抱えて生きて

殺してあがいて笑って抱えて

生きて生きて生きて生きて


生きろ♪」







「モナ?」


歌い終わったら後ろから声がした。恐る恐るというようなそんな声だ。


この場から消えていた、スズちゃんの声が。


スズちゃんの後ろにはこの国の王様とそれを取り囲む鎧を着込んだ人々、そして避難所に送り返したはずの騎士団に魔法使いの面々と、避難していた貴族の面々が、巨大だったあの魔法陣が遠くまで見えていたようで、気になって集まって来てしまっていたようだった。



その面々も息をのんだ。


誰もみたことのないそれらを目の当たりにしてしまっているからだろう。


それと、アレかな。私のドレス。

せっかくキレイなのを作ってもらったのに、幽霊みたいにボロボロになってしまっているからかな。


これは、酷いよね。ね。


ディオさんと、アンドレくんと、もうちょっとパーティー楽しみたかったなぁ。


どっちもこの場にいないなぁ。


私の歌った歌は、パンのさんにんに光り輝く楽譜が降り注ぎ、息絶えたさんにんの体を修復し、息を吹き替えさせた。


まるで録画した物語を巻き戻すかのように昔の映像がノイズを走らせるように、楽譜がザラザラと溶け紫色の血さえも消失させた。


私自身に一切効果はなかった。頬は痛いし、足も立って歩くのが精一杯だった。








「ふっ・・・・・・・ふはは・・・。」


感情の置き場?


シラナイ。


そんなもの必要だっけ


ほら見て


みんなの息が吹き替えした。よかった。ヨカッタ。ホントウニヨカッタ。


みんな見て。ほら、私の生きていて欲しい子達が死ななかったんだよ。ねえ、みて、こんな事できたよ。








私は、


私が本当にこれから、人間とかけ離れた存在になって行くという事を、実感していく日が始まったのだと


体で感じていた。


ホントウニヨカッタ。

「命に嫌われている」カンザキイオリさんの曲です。


ボカロのやつです。






次回は24日予定です。






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