第332話
ーーーーーーーーーーーーまだ誰もその時は知らなかったんですよね。もうとっくにアトム様が王として即位して数年が経っている上、アンドレ自身もディオさんと同じく、王位継承権が受け取れない一般国民に誰のためでなく、自分自身の為にしようとしていたのに。
『恐怖、畏怖、疑心、謀略、あとは』
ーーーーーーーーーーーーつらつら並べて一体なんですか?
『あの城の中は混沌としていて、そういう者たちの巣窟だっただろう?』
ーーーーーーーーーーーーなんでも知っていますね。
『兄弟が一番の理解者であり、兄弟が一番の毒であり、兄弟が一番の薬である。アンドレには1人の人間に3つは当てはまらず、それぞれにそれぞれが役割を持ってしまっているようだったね』
ーーーーーーーーーーーー・・・・
『どうした?』
ーーーーーーーーーーーー今でも思うんです。アンドレくんは私と出会うべきではなかったのでは、と。
『そうは言ってもモナは君の過去での未来のアンドレどころか、現在もこちらの世界でアンドレに出会って関係を続けているでしょう?』
ーーーーーーーーーーーー起きれたら、アンドレくんともディオさんとも、キチンとお別れするつもりです。こんなにも思い出してしまったから、もう何も知らなかった、忘れてしまっていた私とは違います。
『そうですか』
ーーーーーーーーーーーーはい。
『そんなに悲しい顔をしているのに、いいんですね』
ーーーーーーーーーーーーこれは、これは、その、そう・・・あの時倒れて悔しくて悔しくて、苦しかった時を思い出したんです。アンドレくんがコスモオークを手引したと疑われて、ひと騒動起きていたなんて知らなかった、そんな時に。私は、コスモオークの放ったガスによって昏倒していて身動きが、全然・・・・・
そう、目の前の光景に冷や汗、油汗が止まらない。空気を揺るがすほどの衝撃波が放たれて、鼻血を出して倒れた。意識を失っていたのは、数十秒?1分?それとももっと?
わからなかったけれど、早めに目覚めたはず。
なぜなら、まだ体の自由が利かないし、目もあまり開けることが出来ないし、どうしようもない無力感と情けなさがこみ上げてくるからだ。
私から見える範囲はたかが知れていた。
うつ伏せに倒れてしまって見える範囲なんてほとんどないも同然なのだから。
一番近くにいたサイショウくんが泡を吹いているのが見えた。
声が聞こえた。唸る声が。苦しそうな声が、いろんな方向から。多分テュルさんとグレムリンのどちらかと、パンのさんにんのうちのひとりの声だ。多分そうだ。
見えないけれど。きっとそうだ。
超新星爆発を起こしたコスモオークはどうなったのだろう。アレだけの爆発やガスを起こしておいてまだ無事だったりするのだろうか。
そんなことがあるのだろうか。
しかしここは私のいた日本とは違う。異世界で、まるでファンタジーな場所だ。
〈普通は死ぬ〉と思っているようなことでも〈死なない〉可能性がある。アレだけのことをやっておいて?私もみんなもこんなにも動けなくなっているのに?
ズリズリとどうにかこうにか体を動かす。位置が悪いのか頑張って動いても見えるようにはならなかった。
悔しい
くやしい
なにが
強くなって、家に帰りたいだ
なにが
神を殺して、日本に戻りたいだ
周りを確認してみろ
今までを振り返ってみろ
私は何をしているんだ
なかま?何を言っているんだ
最初に首輪をつけておいて?
なかま?何を言っているんだ
モンスターにばかり前線に出させておいて?
ちがう
一定の距離を保ちたい?
ちがう
本当は、ずっと、もっと、モンスターだろうと関係なくもっともっともっと、仲良くなりたかった
でも私は帰るつもりだし
でも私は神を殺すと決めたし
でも、私は、力をつけるには、テイマーという力で生き抜くしか分からなくて
なんなんだろう
だって今までも今でも、私のそれはバグなんだよ
バグになっているってことは
そういうことは、考えないようにしていたけれど
結局のところ、私のこの力はきっと、ニセモノ
ううん、きっとじゃない
ニセモノなんだ
でも
でも
このやり方しか道はない。
このやり方に私は長いレールをもう、引いてしまった。
それに、そのレールにはもう、みんなも乗ってしまっている
私はバカだ
大馬鹿者だ。
イポトリルのウェールはとっても臆病で優しくて可愛いモンスターだった。死んだのは私のせいだ。私と一緒に行動しなければ死んでいなかっただろう。
ゴーレムのオスのカンショウはゴーレムだからか表情に乏しかったけれど、とっても心優しい愛の溢れるモンスターだった。死んだのは私のせいだ。私との繋がりで中身が空洞化なんてしていなければ死んでいなかっただろう。
野犬のグローは好奇心旺盛で突っ走り屋でプライドの高いモンスターだった。死んだのは私のせいだ。私が三本足の凶弾犬に出会わなければグローも出会わずああいう最後にならなかっただろう。
ウサギのミナモはしっかりして周りをよく見て行動するモンスターだった。死んだのは私のせいだ。私が自分自身の悲しみを堪えきれなかったから、それをそのまま体に受けてしまったからだ、私がいなければ今もミナモは生きていただろう。
「ぅくっ、ひぐっ」
目に涙が溜まってさらに何も見えなくなる。
溢れて
溢れて
止まらなくて
今も私のまわりで
テュルフィングが
サイショウが
ディエースが
ウェスペルが
ズィルパーが
クプファーが
アイゼンが
苦しんでいる声が聞こえる
あの館に置いてきた、ヴァルトスもイャンターリもミョルニルも、とっても申し訳なくてどうしようもない
あれ?
蜘蛛隊のみんなは?
スズちゃんは?
「どこ・・・」
ヒューヒューと喉奥から声を出すのにも精一杯のなか、一言だけ発した。
まさか
まさかまさか
小さい子達は、さっきので・・・死ん・・・・
「無事ですか?」
トンと肩あたりに誰かの手が触れた。この声は・・・・!
次回は17日予定です
まだまだ序の口です。話が進むにつれもっともっと重くなる予定です