第320話
また遅い時間になってしまいました。なんか毎日毎日雨ばっかりですね。
王族から手紙を貰い、メイドさんことシーラちゃんが何故か私に心を開いてくれてから、早1週間が過ぎた。
イポトリルのウェールとゴーレムのバクヤが亡くなって悲しんだけれど、また悲しみが大きくなればなるほど、近くにいる仲間に何かの悪影響が出ないとも限らない。心を砕かず、心を無心にして、みんなに変な影響が出ないようにしないといけない。
それとディオさんもアンドレくんも知らない所でコッソリとカカロットくんが私の心配をしてお忍びでもう一度だけ来てくれた。手紙をもらった件でのことだった。
ざっくりいうと手紙をくれた主はあの場にいなかった人で、パーティー直前にならないと登城できなさそうだから今から会うのが楽しみだというもので、返事もいらないという一方的なものだった。書き方に悪意があるような感じにしか取れない書き方だった。
メイドの情報網っていうのは結構侮れないもので、そういう手紙を送りつける人だということがわかっていて、手紙を渡さないといけない状況に嫌気が差したのだという。シーラちゃんは良い子である。例え倒れた直後で気弱になっていても読まなきゃいけないものってあるよね。一応領主の婚約者だし。ははは。
カカロットくんは良く手紙をもらうらしくて、悪意があるわけではなく、ここの文面はこういう意図で、という解説に来てくれた。姉弟にしかわからない特殊技能でもあるんだと思う。
手紙について意見があったようでカカロットくんとシーラちゃんが口論じみたことになったのもいい思い出である。
だからまあ、そういうことはスルーだ。パーティーまでに用意しなくてはいけないことはほとんど終えた。パーティーまでにやらなくてはいけないことはまだまだあるけれど。ダンスとか、作法とか、喋り方とか・・・・。王族様方にはもうダメな所を見せてしまったあとなので、これ以上恥をかかないようにだけしたい。
ディオさんはここでも領地のお仕事を自室に持ち込んでいて、私もたまに手伝う。一度廊下で倒れてしまってから、何故か周りに病弱だと思われたらしく、想像よりも暇なのだ。アンドレくんや館のメイドさんたちからの前情報だと結構この時期にお茶会とか呼ばれるはずだから、とか聞いていたけれど、お呼ばれされたことはまだ無い。気苦労が少なくていいけどね。
社交よくわかんないし。会社の営業ならなんとなくわかるけれど。そういうアレと同じかなとは思ってるけど、日本の営業って基本男性主体だからなー。
ここで言うお茶会って完全に女性主体だから、イメージとしては、“セレブのおばちゃま方の会社の社宅の婦人会”っていうそういうヤツのイメージ。
もしくは、“ちょっと人間関係自体が複雑すぎて面倒くさそうなブランド好きのやたらとプライドの高い人の集まる系の女子会”。とかそういうさ、なんかこう壺の中の蠱毒のネチネチした感じがありそうなイメージしかなくてねー。
男性社会の中にもそういうネチネチはあるだろうけど、女性のネチネチは強烈なんだよ。
「モナ?変な顔」
キョトンとしつつ心配そうにサイショウくんが見上げてた。考え事し過ぎで顔がギニュッってなってたっぽい。眉間にシワがががが。
「サイショウくん、ぎゅーしていい?癒されたい」
「モナのぎゅー、好きだからいいよ〜」
ミニコブタならぬミニ白イノシシが可愛すぎる。少し毛が硬いけど、可愛いからいい。可愛いからいい。うん。
「モナ、アンドレがまた外出するって、ついてってイイ?」
抱きしめられながらサイショウくんが聞いてきた。数日に1回アンドレくんは外出している。最初は商会。次の時は工房関係。今度はどこだろう。毎回外に出たいうちのモンスター達はアンドレくんのご厚意で一緒に出させてもらっている。
前回はテュルさんが出る時と、中に戻る時にアンドレくんを利用する形をとって、ほとんど別行動したと言っていた。そういうやり方でもアンドレくんを使っていいとアンドレくん自身が言っていた。いやいや、ほんと、めちゃくちゃ申し訳ないよ。ほんと。
「スズは行かないからね!スズはいっしんどーたい!だからね!」
「うん、スズちゃんありがとう」
「えっへん」
「モナ!」
「そろそろ!」
「おっ?おかえり、ディエース、ヴェスペル」
「来てきて!あのお部屋」
「まゆまゆまゆまゆ」
グレムリン達がドバーンと部屋のドアを壊す勢いで入ってきた。あれから数日は護衛が部屋についていたけれど、何事もないということで今はもういない。グレムリン達の後ろからひいこらへえこらと走ってきたのは、シャタニくんだった。呼びに来てくれたらしい。そう今日は繭になったズィルパーが出てくる日だった。
使用人寮には基本的には私は入ってはいけないから、前回から一切来ていなかった。中にひさしぶりに入るけれど、待っていたのは前回と同じメンバーで、あの執事さんもいた。使用人寮の統括を担っているなら見ておくべきだろう。卵のカラを破るようにジワジワと穴が広がっていった。
数分後・・・・ディオさんとアンドレくんが後から入ってきた。までは何となくわかる。なぜか双子とクールビューティの王族3名追加でこの瞬間を見ることになった。
目の前に出てきたズィルパーは少し体をねっとりとさせたまま少し体を前かがみに丸めつつ出てきた。ヤギの角が大きくなっていた。体が毛を覆っていたけれど、何か良くわからないもので濡れそぼっていて貧相に見える。
そして目が開けられない様子だ。さすがにかわいそうなので拭いてあげようかと手を出そうとしたらアイゼンとクプファーに止められた。そのねっとりとした液体は魔力でできているので、種族が違うというだけで手が溶けてしまう事もあるからそのまま乾くのを待たなくてはいけないらしい。なにそれ恐ろしい。
体が乾くのをそのまま見守ると目が徐々に開いてきた。それと同じくして体を覆っている毛がふわふわとしてきた。体も丸めていたけれど乾くのを待っていたかのように徐々に姿勢が良くなっていく。まるで蝶が羽根を広げていく様を見ているようだ。
その姿はヤギといえ、私が想像するヤギではなくなっていた。私の想像するヤギはどんなのかって?昔あった“志村けんの声にそっくりなヤギ”達が私の中の平均なヤギ像だ。
今目の前にいるのはそういうのではない。毛が長い。ツノも長い。というかツノがこうグルンとなって悪魔を思い出すようなシナモンロールパンみたいなこう、グルンってなってる。毛もこう令嬢の縦ロール気味だ。身長もかなり高くなって私と同じくらいな上にツノも長さに合わせたら全体だと180cmいくんじゃないだろうか。なのに二足歩行のパンだ。
「え?モンスターのパンのままでいいんだよね?新種?」
「今回は残念ながらパンのままですね。別種に進化する時もありますけれど」
「なるほど!?」
私が驚いているのをさらに見学者の人達がわいのわいのと驚き騒いでいるのが聞こえる。「神々しい!」とか「面白い」とか色々聞こえるが、悪い印象の発言は無いようだ。少し安心。
「ズィルパー、おかえり」
「モナ、ごめん、ただいま」
おっと。行動はズィルパーのままのようだ。おずおずと近づいてぎゅっと私を抱きしめた。大人サイズになったけど、前と同じく体重をほとんどかけてこない優しさに溢れているのでぎゅっとしても全然重くもなんともない。
というか以前より毛が多くなって抱き心地がスゴくいい。デカくなったのに癒やされ指数が上がっている気がする。異世界のヤギはカッコイイのに癒し系だったのか。謎だ。
そして、これをあと2回繰り返すのか。と、思っていた私は浅はかだった。実はこの1回だけが特別に通常だっただけで、アイゼンとクプファーは出てきた時別種に近いモンスターに変貌していた。
でもソレの進化のおかげでこの後のパーティー本番での大騒動はみんなが助かることとなる。
「なぁんだつまんないの」
「進化っていうからピカーってなるのかと思ったよなー」
そのパーティーでの大騒動はやはりというか今もこの場にいた王族双子のせいなのだけれど。
「じゃあね、また楽しそうなことあったら招待してよねー」
呼んでないのに来る人間はどこにでもいるものなのだ。もう来なくてもいいよ。とは声に出して言えなかったけれど執事さんも変な顔をしていたから、まあ、そういうことなのだろう。
補足
クールビューティーな王族さんは一応双子が暴走しないようにと監視係の代わりに一緒に来た「ウッティーナーベ」さんです。略してウテナ様。第4王女。
双子の名前は「アムシャアロ」と「ルーララァメイスン」です。第4王子のアムロ様と第6王女のララァ様。
ちなみにお手紙のお相手はまだ出てないはずだけど第3王女。あれ?出てないよね
前に出たのは、アトム国王とヒューマ第2宰相とウテナ様とアムロ様とララァ様とハニィ様とアンドレとディオのメンバーだった。
ちなみに死亡している王族御兄弟は2名。第3王子と第5王子。
全く出てないのは第1王女と第2王女と第5王女と第8王女、って王女ばっかり出てないな。
IF世界(モナ視点中心)なのでそのへん書かずにさらっと流す可能性があります。ご了承ください。名前は決めてあるんだよね。どうでもいいか。
ちなみに事件とは、IF入ってからモナが言っていたあの、モンスターが出てくるんですね、ようやく。いつその事言ったかも覚えてないけど、モナにちゃんと発言させてたんだ。
さて、そろそろようやく、パーティーです。ここまでなげぇな!すみません!!!土下座!!
次回は6月5日の明後日の予定です。