第319話
真実は明かされていくのです。
つか、どんだけ秘密多いん。
「・・・う、ん?」
目を覚ますとぎょっとした。私の寝ているベッドにいくつかの重みがあり、それはグレムリン達とサイショウくんとパン達だとわかる。そしてベッドの先には見たことない大人達が5名。お年寄りなおじいさん3名に、キツイ感じの女性が1名、気弱そうな青年1名。そしてその5名のさらに後ろには廊下にいたはずの護衛さん達とこの部屋の専属で毎日来てくれているメイドさんと、アンドレとディオさんがいた。・・・気弱そうな青年どこかで見覚えがあるような。
「ようやくお目覚めかい?」
「え?」
ベッドの前しか見ていなかったけれど、ベッドの横側の天蓋のカーテンで見えなかった位置に、テュルフィングがいたようだ。
「テュルさん?これって?」
「なんだ、倒れたことも忘れたのか?」
「あっえっ?どのくらい寝てた?えっまさか数日経ってるとかじゃ」
「いいや、1時間くらいかな」
テュルさんがそう教えてくれると後方にいた2人が来てくれた。
「良かったモナ」
「姉上!」
「ディオさん、アンドレくん、心配かけてごめんね。もしかしてもしかすると、そちらの方々は」
「はい、私共は医者でございます。お嬢様。」
医者によると私は体内の魔力が乱れていたとのことで、精神安定を促すものを注射してもらったら落ち着いて目覚めたらしい。
「こちらはかの有名な、伝説のモンスターの魔石をポーションの要領で開発したものでして」
「あ、あの、その説明は不要です。」
「おおっと、失礼いたしました。そうですね、病み上がりですので、ゆっくりと休まれたほうが良いでしょう。何かアレばお近くの部屋に待機しておりますのでこちらのメイドさんか護衛の方で呼びにいらしてください。すぐに馳せ参じます。」
ふたりのうちのヒゲがモッサリしてるおじいちゃん先生の方は私を助けたその薬自慢がしたかったらしくよく口が動いたけれど、医者という本分は忘れていなかったのですぐに他の人とともに部屋をあとにしてくれた。
メイドさんも護衛さんも私が目覚めたので廊下や隣の待機室に戻るといい部屋を出ていった。
残されたのはまあ、いつものメンバーだ。どうせならディオさんもアンドレくんも出ていってほしい気持ちがある。さっきの痛みを思い出し始めてしまったから。
『かの有名なモンスターの』
お医者さんも悪気があったとは言えない。ここにこんなにモンスターがいるのに、よく言えたなとも思うがきっと、ここにいる子達よりもきっと、きっと、凶暴性の高いヤツだったんだろうと心に言い聞かせる。
「モナ、聞いて欲しい」
ディオさんが真剣な面持ちで私に話しかけてきた。グレムリン達は何故か私の1番近くにいながらずっと静かにしているから、その声はよく通った。
「緊急の魔術報が届いた。」
館にいる時に教えてもらったことがある、いわゆる電報みたいな、短文を迅速に送るファックスのような魔道具のことだ。とても小さい紙にすればするほど短い文しか送れないのだけれど、それだけ相手に届くのが早くなるというもので基本的に緊急の時にしか使われない使い方だという。
「これによると、私の館がとある冒険者崩れに襲われた。目的は、地下に生け捕りにしていた暗殺者の逃亡補助だったらしい。」
「あの、デートの時に現れた、リネアとかいう?」
「そうだ。」
ディオさんとは最初のデート以来、レストランデートを何回か行った。その何回か目のデートの時に毒でもなく射撃物でもなく、ある意味真っ向から首だけを狙って来た者がいた。それが彼女だった。
「お手洗いの帰りに後ろから首を狙われて廊下で戦いになったのはアレが初めてだったよ。逃げてしまったようだから、これからも後ろに気をつけないと。で、だ。実はその際に、あの小屋のモンスター達が見つかってしまって、戦闘になったらしく・・・・」
「どれだけ亡くなったんですか?」
「イポトリルのウェールとゴーレムのオスが亡くなったそうだ。他は人間も含むが、怪我をしてはいるが命に別状は無い。珍しくて弱いウェールが狙われて、バクヤが守ろうとしたらしい。」
よく見ると短い手紙が山のように。それだけ送れば短くても情報が多く届いたことだろう。
「ヘビ肩の王様やヴァルトスが自分で送りたいと、館の執事に無理を言って沢山送りつけてきた。この手紙は君に預けるよ。捨ててもいいし、好きにしてもらって構わない」
「はい。ありがとうございます」
「・・・ロホとアマリリョも君の言いつけを破ってそこで見守ってくれている。何かあれば私もすぐに駆け付けるから呼んでくださいね」
こっそりとても小さな声で『カカロットも心配で先ほど医者に紛れて来てくれていました』と教えてくれた。ああ、見覚えあると思ったらカカロットくん、いつもこっそりだなぁ。忍者だろうか。
「姉上、俺チカラになれることがあれば、俺も!」
「そうだな、ええと、アンドレ、話がしたい。私とな、いいか?」
アンドレくんの言葉に即座に反応を示したのはテュルさんだった。
「え?あ、ああ?いいぞ?明日のグレムリン達のことか?」
「まあそんなところだ」
ディオさんは私の手の甲にキスを落としてから、モンスター達と話がしたいだろうとアンドレくんとともに部屋を出ていってくれた。テュルさんもそれに合わせてアンドレくんと話がしたいと少し離れると出ていってしまった。
少し悲しみが込み上げるが周りにはみんながいる。優しいみんなが。グレムリン達は我先にとしかし、私に配慮して大声は出さずに発言しだした。
「モナ、俺達、モナ守った!エライ」
「倒れたモナ、テュル運んだ、スゴイ」
2匹の頭を撫でた。
「あのね、オレ、悲しい。ウェール大好きだった。本当に死んだの?オレ信じられない。だって感じなかったのに、なんで?モナもテュルも感じたのに、オレも痛み知りたかった。」
首輪をしてしまっていたはずのサイショウくんは何もわからなかったらしく悔しさを涙にしていた。イポトリルのウェールは性格が優しかったから、神の使いの子のイノシシのサイショウくんとは似たもの同士だったから、とても仲が良かった。親友とまではいかないまでも、まるで兄弟のように仲が良かった。
この痛みについては私もよくわかっていない。前は全員共有してしまっていたと記憶していたはずだ。そう、そのせいでゴーレムが私の心の傷に比例してゴーレムの中に空洞ができてしまった。
いつからか、ほとんど何も感じなくなっていたから、そういう感覚がモンスターの数に比例しているのだと思っていた。しかし今回3尾から5尾に成長中のテュルさんが、痛みを共感した。
私の力がテイマーなら全てが平均になるはずだ。仲間になって館に置いてきてしまった、タヌキのキジンさんが言っていた。『個人に固定された職業はそれ以上でもそれ以下でもなく機能する』と言っていた。
「モナ、俺達離れていて守れなかった、ごめんなさい」
「ごめん」
1時間前に別れたはずのアイゼンとクプファーまでもが目の前で私を心配して謝っていた。
「ううん、ふたりはヤマーくんたちの手伝いに行かせて、さっきも部屋で別れたんだから離れていて当然でしょ。私がいいと言ったんだから。悔やまないで。私は少し倒れただけ。大丈夫だから。それにさんにんは戦闘方面はみんなと違うんだから、これも修行の一環って自分で言ってたでしょ。忘れたの。パーティーまでに、もっと成長するんでしょ、離れてでも頑張ってもらわないと」
「「ごめん、わかった。ズィルパーも出たら言っておくね」」
一言一句声が重なった。グレムリン達はよくあるけれど、パンのさんにんはそういう事をほとんどしなかった。今はパンはふたりだけれども、初めてのことだった。
「少しよろしいでしょうか」
一度出ていったメイドさんが戻ってきた。ノックをしてドアからは一応伺ってから入ろうとの意思が見え、まだ部屋には立ち入っていない。
「入っても構いません。どうしましたか」
「こちらのお手紙をお渡しするようにと、その、」
メイドさんにしてはモゴモゴと口ごもる。本当は渡したくないような感じだ。
「ごほん、いいえ、失礼しました。こちらのお手紙を以前、王族様方に連れて行った執事様から預かりました!この特別な封蝋は、私はどこのものだか存じ上げませんが、王族のどなたかからの物と存じます。」
メイドさんが色々吹っ切って言った。それを見たらなんだか妙に可笑しくなってしまった。だって、少し怒っているからだ。執事さんにか、それとも王族にか、もしくは私が疲れているとわかっていながらこの部屋に入らざる得なかった自分自身にか、どういう理由か私にはわからなかったが、彼女は何故かお怒りだったから、だからこそ、妙に可笑しかった。
「ふふ、ありがとう。手紙はこちらに。」
「なんでお笑いになっていらっしゃるんでしょうか?何か手紙に心当たりでも?」
「いや、もう、なんていうか、王城のメイド辞めて私の専属になってほしいなとつい思ってしまったから、ついつい、ね。」
「え?」
「メイドさん、ごめんね。また用があったら呼びますからまた下がってください」
「シーラウルドでございます。今後は名前でお呼びなさってください。シーラでも、シーでもお好きなように。」
「ありがとう。これからはシーラと呼びますね」
メイドさんは初めてニッコリ笑ってその場を後にした。そしてその笑顔で今更気づく。いつもキリッとしていたからそれなりの年齢だと勝手に思っていたけれど、アンドレくんと同じかそれよりももっと若いのだと。
明日も更新予定です
今更ですが実はメイドである、シーラウルドちゃんは、IFじゃないほうに出ている、ミリーちゃんの友達のシーちゃんです。
死んだ姉弟の友達が死んでしまって心を痛めたのは親だけではなく友達も、なのですが王都にいるんです。まだIF世界篇で出せてないキャラも王都にいるんです。
名前はシーラとウルドのかけ合わせで、シーラウルド。「運命を編む女」という意味で作った造語です。