第312話
「アナタの子供が欲しい。それが私の、私からのアナタへの願いです」
好きだ。好いてくれているという気持ちを私に向けてくれた人からの衝撃的告白。わかっている。でもね、私は最初から1つのことを言い続けている。忘れたとは言わせない。
「ディオさん私は異世界から来ました」
「はい」
「神様に言われたことを終わらせたら帰るつもりです」
人間として殺される前に跳ね返してからになるけれど。
「はい。わかっています。ですから子供が欲しいのです。」
「ええ」
頭を抱えたくなる。
「私はアナタが好きです。そしていつかは居なくなるのも了承している、が為に、結婚を進めずに婚約者としていてもらっています。まあ、その方が生活が都合が良いとして食客などではなく、ということも考慮してというのも念頭にあったと思いますが、私は、モナ、アナタをとても手放したくないと思ってしまっています。この思いはもう何も知らなかった時に巻き戻せるものではなく元には戻せないのです。」
「・・・」
「しかし、先程も私の口から出たように、帰ることには了承しています」
「つまり、帰っていいから、その、私がいたという、証を、って・・・そういうこと?」
「・・・はい」
子供を産める女だからこそ言われた言葉だ。あと、神様のお役目が思ったよりも長いってことで、そんくらいいけんじゃねってきっと周りから言われたに違いない!!でも待って!その前段階が無理ですよね!?!?
「ディオさん!」
「はい」
「お気持ちはわかりましたが根本的な部分が無理ってわかってますか!?」
「どのような前提でしょうか?」
「だってその言い方だと、つまり、養子とかじゃなくて、ディオさんと私の子ってことですよね!?それって、下半身が車椅子生活の状態のディオさんには出来ませんよね!?」
「それなら大丈夫です」
「はい!?!?」
ニコリと笑ったディオさんはやっぱりイケメンでした。じゃなくって!!
私はその辺りまっっったく知らなかったけれど、この世界には現代地球と同じぐらい、いや、もしかするとこっちのほうが遥かに進んでいるのではないかという分野があった。
つまり、医療だ。
なんでかと言うと、漫画やゲームでお馴染みのポーションが発達しているからだ。
“ポーションがあるだけで死者が減る”
つまり、それを応用した技術があり、西洋医療と言われる人を切り異物を取り除いたりする手術の失敗自体がポーションの流用により、格段に減っているのだ。
よく医療ドラマで「血が多く流れてしまって、生命の維持が困難でした」なーんてシーンは、早々ないと言っていい。ポーションをかければ、止血なんてお茶の子さいさいなのだ。
そして、子をもうけるにも“試験管ベイビー”という言葉がこの世界にもあったのだ。そして、さらにさらに、絶対に無さそうな言葉“精子バンク”これまでこの世界にあるという。なんでやねん!
「今のところ王族と上位貴族だけですけれどね。さすがに一般人のそれの保管する場所は作れません。数が膨大になってしまいます。」
「なるほど。んで」
「私の子はつくれます。」
「さいですか」
ドレスの採寸とか色々やったあとにディオさんと2人きりでディオさんの部屋に滞在しているのに、なぜだか今が1番、異世界にいるような気がしてしまう。
それはなぜか。
この人の側は心地よかったからだ。言葉が、話が、通じる。理解りあえる。共感する部分がある。でも、唐突にそれを言ってしまうアナタがコワイ。
わかっている。私のこれは単なるワガママでお遊びだ。婚約者って肩書も、夢うつつの戯れだとか、ゲーム画面のキャラクターが目の前で私の事を好いてくれているような、そんなおとぎ話の延長にいるような、そんな、ふわふわとした感じに酔いしれていたに過ぎない。
現実なのだ。
「モナ」
「・・・なぁに?」
「ただの願いです。断ってくれて全然構いませんよ」
めっちゃ悲しそうな顔してるのに!?私の精神を試しているので!?ふぁー!?
「ディオさんっ!!!」
おっと大きい声を出しすぎた。ひくっ・・・。
「はい」
「か、考える時間を、ください」
声が小さくなっちゃったのは仕方ないよね。聞こえたかな。聞こえたよね。声が小さかったけどこの部屋は静かだし、2人しかいないし、2人は遠くない。
「わかった」
この王城に来てから、テュルさんもそうだけど私にみんな投げかけすぎではないだろうか。
私はどうしたらいいのかを考える。
そうココは色々なことが起こるべき場所だから。
王城。
異世界。
私はここでは結局、異物である。
気づけば肩にスズちゃんが寄り添ってくれていた。鳴きもせず。ただただそこに居た。
ゆっくりと部屋に戻りながら城の窓から見えるキレイな景色に言葉も出ない。
次回更新予定は毎度のことながら明後日予定です
おわかりかと思いますが、今回の話は、あのケセランパサランのフテゥーロちゃんの話に繫がるのです。