第294話
いけないいけない。ディオさんはイケメンだし、破壊力抜群の男性だし。浮かれてしまう。頬が緩む。
じゃなくて!
「私そんなに歌ってないはず・・・」
「私の前ではあまり歌っていないけれど、ひとりの時に歌っているでしょう?たまに声が大きくなっているのか、館の配管のパイプから声が伝って聞こえることがあります」
んがっ。む、昔の建物アルアルだっ。昭和のアパートかっ。くっ、恥ずかしい。あああ、顔が真っ赤になっている自覚がある。
「た、例えば、ど、どんな歌か、なー、なんて。」
「最近はあの歌が多かったかな、ええと。こほん。・・・・ジャララーラー、ラーラーラー、ジャラジャラー、ごぜにぃー。いちえんだーまー、じゅうえんだーまー、ごじゅうえんだまー、ごえんだまー、ジャラーラーアア〜〜・・・かな?」
うっんっ!私めっちゃ口ずさんでいましたね!?ディオさんがソラで歌えるくらいに口ずさんでいましたね!?はっずかしぃぃ!!しかも、なんでその曲なんだ、私。いや、好きだからですかね!?
「マイナスターズ」っていう「さまぁ~ず」の歌ですよ!?「エレファント」とかも好きで・・・じゃなくて、えっとぉ・・・。
「所で聞きたかったんだけれど、この歌に出てくる“いちえんだま”とかって小銭と言うくらいだからモナの世界のお金ってことでいいのかな?」
「1円玉は庶民が使う最下級のお金です!えっとこの国の銭貨と同じです」
「そうなのか!じゃあ他のも?」
って聞かれたけれどこの世界だと確か。
王貨・・・1000億円
白貨・・・10億円
金貨・・・1億円
準金銅貨・・・1000万円
銀貨・・・10万円
銀銭貨・・・1万円
準銅貨・・・1000円
銅貨・・・100円
銅銭貨・・・50円
鉄貨・・・10円
銭貨・・・1円
こうだったはずで、日本だと千円から上は紙幣で一万円までの紙幣までしかないから、この世界のほうが貨幣種類豊富なんだよね。
「似てる所もありますけれど、ここのほうが覚えるのは大変です」
「そうなのですか?」
「そうですよ、お金に関わらず私の世界にはもう廃れているものも多いし、逆にここの世界のほうが発展しているものだってあるから、この年になって覚えることが多すぎて毎日パンクしそうだったんですから」
とくにこの4ヶ月ね。
消えた4ヶ月?
消えたんじゃない。消しとんだんだ。
今までやったこと無い、ドレスとヒールの高い靴を常に着用に慣れること、ダンスレッスン、食事マナーだけかと思いきや、日常の細かな動きのマナーに手紙や言葉遣いのマナー。
なにか合った時の緊急時にどう動くかマナーの上で下品にならないように、逃げたり、かわしたり、言いくるめたりするレッスン。
貴族の皆様方の顔と名前と家族構成どこから来訪されるのかとそこの特産品について全部暗記、暗記、暗記。
むりむりむりむりむりむり。って言っても聞いてもらえず、高校受験?大学受験?就職活動?イヤイヤイヤイヤ、その3つ全部合わせた感じになるぐらい詰め込んだよ。
普通に考えて無理ゲー状態だったよ。期間があって良かったねっていうだけで、少し優しく詰め込み具合をやんわりにしてもらえたみたいだけど、プントさんのスパルタに毎日苦心した。
プントさん、仲間にするんじゃなかった。師匠なんてするんじゃなかった。そう思った時もありました。
キジンさんも追加で淑女教育参加したらプントさんのみだった時はまだ天国だったと知った時はもうほんと、もうホントに、崩れ落ちそうになったよねー。(遠い目)
『よく出来ました。貴方は淑女です。』
ブワッと嬉し泣きしたのは27年生きてきてこれが初めてだったよ。
ちなみにプントさんは元執事だからそういう教育知っててもおかしくないけれど、キジンさんがなぜ知っていたかというと、約20年前に出会った人間に教えてもらった作法らしく、それを踏まえたから今のシャナリとして上品な二足歩行の美女タヌキが出来上がったとかなんとか。
20年の差があればマナーやダンスに流行遅れが発生するはずだけれど、そこはテレビやラジオやらの情報源が無く、新聞みたいな情報源のみだったのもあるし、田舎と都会じゃ移り変わりの速度も段違い。20年ぐらいなら、大したことないって言われた。まじかよ。
モンスター比較じゃなくて?
モンスター比喩とかだったら怒るよ?
最終的に恥をかくのは私とディオさんになるんだから。
「心配そうですね」
「ふえ、顔に出てました?」
「出てました。出てました。」
うんうんと頷かれた。
「王城についたらアンドレとまた再確認すると良いですよ」
ディオさんは基本、車椅子なので踊れない。でも、貴族のルールみたいなもので、貴族籍に連なる者が王城のパーティに出るのなら一度は必ず踊らないといけないっていう洗礼みたいなものがある。面倒だけどね。
私はそれに当てはまるからとアンドレくんと一曲でいいから皆さんの前に立たないと行けないらしい。面倒だけどね。
「私の足を動かしてもらっても構いませんよ」
「それは私が嫌だと言いましたよね!?」
ディオさんは運の低い、いやむしろ女運が皆無かもしれない人間だ。そこに私のスキルやら魔法やらで目立つことになったらどうなるか。
『王家のご兄弟ご姉妹様達に、色々こき使われると思います』
『貴族達の圧力がかかって王都キングヴァギアンからこのロッテリーの街に帰さないように画策されると思います』
『きっと変な女性も群がりますよ。うう、絶対怖いです!』
と、山川谷トリオが言っていた。あながち間違いでは無いかもしれないと、ご本人からも唸り声が上がった。だから、それは絶対無しなのです。
ディオさんが大事だから。
「ディオさんが悲しい顔になりそうでイヤだから」
「本当に貴女は、ステキな人です。」
「ふふっ、褒めてもなにも出ませんよ」
「そうみたいですね。ああ、それなら、そのうちお願い事を聞いてもらってもいいでしょうか?」
「願い事?」
ディオさんが?珍しい。
「いいですよ、どんな願い事ですか?」
「かなり難しいことなのですが・・・」
「おおい!真面目くん!こっちの部屋に来てくれ」
ディオさんの言葉が遮られ、呼ばれてしまった。
「また今度二人きりになった時にお話しますね」
残念無念、また来週。ううん。
次回は31日予定です