第288話
そこには屋根が朽ち果てて今にも落ちそうな民家の成れの果てが広がっていた。草はボウボウ、木は生い茂り、周りから小屋を隠すのに適しているとも言えるほど、枝や葉が辺りを覆い尽くしていた。
そういう様相なので夜ということも相まって、不気味な雰囲気を醸し出していた。そこに少し近づくと、気配察知能力の一切が無いモナでもわかるほどに生き物の気配が充満していた。
むしろ気配がわかるならばその辺りを取り囲むケモノ達の多さに足がすくむかもしれないし、警戒を強めて1度その場を離れるという選択肢を取るだろう。しかしながら、モナが歩みを止めないので先頭に立つ赤蜘蛛隊のリーダーのロホも先んじるし、殿のハシビロコウのミョルニルも後を付いていった。
暗闇で光り輝く目の多いこと。ケモノ特有の匂いが辺りを包んだけれど、モンスター小屋に慣れてきていたモナにとってはいつもの小屋の匂いとあまり変わらずその場に立っていた。
品定めをされているのだけは空気でわかったので何も言わずその場で目だけを軽く動かして声をかけられるのを待った。モナにとってはこの2週間からするといつもと同じ光景だ。少し周りにいるモンスターの数がそこそこ多いだけが違う程度。
そして風が吹くようにざわついていたモノが消え失せると、しびれを切らした1匹が声をあげた。
『そこにいるは、キツネか?』
声はどこからともなく響くように聞こえてくるので、どこに返答すればいいのか迷うところだったけれど、3尾のキツネのテュルフィングは、ある1点を見つめつつ返答した。
「私の名はテュルフィング、見ての通りキツネだ。この辺りを統括していると聞き及ぶ、キジンというタヌキに用があって私達はここに来た。」
『オマエは取り次ぎをしてやってもいい。しかし、蜘蛛やトリ、はたまた人間など、信用できない。オマエだけこの先に進むか、その者たちと共に帰れ。どちらも守れない場合は、この場をもって排除する。』
だいぶ好戦的な物言いだった。テュルさんは後ろにいるモナに目配せをして、頷いた。モナもそれだけでわかり、反応を返した。
「わかった。このモノ達は少しこの場所から下がらせたのち、私ひとりでそちらの取り次ぎをしてもらいたい。」
そう、テュルさんが発言するとその目線の先の場所から、何匹かが動いた音がガサガサと鳴った。テュルさんがまた後ろを向いたので、前にいたロホはモナの頭に乗っかり、ミョルニルさんとスズちゃんと共に、2メートルほどもと来た道を下がって行った。
とくに指定も無かったし、もっと下がるようにとも言われなかったので、その場で待機していると、前で動かずに待機していたテュルさんだけ、合図を言われたのか動き出して小屋の1つに歩いて行く姿が見えた。
5分だろうか10分だろうか。時間が過ぎると、またガサガサと音が聞こえた。音のする方を見てみるとテュルさんと、テュルさんの頭に丸い小さなタヌキが乗っていて、その姿のままこちらに戻ってきていた。
真剣な面持ちだからこそ、なんだかホッコリしてしまいたくなるような、そんな姿のだったけれど、気を引き締めて聞いてみた。
「テュルさん。話は終わった?」
しかしテュルさんの返事は無く、テュルさんはそのセリフを聞いた瞬間に頭のタヌキに対して質問をぶつけた。
「どうだ?」
それに対して丸い小さなタヌキは
「うん、大丈夫そうだ。いいよ。」
とテュルさんに返答した。それを聞いたテュルさんはさっきの私の質問に時間差で答えた。
「モナ、話はある程度はしたけれど、終わっちゃいない。今から君達も会いに行くことになったよ」
「・・・わかった。ありがとう」
少し驚いたから反応が鈍くなった。
テュルさんはそのまま出てきた小屋に私達の案内をするかのように、戻っていく。少し離れていたから早足になったけれどロホとスズちゃんとミョルニルさんと一緒に小屋に向かった。
中に入ると薬草のような独特の匂いが充満していた。まるで占い師のテントに入ったかのような、そんな気分になったのだった。
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