第280話
「ああ、色々と経由していたけれどようやく大元の黒幕が発覚したよ。」
「どなただったのですか?」
アンドレは口には出さなかったけれど、目が血走り始めて“お兄様を苦しめたやつを抹殺してやる”という言葉が顔からにじみ出ていた。
「やはりというかなんというか・・・元妻の不倫相手の一族だったよ。」
チャルチャロスという男の一族が報復。とてもわかりやすい相手だった。アンドレは血走った目は落ち着きを取り戻した。いや、むしろ、落ち着くしかなかった。怒りを通り越して呆れた。わかりきっていた相手だったために、よくもまあ、ことごとく隠しきれたものだと感心さえしてしまえるほどに。
ディオことディオールウェリスは元王族であった。そして今はこのロッテリーの領主だ。そんな人間に行動を起こした女性と気持ちを同じくした男性の待つ末路は虚しいものだった。
「彼は、彼自身は、都市伝説にでもなるんじゃないかぐらい、噂になってしまったからね。調べなくても耳に入るくらい、まさか壊れてしまうだなんて。」
元々の領主の娘であり、ディオの元妻だった女が殺人未遂をおかした事により、チャルチャロスという男性はまだ若いのに徘徊をし、唸り、急に泣き叫ぶだけの人間になってしまった。
「そこで毒を巧妙に入れた人物もようやく見つけたんだけれど、そちらもなんというか・・・・」
「どうしました?」
「・・・・捕まえることができなかったんだけれど、捕まえてしまうと困る相手だったんだよね。」
「そんなことってありますか?困る相手??」
「そう、私達が彼女をそうしてしまった可能性があるから、むしろ私達が謝罪するべきは彼女だよ」
「・・・?」
「覚えていない?まあ、アンドレも子供だったからね。でも聞けば思い出せるはずだよ?メイドの1人で、アンドレを殺そうとしたという事件が昔あっただろう。まあ結局その2年後には事実が明るみになって、彼女は実は冤罪だったということがわかったのだけれど・・・・」
「あっ」
「リネアというメイドがチャルチャロスの一族の依頼を受けて私に毒を盛る仕事を受けていたらしい。また毒で出会えるなんて、運命かもしかしたら、神のイタズラかもしれないね」
そんなイタズラは滅してほしい。
「また襲う算段をしているらしく、どこかでこの館を見ているらしいよ」
「しかし毒ではこの館では効きません。」
「だからこそこっそり伺っているんだろう。」
「爺様の“解毒スキル”は特殊ですからね。爺様が料理したもの、スキルを使ったものは、一定の時間毒に一切侵されなくなる上、体に溜まった毒をも消し去ります。暗殺するにしても毒殺はほぼ無理です。」
この館の専属コックのおじいちゃん。1度“年だから”と館のコックを辞めたのだが、アンドレの事件の後に復帰し、その後ずっとこの館の料理を監修している。
「スゴイよね。若い頃は料理を作ってから半日以上スキル効果が継続したらしいよ。クッキーとか作らせてずっと手元においておけば、その日は安泰だとか言われてたとかなんとか。ふふっ。今は年なのか2時間程度で効果が切れてしまうけれど、毒味を気にせず、温かい食べ物が食べれるから重宝してしまうよね。」
「王城だとなかなか温かい料理はありませんでしたからね」
「冷めても味が変わらないように脂身も最初から少なめ。この土地に来てから私結構太ってしまったんだよ?」
「えっお兄様、どこがですか??」
アンドレは宇宙ネコな顔になる。驚き過ぎたアンドレの顔にディオは吹き出しそうになるが、至って真剣そうなので、スルーした。掘り下げても最終的にツラくなるのは自分の発言の失態度合いに変わるだけなのだから。
「んんっ、それでね、今は私の方に向いているのだけれど、そのうちアンドレやモナの方に向いてしまう可能性も無くはない。もし、暗殺者として今まで完全に身をやつしてしまっていたなら、暗殺者というのは捕まって逃げられないと悟った瞬間に自害しようとすると聞いたことがある。どうにかそうならないように、大人しく捕まえられないかと思ってね。なにかいい案はないだろうか?」
「暗殺者なのに捕まえるのですか?自害するなら放っておけばいいのでは」
そう言葉にした瞬間に、ふ、と、レフティが旅立った瞬間をアンドレは思い出してしまった。
悪い人では無かった。だったら、あの3本足も悪い犬では無かったのか。しかし姉上に怪我を負わせた。しかしアンドレ自身はモナの話を一辺倒に聞いただけでは、戦闘は主に犬同士の戦いだったからと聞いている。
アンドレ自身は“それは嘘がほとんどでは”と勝手に思っていたけれど、もし悪い犬ではないのなら、モナの言葉は嘘など一切無かったのかとも思う。いや、しかし、心配されたくないと顔に全面的にでていたからこその“嘘をついている”と思った根拠だ。
なら何が悪かったのか?姉上が怪我をした原因は竜巻のような風に吹き飛ばされて細かいキズをたくさんつけたことだ。つまり、3本足の魔法が悪い。つまり、悪いやつじゃなかったにしろ、姉上がキズついていたのなら、悪い。
つまり、それと合わせて考えると、お兄様に毒を盛る前に毒で疑われて追い出されたという、その仕返しにこんなに時間の経った今、因縁を引っ提げてくるリネアという女は結局そういうやつなのだ。
少しだけだけれど、実は悪いやつなんていないのでは?と思いかけたけれど、粘着している時点でアウトだ。うん。アウトだ。
「うん。お兄様、自害したければ自害させたほうがいいです。」
「急に考え込んだと思ったら、目が死んだ魚のようになったけれど大丈夫かい?プント呼んで来てもらおうか?モンスターハウスによくいるみたいだから今もそこにいると思うよ?」
「大丈夫です」
「本当に?さっきも部屋に入って来た時はそんな虚無感漂う顔になっていたからかなり心配したんだよ」
「うっ・・・申し訳ございません。実は、その、お兄様には話しておかねばならないことが起きてしまいまして。」
「なるほど」
「姉上にお話するべきでしょうか?」
「そうだね。しかし、言ったところでモナは何も出来ることはないと思うよ。それにアンドレの師匠がその凶弾犬となにか悪さをしたところを目撃したわけではないのだろう?そのご婦人方がモナの戦闘の時について話に出たことがない。アンドレが感じただけの憶測のように思えるけれど、どうなのかな?」
「そ、れは・・・・・はい。ほとんどが憶測の域を出ません。」
「それなら、言うべきではないね。混乱させるだけだよ。それに当分帰ってこないと言っていたのだろう?」
「はい。」
「これは2人の秘密だ。」
「わかりました。」
―――――――――――――――・・・・。
『君はとても2人に愛されていたよね』
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『この世界で仲間にした全てのモンスター達が力を貸そうとしてくれるだなんて、特異なことをさせた姉は、罪だよね』
―――――――――――――――・・・・ぐすっ。
『ごめんね、本当に。』
かの人は、まっすぐ真摯に向き合っていた。それがたとえ、横竪様と同じ存在だったとしても。
モナ(5歳)「次回は21日予定です!ぐすっぐすっ・・・」
神様「ごごごめん!泣かせるつもりじゃなかったんだよ!?ほら、フテゥーロだよ」
フテゥーロ「モナママぁぁあ〜〜!ぼく、わたしで涙ふいて!」
モナ(5歳)「それは無理!!」
フテゥーロ「がーん!」
神様(・・・えっ、なんでイケると思ったんでしょうか??フテゥーロ?)