第267話
その話をした後のディオの部屋にはモナの姿は無く、代わりにアンドレが来ていた。
「モナさんがまた泣いていると聞きましたが・・・」
「むしろ悪化させてしまったようだ。私の行動に配慮が足りなかった。私はいつもこうだ。だから刺されるし、公の場にて婚約破棄を言い渡されたりと、女性に恨み言を言われるような人物なのだ」
「いいえ、お兄様はいつだって正しく生きようとしていらっしゃいます」
「“正義”なんて、コインの片側の面だけでしか見てない人が言う、都合の良い言葉なんだよ。それなのに、私は・・・」
よっぽどモナの絶望した顔に堪えたのか、ディオもかなり落ち込んでいる様相がアンドレには伝わった。
この土地の神を貶める発言だとかどうかとかは、聖職者ではないしディオ達王族は、「神には敬意を」とは教わるが、一般市民の一部の人達のように神に対して陶酔するようなそういう教育は受けていない。
むしろ建国した王のご兄弟が近くの街の土地神になっているというのは有名な話なので、むしろ王族も神と同等と考える人も大かれ少なかれいる。しかしそういうことを主に言われるのは第3王子・王女辺りまでで、王位から遠い末席とも言えるぐらいの第6、第8王子など、その辺の貴族と同じ扱いである。
ディオはロッテリーの街の領主として王家から出てしまっているので、出てからは本当に単なる1貴族になった。
「ところでパーティは」
「振られたに決まっているだろう」
決まってはいない。なんせ、アンドレからみてもモナはディオのことが嫌いではない。好意を持っていることがわかる。誰が見ても、だ。
「ではいつも通り俺が付き添います」
「ありがとう」
アンドレは微笑んだ。アンドレはディオを親よりも乳母よりも、1番身近で1番アンドレの事を育ててくれた人物なのだ。
ディオの下には弟妹がいる。ディオの弟妹は、すぐ下に第7王女と第8王女、次にアンドレ、その次に弟のカカロットだ。ディオは弟妹を大事にしていた。大事にし過ぎてあらぬ噂が立ったりもしたけれど、ディオのすぐ上の兄が亡くなった時に、ディオは決めたのだ。私より下の子達は政治の道具にされないように守るのだと。
アンドレの上の第7第8王女達は女の子ということもあってか、頭の回転が早かったこともあったのでそこまで生きるのに苦労はしなくて済んだようだが、アンドレは違った。
特殊な能力に目覚めてしまってからは特に。
「しかし、また何かあれば私に言ってくれよ」
「お兄様、もう俺も大人ですよ」
しかしアンドレは未だに痩せ気味で目にくまもある。最近少し改善の兆しがあるけれど、未だに小さかったアンドレが隣にいるような気がする。もう大人なのはわかっているが、親よりも親代わりだった為か、心配だけはいつまで経っても尽きない。
「お兄様、モナさんのことなのですが」
「うん?」
「あのウサギのミナモが亡くなってから意気消沈してしまったのであれば、大昔にあったと言われる、禁忌の、人体蘇生魔法などを調べてみるのは・・・どうでしょう?」
アンドレもダメだとわかっている。わかっているからこそ、恐る恐る提案した。
「ミナモの遺体は火葬するようにと執事長が神殿側に依頼する前に、俺が勝手に、保存魔法をかけて棺にしまっておいてほしいと、依頼を変更して、その、」
「神殿の遺体安置所に保管してあるのかい?」
「はい。申し訳ありません」
「・・・」
「・・・」
「そうだね、私の研究でもこの動かない私の足を動かせるようになったりすればいいのにと、少し研究してはいるけれど、つまり、それの延長として、動物が生き返る魔法を作れるのか、というのをやってみるのもありかもしれないね。ただ、私は鉄ゴーレムとか椅子ギミックとかみたいな物は得意だけれど、魔法の効率定義縮小変換とかなんとか、そういう事はあまり得意ではなくてね。どうしたもんか。」
「それでですね、よろしければウマの方を味方に付けて巻き込んではと、思っています」
「ああ、あの人か。いいんじゃない?巻き込もう」
―――――――――――――後に、この研究が私が5歳として復活する際の手がかりになるだなんて思いもしませんでした。なんせ、私は、この時自分のことでいっぱいいっぱいだったから。
次の日
「モナさん、ディオ様とご婚約されたのですか?」
「え?何の話?」
自分の部屋で休んでいたら、シャタニくんがお茶を運んできてくれた。その話が気になり過ぎて、お茶の味がしなくなった。
大体私はさっきの今でディオさんには顔を合わせづらい。ディオさんは嫌いではないけれど、今は本当に距離をおきたい人物になってしまった気がする。
「でも、今夜のパーティに誘われたのですよね?」
パーティ、今夜だったの。急過ぎるのでは。
「断ったんだ」
「そうでしたか。ではいつも通りアンドレ様とお出になるやもしれませんね。後で確認取っておきます。アンドレ様とお出になる場合、今夜はモナさんだけでの食堂でのお食事になってしまいますね。お部屋に運び込みましょうか?」
「シャタニくん達はいつもどこで食べてるの、いつも結構見かけないけど。」
「メイドや執事が食をする専用の食堂があります」
あっそうか、ダウントン・アビーのドラマみたいな感じってことだね、なるほどなるほど?
「私も、そこで食べたい」など少しだけわがままを言ってみた。叶わなくともそういう希望は取り敢えず行っておくことが大事。
そしてその夜アンドレとディオさんはパーティ用の衣装に袖を通して、出かけていった。帰りは遅くなるからと、私は2人が帰って来るのを待たずして寝た。
翌朝
「え?会えない?」
「申し訳ありません、領主様は昨晩のパーティでだいぶお疲れのようで本日はお食事も自室で取るとのことです。」
ディオさん付きの執事に言われた。
―――――――――――ディオさんが夜中、毒に侵されて戻ってきていたなんて知らなかった私は、会えないことに少しだけ安堵していた。私は本当にバカ者だった。
ちなみに第1王子は、このif世界では国政をになっていていつ王としての戴冠式をやってもいいぐらいの王太子。年齢離れすぎてアンドレからしたらお父さんレベルの年の差。
次回は28日予定です