第265話
モナはグローの話を聞いて自分がいかに無知蒙昧だったのかと呆れた。
モンスターだろうと、全て個々で、1個体で、一つ一つに魂があって。HPゼロとは、つまり、命を取る行為。
食料として動物を捌くのとは違い、ただただ狩っていくだけの行為。ゲームのモンスターハンターとは違い、素材集めなどもせずただ殺していくだけの過程をこなす人形のような、そんな仕事をしていた。
たとえそれが女神様からの依頼だったとしても。だ。
ここがもし日本なら?
そうモナは日本なら、そんなこと言わずもがな、やることをためらった。
しかしここは異世界。
異世界なのだ。
“勝手が違うから、きっとこういうものだろう。”
“なにせ異世界だから。”
その考えに甘えていた所が少なからずあったのは事実だ。
そしてあの殺戮キャラクターのような夫婦の気持ちがわかったような気がした。気が狂ってしまったほうが正気でいるより、楽なのだ。キッカケが何であれ、最終的なモノが同じなら、同じ殺戮者だ。
私はテイマーという職業を口実にしてそれを入口にして、モンスターの殺戮者になったのだ。そう感じた。
大体、先ほどグローが言っていたやり方にはモナにはかなり覚えがある。現実の話ではない。ゲームの話だ。
ドラクエとかポケモンとかの感覚だ。ゲームのモンスターなんてものは“HPゼロになっても次々に湧いてくる”。モンスターとはそんな概念だった。そしてこの街ではその概念が通常と化した日常が昔あったのだ。
都合の良いゲームや、ダンジョンという特殊な空間という、そういう、目の前のものが死んだら素材だけ落として消えるとか言うのはこの世界には無い。
今までモナが戦っていたグローの仲間だったモノも、その後倒した蜘蛛やゴーレムなどなど、全てそこに血や肉が残っている。
全ては片付け切れないが、モナは水魔法や土魔法で辺りを洗浄したり、できるものは土に埋めたりしていた。
グローの見てきた光景はとどのつまり、モナのやっていたその行為すらやっていなかったということ。そしてその放置されたモノを狙って、おこぼれを少しでもと、余計にモンスターがそこにまた集まってくる。
負のスパイラル・エンカウンターが出来上がる。
その現れた2人の大人が居なかったら、今この街は一体どうなっていたのだろうかと、考えるだけでも恐ろしかった。
モンスター達からすれば、この世界のテイマーというのは、死神にしか他ならない。
「コレ、外せないんだろ?最初はこんなのつけるなんてヤベェヤツって思ってたけど、知らなかったなら、俺が言えば良かったな」
「グロー・・・」
男前と言いたくなる野犬型のモンスター。その横で首輪の取り付けから逃げだそうとして失敗に終わった蜘蛛隊達が賛同していた。言えることはひとつしかない。
「ごめんなさい」
「サイキョウ様のトコ、帰れなくナッタ」
イノシシのサイショウくんはこの外れない首輪のせいで、もう神の使いの仲間として認められない状態にまでなってしまっているという。
「セキニン、お前、とる。だから、泣くな。泣いたらオレも、死んじゃう」
「うん。ごめんね。」
少しの沈黙の後、スズちゃんが喋り出した。
「モナちゃんがのねスズ、気づいてたこと、黙ってるのやめるね。スズ気づいたこと、今言うね。モナちゃんのステータス、おかしい。絶対おかしい。だからモナちゃん、気づいて。」
「バグってるやつのこと?見て知ってはいるよ」
「ステータスってね、その人のえっとね、そう!健康診断のカルテさんなんだよ!だからね、スズ、バグるって本当はならないって知ってるんだ!」
「本当は・・・こういう風にならないの?」
「絶対にならないの。本当は。」
「なんの話してるんだ?」
グローが首をかしげてる。
「ステータス画面の・・・ってスズちゃんは私の見えるの!?」
待って、誰にも見えなかった気がするんだけど!?あれ??
「だってスズはモナちゃんと一心同体の守護霊だもん。えっへん」
見えたの・・・
「他の人はね、うんとね、次元とかー、コトワリとかー違うから、見れないと思う。」
スズちゃんの説明は曖昧だったがなんとなく、私がそれを聞いて腑に落ちるようなそんな説明だった。
「あとねスズ知ってるの。その首輪ね、もっともっと強くなったら外せるはずなの。」
「え!?」
「だってね 、使われているのはね、モンスターの中に埋まってる、魔石っていうものを使っているはずだから魔石より強くなれれば、魔石が壊れるから、首輪も外せるはずなの」
「でもモンスターってすごく強いのがいっぱいいた時があるから、その時の魔石を使ってるはずだからちょっとやそっとじゃ外せない魔石が使われてるはずなの。だからねモナちゃんがもっと強くなればもっともっと強くなればきっと外せるはず」
「モナは強いはずだぞ それよりももっと強くなるのか」
グローがはフォローしてくれる。
「横竪様が言ってたでしょ 。まだ第3波、第4波、第5波もしかしたらさらにもう1つ、第6 波が来るかもしれないって、。そのくらいのとても強い強い強さが必要。結局のところはそれも軽々と行けちゃうくらいの強さを持っていたならきっと外せるはず」
「・・・少しだけ希望が湧いた。ありがとうスズちゃん」
付けている首輪には石らしき装飾は見当たらない。首輪の革部分か金属部分、もしくはその全てに、そういう加工がされているのだろう。
それにしても先の長い話だ。今回ミナモが私の犠牲になってしまったが この精神状態ではいつ、グローやサイショウが次の犠牲になるかもしれない。いや、もしかしたら蜘蛛隊や、ゴーレムの方が先かもしれない。
それに・・・・
横竪様・・・あの人・・・
私はこの時初めて、あの女神様に不信感を抱いた。なんせこの状況において1番知っているべきであろう人が横竪様その人だったのだから。
「曇りなきマナコで見定める、だなんて、難しいね」
アシタカってスゴイなと、今更ながら思った。
次回は明後日の予定です(定期)