第263話
目立たないようにと領主の館から大きめの馬車で移動した。せっかく歌でごまかしたのに、また団体でぞろぞろ歩き回ったら意味がない。
全員引き連れて人目につかないようにするのであれば夜中が正解だろう。けれど、夜行性のハズのフクロウのタイサイさんが訪ねてきたのだ。タイミング良すぎると言いたくなるくらいのタイミングだった。
この後行くので待っててください!と言うしかあるまい。
さて。
そんなこんなで商店で首輪を買ってゴーレムズと蜘蛛隊に取り付けた。ゴーレムズはすぐに首に取り付けてくれた。
するとゴーレムズの体から苔のようなものがぶわぶわっと生えてプチゴーレムの方はこだわった形のハニワとでも言えば良いのか、なんかこう苔・・・たぶん苔?が伸びて、スカートみたいな飾りがついてる。プチゴーレムはメスだったのだろうか。
ミニゴーレムは苔のようなものがぶわぶわっとはえてはえてはえてはえて・・・これは・・・土偶?苔のようなものが生えすぎて、中身は細いハズなのに、むっちりした体躯に見える。うん。土偶っぽい。土偶って女性っぽいけどこっちもメスだったのだろうか。
よくわからないけれど、首輪付けた瞬間に変わるものだからびっくりしたけど、ゴーレムズの反応はイマイチだった。私の方が驚いている不思議。
あとまさかゴーレムズが苔のようなものが生えすぎてもふもふになっているのが妙におかしくもあり、なんだかほっこりした。ゴーレムに可愛いと思う日がくるなんて、この苔?のもふもふ感がズモッとしてずむっとして、不思議な感触。しかも普通の苔と違ってすぐに復活する。なにこれ、気持ちいい。ナニコレ珍百景すぐる。ふわぁあ・・・(歓喜)
そして蜘蛛隊の5匹。蜘蛛隊は3匹が逃げようとした・・・が、先のゴーレムズにすぐに捕まった。それぞれに付けたら、ゴーレムズと同じように、体に変化が現れた。ツヤツヤのやつもふわふわのやつも1.5割増ぐらいになった。うん。他は特に変化はなかった。
ミナモもグローも特に変化はなかったから、これは一体どういうことなのか後で横竪さんに聞かなくては。
「それは隷属の首輪だろう?」
「え?」
「れ、隷属って・・・」
“他に支配され従うこと。”
えっいや、その?えっどういうこと?平和だった私の思考は止まった。
ミナモ、サイショウ、スズちゃん、グロー、蜘蛛隊5匹、ゴーレムズ2体。それに、馬車を出してくれたディオさんとアンドレくん。
みんなの視線が私に集中している気配が感じ取れた。
「モナちゃん?」
唯一首輪を付けられない、幽霊であり、私の守護霊のスズちゃんが声をかけてくれた。
「モナちゃんも分かってると思ってた」
スズちゃんのその一言に頭がガンと鳴った。どうして?なぜ?
「モナ?テイマーについて色々と教えた人が、首輪のその機能を話忘れたのかもしれない」
「く、びわ、の話も、してた、けど、その、説明を忘れるって、ある、の?」
アンドレくんも無言になった。ディオさんは無言になってしまったアンドレくんの代わりに首輪が魔道具としての”隷属の首輪“が適用された経緯について軽くだけれど、話してくれた。
「昔は単なる首の飾りに過ぎないものだった。いつからかテイマー専用の首輪は、大昔に奴隷に使用していた、”主人からは逃げることが出来ない“そして”主人の痛みを肩代わりする“機能がついた魔道具をつけることが義務になった。」
「・・・あっそうだよ、取ってあげればいいんだよ、ね?ゴーレムズもさっき付けたばっかりだったし、ミナモも嫌な気分にさせちゃったよね、うん!取ろう!ね?」
「取ることは出来ない」
私は言葉が出せずに空気だけがヒュッと口から漏れた。
「この首輪はどちらかが死に至るまで、取ることは出来ない仕様になっています」
「な、で・・・」
なんでの言葉もうまく出せなかった。
「魂で繋がる特殊な魔法を用いた魔道具になっていて、モンスターを暴れさせない処置、逃げられない処置、モンスターの主人の為に尽くす為の処置として、そうなっています」
「だから、そのモンスター達は主人の気持ちの上げ下げで体に喜びを感じたり、逆に体に不調までも同調するようになります」
そう言えばミナモは私が感情が高ぶった時にブブブブブと震えていた。あれはこの首輪の機能にミナモが震わされていたということ?
でもサイショウやグローからはそういうものは見ていない。
「イノシシのサイキョウから、サイショウが苦しんでいる気配がすると言っていたのだけれど、つまりはこういう事だったということだな」
首輪の真実が横竪から。そしてディオとアンドレからもテイマーが推奨しているソレがモンスターにとっての苦痛だと、今更に知った。首輪は外せない仕様になっている。
本当にわからない。テイマーについての勉強のときに勉強嫌いだからと机で寝ちゃったり、なんて、ことはこの世界に来てやらなかった。この世界に来るにあたって大事なことだから尚更だ。
なぜ、記憶に残っていない?なぜ私はそれが安全だということを完全に信用してしまった?そして不確定要素を考えようという思考にまで気が回らなかった?
なぜ?
どうして?
どうなっている?
もうつけてしまったモンスター達は一生苦しむ。
今後は首輪をつけなくていいと言われた。しかし今まで通り仲間は増やしてほしいそうだ。
「もうこうなってはどうしょうもないのだから、諦めよう。第三波も頼むよ」と横竪さんは言っていたけれど、返事は出来なかった。
そして私はその日気に病みすぎて、伝わり過ぎてしまったんだ。
「ミナモ、息してないよ」
スズちゃんが魂がもう入っていないことを確認してくれた。
最初の仲間を、私の精神が、首輪に届けてしまったのだった。私は泣き喚きたかったが、泣きわめいたら、他の子達にも影響がまた顕著に現れるとディオさんに言われたので、ぐっと我慢をした。
もう私の精神があの子達の首を締めることはしたくなかった。私は、正常でいなければ。私は仲間を増やさなくては。
この国のテイマーは昔と違うらしい。そりゃそうだ。モンスターは危険だとなっていて、奴隷以下の扱いが普通のことになっているという。
この街のテイマーはもう誰も居ない。そりゃそうだ。この街の過去の事件を聞けばいい。ディオさんの前のさらに前の領主から、それはもう、モンスターを道具として使っていた。
領主がディオさんになってからどうにか提案もあってテイマー復興も囁かれたことがあったけれど、拐われた小熊の獣人と同じ種の「黒い熊の悪魔」と言われているモンスターの度重なる襲来でテイマーなど居ても居なくても同じだと言う結論になった。
それにテンクウという犬のモンスターがこの街を度々襲っているので外界に出る分には追わないが内に入ろうとすると入れないことがあるらしい。私がこの街にすんなり入れたのはその入れる日を見計らって行動してくれていた、らしい。
ほら、わかれば大丈夫。きっとどうにかなる。なんとかなるなる。・・・ね?
なんとか、なれ。
悔やんでも悔やみきれない首輪がチラついて離れなかった。両手で顔を覆ったけれど、心はみんなに届いてしまっているんだろうな。
次回は明後日の予定です