第257話
if世界ツー17
2人を拘束して馬車に乗り込もうと踵を返すと、とても申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ていたのが伺えた。いつもは騎士団だけで対処していたけれど、いつも小一時間かかるので、私が居てくれて良かったと話してくれた。
騎士団も万能戦士ではない。昔は騎士団にも獣人の出身者がいたけれど、数年前から色々な事件に獣人が関わるものが増えて、近寄り難い存在になってしまった。
全ての獣人が何かしたわけではない。人間とほぼ変わりなく個々の個性や、個々の生活があり、穏やかに暮らしていたものがほとんどだ。
しかし、噂からなる偏見、過度な妄想、度重なる視線と小声が重なり合いわかりやすい注目のマト。人間が多く集まる土地や、職業から獣人達は徐々に退いていった。
ここ、ロッテリーの街も例外ではなく。
「クリストファーさんの以前の上司が獣人の人だったんだけどね、その人事件に巻き込まれて亡くなってしまったんだ。」
その当時クリストファーさんには将来を約束した女性もいたらしいが、その事件のことがキッカケとなり、別れる事になったとか。
その人は、拐われた小熊獣人を追いかけて、助けようと奮闘して・・・・その亡くなった上司の獣人はユーグリッド。
とある洞窟で結局小熊も助けられずに。その人の事を忘れられずクリストファーさんはこの街に住み続け、今も独り身だ。
―――――――――――たしか・・・
「ダメだよ」
―――――――――――でも・・・
「全てを思い出さないとここから出られないのだから」
―――――――――――わかりました。
私は深層心理の奥底で真っ白い神様にただただ思い出した過去を、まだ語るしかない。
あの洞窟で亡くなるのはたしか。
ううん。だからこそ今は語るしか無い。
間に合うだろうか分からないけれど。
ディオさんと話をしていると、突然轟くような咆哮が響いた。野犬だったグローが呟いていた。
「あのテンクウ様がお怒りなんだ」と。
その咆哮の後は何も起きずに終わった。しかし私はその咆哮の主がどこにいたのか、グローの目線を追ったらつい見つけてしまっていたので、それがどんなモンスターなのか、確認していた。
なんて大きな荒々しい、野生のゴールデンレトリーバーなんだろう。そう思った。
あれから幾日か過ぎた。何故かディオさんの足が完治したという噂が街に流れていた。
ヤマーくんがガチョウを両腕に抱えたままディオさんの執務室に駆けつけて来たらしい。
「書類が大変だったよ」
ガチョウが暴れて執務室が一時ぐちゃぐちゃになりかけたらしい。ガチョウは今晩の晩餐の料理に使われる新鮮なガチョウだそうだ。
「リヴァイもやはり同じ噂を耳にしたそうです」
シャタニくんがお茶を用意してくれたようだ。いい香りがした。
「メイドのマーサもディオ様に聞いてみたかったようですよ」
「どうなってるんですかね?」
「わからない」
アンドレくんは今は居ない。2、3日前に「俺の師匠を見つけた!」と言って最近外に出突っ張りなのだ。
「噂はここ1週間ぐらい前から流れていたみたいです」
「私が来たぐらい?・・・・ということはもしや」
「もしやというか、多分そうかもしれないね」
「お心当たりがあるんですか!?」
心当たりもなにも、私のディオさんに使ったスキル「オモチャのチャチャチャ」のその姿のディオさんを見た誰かが噂を流してしまったに違いない。
あのダンス以降、散歩途中で1度と、2日前にもディオさんと思いつきで1度発動した。
「歩けるのに歩けないと嘘をついている領主という噂に昇華してしまわないように、噂を沈下させないと、これは、大変なことになる。」
しかし後日、アンドレくんも山川谷トリオも私も、奮闘虚しく、沈下出来ずに次のターンに突入してしまうことになったのだった。
そしてそれと同じ頃、横竪さんから呼び出しがかかる。モンスターの第二波が迫ってきていた。
明日も更新予定です