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第256話

なんとも形容し難いニオイが届き、胃液を出してしまいたくなる衝動を飲み込み耐えた。鼻を使わず口で息をしても多少感じる辺り、かなりキツイが、まだ目的地からは離れていた。


前を見やると、先に到着していたこの街での警察の役割をしている騎士団の人達が、倒れている一般市民の救助、救護をしていた。


あの中心地はニオイどころか、近づくだけで死んでしまいかねないと想像にかたくない。一般市民は助け出されているけれど、その中心地あたりには倒れてピクリとも動くことのないモンスター達の・・・たぶん(しかばね)なのだろう、横たわったそれらが至る所にあるの。


しかし強烈なニオイが漂っている割に騎士団とその薬品を撒き散らしたであろう件の犯人である夫婦は何故か平気そうだ。


「あれはそういう魔法やら、魔道具やらで中和しているんだ」


モナはこの世界に来て2週間だが未だに知らないことが多かった。あんなに凄いニオイが中和されるとか日本の換気の良くない地下鉄のトイレに設置するのに欲しい。初めて降りた駅で道に迷ってたまたま入ったトイレが見た目キレイなのにニオイだけは・・・っていうところがあった経験をつい思い出した。


医者夫婦の変貌ぶりをディオさんが語りだした。


あの2人はモンスターを駆逐する夫婦として有名だという。あの2人が通った跡は薬品のニオイが充満して土は軽く3年は使い物にならない物になってしまう。草木も生えなくなる。あれらはあの夫婦が作り出しているオリジナルの薬品だ。


昔はこの街でも指折りに優秀な医者夫婦だったという。2人が変わったのは、子供達が亡くなってからだという。ある時モンスターに追いかけ回され、道なき道を進んで、2人共、崖から落ちて即死だったらしい。追いかけ回したモンスターは崖から落ちたその子供2人をさらに食べようとしていた。


崖から落ちる様子を夫婦の知り合いが見ていて、夫婦を呼びに行って、子供達の死体を夫婦が見つけたその瞬間、まさしく、今にも、モンスターはあんぐりと子供へよだれを垂らしながら口を大きく開けていたのだ。


夫婦はそのモンスターを殺しにかかったが、そのモンスターに攻撃を当てることは出来て、致命傷を追わせられたと知り合いも言っていたが、残念ながら、モンスターを仕留めることは出来ずに逃がしてしまった。


仕留め損なったことで残念なのは、この状態を見ればわかるだろう。


あれから夫婦はモンスターと見ると殺戮せねば気がすまなくなった。


あのモンスターと似たようなモンスターを倒しても、どれがあれだったのかもわからない。わからないから、全てを駆逐する。駆逐しつづければ、子供達のような悲惨な目に遭う人間が減る。


そうして、夫婦は愉悦を覚えた。


殺すのが楽しくなっていった。


薬品を作るのが楽しくなっていった。


そのうち、善悪がワケがわからなくなっていることにも気づかなくなっていることに周りが気づく。しかし、もう既に、時は遅く。


あの倒れている一般市民のうちの何人かはあの夫婦の凶行を止めようとしてくれた街の人だそう。


「お願いだ。」


もう、あの夫婦もモンスターと同じだという括りにされる手前なのだという。もしこの後、騎士団が取り押さえに動いてあの夫婦が反撃をし始めたら、夫婦の命はその場で掻っ切られなければいけない。


「神に愛された力なら、あるいは・・・」


私を。私とミナモとサイショウとグローとスズちゃんを連れて来た理由は、あの2人を大人しく捕まえることが出来るのなら“牢屋に入れる、命までは取らない”という温情をあの夫婦に与えてもいいと、騎士団と話がついているから、らしい。


騎士団の団長をやっているという、クリストファーというローマ人にありそうなもっさいヒゲをこさえた熊男と言っても良さそうな男性がこちらの馬車をずっと睨んでいた。


やるしかなかった。


魔道具では数が足りないので、そのクリストファーさんに魔法をかけてもらった。


睨んでいたけれど、近くで見ると優しそうな人柄が見て取れた。


「わかっていると思うが毒消しや体力を回復するポーションは、もう無い。あいつらのせいで怪我なんてこさえないでくれよな」


ゲームとかでよく見かけるポーションが無い。とは、もう製造すら出来なくなったと言うことらしい。昔は熊獣人のポーション作りの名人達に作ってもらっていたらしいが、熊獣人のほとんどは近年で死に絶えて、熊獣人自体も絶滅したのではと言われている。


人間でもポーションは作れなくはない。しかし、質が違いすぎた。


ディオさんもアンドレくんもそして睨んでいたクリストファーさんも、私達に心配そうな顔を向けたまま見つめ続けていたけれど、私は気にしないことにして、耐性をつけた仲間たちと中心地に向かった。


近づくと本日2度目の形容し難いが来る。


あの夫婦の見た目だ。バッドマンに出てくる殺戮キャラクターのような夫婦におののいた。白衣にことさらキレイな顔立ちの夫婦。


イノシシのサイショウは禍々しい空気に体がは震えていた。神の使いの仲間の下っ端といえど、やはりこういう空気は防いでも影響が多大らしい。


ソレで言うとスズちゃんは霊体がとても薄くなって見えるか見えないかの瀬戸際だ。これでは出てる意味がないので、戻ってもらう他無い。


ミナモとグローが2人を威嚇、牽制する。しかし夫婦2人はむしろ、モンスターである2匹が近づくほうが凶悪さをまして薬品などを投げつける。あの2人からはまるで無尽蔵に薬品が出てきているように見える。


4次元ポケットでもあるのだろうか。


私は生命魔法の回収と付与の両方を使用し、あの夫婦を一時的に昏睡状態にして、捕まえることに成功した。


「ミナモ、グロー、助かった。ありがとうね」


2匹があの夫婦の目を引き付けてくれたから、すんなりいった。2匹は、私達がいなくても出来たはずだと少し不満気味だったけれど、私1人だったらそうそう上手くいかなかっただろう。


あのイカれた夫婦は騎士団の地下の牢屋に閉じ込められることとなった。


―――――――――――――――この時、この世界におけるモンスターが、私の中のモンスターとズレているような気がした。気がした・・・だけで済ませずに、追求すれば良かったのに。


―――――――――――――後悔は先には立たないものである。

明日も更新予定です

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