第236話
毎度遅くなってスミマセン。
「た、た、た、大変だーーーーー!」
それは一匹のタヌキだった。たんぽぽの綿毛のようなヒゲが左右のほっぺたからにょいんと生えているのでそれなりに年の取ったタヌキだとうかがえる。そのタヌキがとにかく大きな声で叫んだ。
そこは今祭り待った只中。タヌキとキツネのお里のお祭り中。飲めや歌えや、踊らにゃソンソン、と、どんちゃん騒ぎをしていた。いつもならやらないが、人間の街で人間が騒いでいる時は、マックドゥの森には人があまり寄り付かなくなるから絶好の大騒ぎできる機会なのだ。
その大声をあげたタヌキに視線は集まるも『お酒でも溢したか』『食べ物を横取りされたか』『賭けで負けたんだろう』など、お祭りで起きそうな事件でもあったんだろうと噂する程度だ。
しかし次の言葉にみんなは凍りついた。
「人間が!ここに一直線に向かって来ている!俺達を生け捕りにするって!みんな!!逃げろーーーーーーーー!!!!!!」
一瞬の沈黙。途端に起きるパニック。あるタヌキは家族を探し始め、あるタヌキは食料を確保し、あるタヌキは早速とばかりにとにもかくにも地下への階段へ足を進める。
そこに2匹のタヌキがやってきた。
「ポコポコポコォ」
「ぽっぽぽん」
「え?あー、えっと人間は5人ぐらいで、あと、鹿のモンスター連れてたよ」
「ポッコォ」
「ぽっぽぽんぽーーーーん!」
「あい、わかったぁ!お前らも気をつけろよ!」
ヒゲのタヌキはその2匹のタヌキから離れた。2匹のタヌキはヒゲのタヌキにばいちゃと手を上げ挨拶をし、その残った2匹のタヌキはムンっと気合をいれて歩み始めた。
2匹のタヌキはぽん吉とポンポコ丸。ぽん吉は星タヌキというタヌキでお腹の模様が星の様になっている。ポンポコ丸は豆タヌキというタヌキでその辺りのタヌキよりは丸みがあって少し小ぶりだ。と、言ってもふたりのサイズはほぼ変わらない。まだ2人共大人になりきれていないので、星タヌキだろうが豆タヌキだろうが、あまり大差ないのだ。
2人は徐々に歩きの早さを変えていき最終的にさっきのヒゲのタヌキが教えてくれた人間のところまで走りに走った。
タヌキのお祭り会場まではまだ距離のある場所に人間達はいた。そして人間達は人間達が歩きやすい場所のみを歩いて進んでいたようなので、それを少しだけせり上がった丘からこっそり観察した。
あの人間たちは本当に少し前にやってきた者達だとぽん吉もポンポコ丸もすぐに理解した。
短期間でこんなに同じ人物達がマックドゥの森の、しかも同じ場所にやってくることなど今まで無かった。長期間同じ場所に寝泊まりする人間はいた。しかし森を1度離れてすぐに戻ってくる人間はいなかった。ふたりは緊急事態が過ぎると頭を抱えた。
まずは避難誘導。それはあのヒゲのタヌキに任せた。キジンさんのところにヒゲのタヌキが行っているはずだから、そのまま避難誘導をしてくれるはずだ。
次に足止め。ヒゲのタヌキだけがこの森にいたわけではない。ヒゲのタヌキはパトロールの一匹だ。だからその辺に、あ、いた。ヒゲの仲間のタヌキが3匹と、ネコがそこに一緒にいた。
ヒゲの仲間のタヌキは、一匹はカラスのようにツヤツヤと真っ黒いタヌキ、一匹は頭にトサカでも生やしたかのようなアホ毛のあるタヌキ、一匹は口がへの字にずっと曲がっている機嫌が悪そうにみえるタヌキだった。
しかし1番先に挨拶をしてきたのはどのタヌキでもなく、ネコだった。
「こんにちは。そろそろこんばんわの時間になりそうですね。」
「ポコポン!」
「ぽっぽん!」
「ボーズぅ、この方と知り合いか?」
口がへの字に曲がっているタヌキ、イカリさんは聞いた。
「ポコポン!」
「ぽっぽん!」
「そーかそーかぁ、坊達もこの砂棘猫のトカキさんと知り合いだったか。なら、話は早い。」
と言ったのは真っ黒いタヌキのタールさん。
「タヌキ手が足りなかった。よー来てくれたわ。んじゃさっそくやるかね。おまいらも手伝いぃ。アイツら追い払うわぁ。」
そう言ったのはトサカなアホ毛のタヌキのトウハツさん。
ネコがしきをとりタヌキパトロールの古参3匹にに若手2匹が追加で、これから人間にひと泡吹かせるのだという。
「どうしたヒイカ?」
「これは・・・・来る。」
え?なにが?と聞こうとしたとき、近くから爆発音が響いた。
「なんだぁ!?」
「奇襲か!?」
冒険者パーティー森林の首飾りは戦闘態勢に入った。
次回は13日予定です
●口がへの字に曲がっているタヌキ・・・イカリさん
●カラスのようにツヤツヤと真っ黒いタヌキ・・・タールさん
●トサカ頭のアホ毛が生えているタヌキ・・・トウハツさん
トサカみたいなってことはソフトモヒカンだと思っていただければ。モヒカンのこと別名、棟髪刈り(とうはつがり)というそうなので、トウハツさんという名前になりました。