第223話
オウジュの話③
「長女は5人のうちの2番目に生まれた。女の子ということもあって可愛い可愛いと育てられたが、親が住んでいた場所は辺鄙な所だったので、家族以外から蝶よ花よと言われることもなかった。むしろそれがあれば何かが変わっていたかもしれないが、次女も生まれ、続いて3女も生まれ、最後に次男が生まれた時には、長女は多少の愛などは何も与えられていない事と同じだと思うようになっていた。」
「だからこそ長女は他の子達には愛していると意思表示を欠かさなかった。もう歪んでいたけれど親も兄弟も誰も気づく事は無かった。特に末っ子の次男は親の愛も兄弟の愛も生まれた時に最大限に受けていたので、長年の嫉妬で気が狂いそうだった。」
「そしてとうとう狂ったのは、次男が領主になると決意したときだった。あの末っ子が。また私よりも優遇されている。また私より人の愛を多く受けている。私も手伝ったのに、誰も私を見てくれない。」
「長女も能力を開花させた。嫉妬から生まれた能力は、人を心から混乱させ狂暴化させる能力だった。それを使って次男を人に殺させて、それを使って牢屋から出て、3女の前に現れた。3女の腕には可愛らしい赤子が抱かれていた。」
「3女の夫となった異形の化け物だった彼は、3女のことを受け入れてはいたものの、まだ3女の無償の愛が少し怖かった為に、長女の能力に引っ掛かってしまい、彼女達の兄の長男が早馬で来た時にはもう手遅れになっていた。」
「長男は長女をその場で断罪した。3女以外にもここに来るまでに被害が大きかったからだ。長女の能力は人以外にも有効だった。次男が友とし、3女が力を分け与えたあのモンスター達は、長女の能力も受けて狂暴化するように進化してしまっていた。長女は時間稼ぎ程度にしか考えていなかったが、その一部が誰も想像だにしない変貌を遂げていた。長女が死してなお、混乱は続いた。」
「混乱が収まった時には、大きな被害が広がっていた。元々長男は次男の死後に後を継いで領主になっていたが、大きな混乱の中誰よりも立ち向かって行った事により、英雄と持ち上げられた。家族のした過ちにより持ち上げられてしまった為に長男も苦しんだが、異形の化け物だった男の後押しにより、彼は一国の主、王になった。」
「王には3人の娘達しかおらずどの娘も気弱で跡継ぎに向いていなかった。跡継ぎがいなかったので、3女の忘れ形見の甥っ子を王の跡継ぎにした。そして百年ほどの月日が過ぎていった。」
「ある時ある場所で、若者だったものは、また若者になった。彼は最初に降りた土地で幸せを増幅させた。満足して旅立つと、増幅させた幸せは、幸せを感じる感情を前借りしていただけに過ぎなかったので最終的に枯渇した。人々に恐れられて土地を追い出された事もあった。」
「端的に言うと彼は人間ではなかったので、追い出されたりしても気にしてはいなかった。彼は行きたいところへ行き、離れたい時に離れ、とても自由だった。誰も彼を理解出来るものはいなかったが、彼に幸せにしてもらうと彼から離れられなくなっていった。」
「虚無感に襲われた人々は何もしなくても手に入るぬるま湯に浸かるような幸せを、自分から欲していって、まるで麻薬に手を染めるように、彼に自分から近づいていっていたのだった。若者の彼はまさか近づいて来た人々がそうなってしまっていることにも気づいていなかった。そこまで人間に興味など無かった。」
「そんなある時とある墓へたどり着いた。そこはあの兄弟の次女の墓だった。異形の化け物だった男に返り討ちにされて兄弟みんなで作った墓だった。そして洞窟に住んでいた時に3女が祈りを捧げていた場所だった。」
「3女の力の祈りのカケラが次女の墓に少しだけ残っていた。それを若者だったものは面白くなり、自身の力を混ぜて増幅させて別の力に変換した。そうして彼は、新たな彼女を作り出した。次女は生きていた時と同じ姿だし魂も同じにはなったが、全く別の次女だった。」
「彼女は最初、全てを忘れて彼の後をヒヨコのようについて行った。次女は元々活発的で男に生まれたほうが良かったのではと親に頭を抱えられたほどに負けん気があり大きくなるまでには狩猟の腕が1人前だった。知性と共に体力も戻っていき、彼女は力強くたくましくなっていった。」
「彼女の能力は短所である気の短さでものを掴み損ねていたが、若者が新しく作り出した事により、彼女の能力が開花した。死んだ事により能力が出来上がるなど本来あるべきものでは無かったが若者はむしろ完成してしまって面白くなくなり、彼女を作ってまもなく岩肌の広がる荒野に置き去りにした。」
「墓のあった山奥と違い草木も稀にしか生えず、淋しくて乾燥し風の強い場所だった。次女は彼がいなくなると彼女も今まで彼と関わってきた人達と同じく、虚無感にさいなまれたが、次女は人間では無くなっていたこともありすぐに立ち上がる事ができた」
「次女は手近な岩や枯れ枝を持ち、気配を読んだ。荒野には獰猛な珍獣などが多く生息していた為、次女はエサとして認識され、囲まれていることを知り、笑った。彼女の笑顔は何者よりも楽しそうだった。」
私の喉がゴクリと音をたてた。
昔話、もう少し続きます。
そして明日も更新予定です(´ºωº`)のふん