第222話
話を聞いている途中だけれど、電話が鳴った。
「あ、ごめんなさい。ちょっと失礼します。・・・あ、もしもし?うん。うん。そうだよ。ううん、今ちょっと家の周りを散歩中。・・・ははっ、うん。うん、そうだね。お父さんにもよろしくね。またご飯行こうね。じゃあまたね、ばいばい」
お母さんから電話だった。引っ越しの日取りを伝えていたから心配でかけてきてくれた。電話を受ける為に横竪さんから少し離れて電話をした。大した話はしていないけれど、人から少し離れて電話をしたくなるのは性である。ははは。
振りかえったら・・・どきっ・・・。
「お、お、横竪さん!?」
彼女の目に、なんと、涙がっっ。えっえっ?どうして?なんで?
「家族を大事にね」
「はい。」
なんだ。家族を思って泣いた・・のかな?私のせいじゃないよね?いや、電話をしたから、私のせいか?ギリシャ人ポイ人に泣かれる、小心者の日本人の私。知り合って間もない人に急に泣かれたらどうしたらいいかわからない人間です。
「私には戻ってくることは無かったから」
「?」
変な言い方だな?
「続きを語ってもいいですか?」
「はい。聞きたいです。」
横竪さんの語るお話はハリーポッターとかネバーエンディングストーリーとかロードオブザリングとかの背景っぽいイメージで聞いていた。ちょっと話の端々に血生臭そうな所が出てくるけど、良くできたフィクションは好きだ。特にファンタジーは大好き。
最初、聞いてほしいって言うから、横竪さん自身の身の内バナシだと思って少し肩に力を入れてきいていたけれど、フィクションだとわかると、ただただ話を聞く相手が欲しい寂しい人なんだろうなと、少し同情心がわいてきた。まてよ。失礼か。忘れよう。
「ふふ、君のような柔軟な思考は私の弟や妹も持っていた。羨ましい。」
あれっなにか呟いちゃってたかも。注意しないと。あばばばば。
「長男と3女と動物だったものたちは手を取り合って、少し長引いたけれど長女を牢屋に入れることまでは出来た。しかしそれ以上は出来なかった。家族の情が長女がどんなに壊れてしまっても有ったからだ。」
「3女はひと騒動が終わると、あの洞窟に帰ると言い出した。長男の家族は3女にここにいてほしいと頼んだが、長男自身は帰ると言い出すとわかっていた。なので止めることはなかった。」
「洞窟に住んでいた異形の化け物だが、実はとある領地の長男だった。しかし父親に子供として認められず、更に父親に趣味の実験台にさせられて、頭の先から足の爪までボロボロにされていた。しかし死ぬことはなかった。苦しかったがそれが彼の生きていると感じる瞬間でもあった。」
「父親の実験台になって何年も過ぎた頃、とうとう彼は完全に彼ではなくなって、その上、知能が動物以下に成り下がった。そうなると面白くない彼の父親は、つまらないからと彼を野に捨てた。彼は知能が低くなったとはいえ捨てられたことだけはわかり、彼は雨風を凌ぐ為だけにあの洞窟に住み始めた。」
「そんなとき3女を助けることになった。本人も助けようとして助けたと言うわけではなく、ただだだ本能で洞窟に引きずって来ただけだった。そして3女が能力に目覚めた時に、彼は少しずつだが、正気に戻っていった。」
「何日も、何週間も過ごすうちに3女は彼を愛していった。彼はまだまだ醜いすがただったし、あの目を前に住んでいた家でも見たことがあるからわかっていた。3女のそれは同情からくるものだと。」
「最初は突き放した。しかし長いこと2人でしかいない空間では、ふ、とした瞬間に彼女の優しさにほだされた。ほだされる度に、彼女の力が彼を癒やしていき、体が元の人間に徐々に戻っていった。」
「しかし体が戻っていく度に、今度は彼女をコレに利用しているようで心苦しくなっていった。そして、そんな心苦しい時に3女の兄の長男が来てくれたので、その話に乗っかった。」
「山を下りれば彼女が今抱えている気持ちが気の迷いだと言うことに気づくはずだ。山を下りてくれればきっと忘れてくれる。俺はまた1人に戻る。これが正しい。」
「彼は与えられた事が無かった無償の愛が怖かった。いっそのこと、彼を実験にしていた父親のように、打算や欲にまみれていれば、今からでも首をひねるのに、とも、考えた。」
「しかし彼女は帰ってきた。無償の愛と能力を強くして、彼のもとに戻ってきた。そして彼は人間になり、彼女と共に洞窟から出て、とある場所で暮らすことになったのだった」
「そこにはあの長女が牢屋から出てきて3女を狙っていたのだった」
かなりギリギリになっちゃった。あばばばは。続きは明日!
誤字があったので直しました。2309130003