第219話
この回はディオさん視点です。
モナちゃんが倒れた。神官様とモナちゃんについて話をしている間に弟と神殿内を歩いていたのは見ていた。目の届く範囲だからと様子を見つつも信用し過ぎてしまったのだろうか?目を離してはいけなかった。冒険者の人達に囲まれた時も倒れたというのに、私は迂闊過ぎたのだ。
「モナ!モナ!」
「きゅんきゅん!きゅーん!きゅんきゅん!」
「アンドレ、揺さぶってはダメだよ。」
「でもっでも、モナが!」
子供が倒れたとあって辺りは騒然としてしまった。私は弟をなだめようとする。落ち着いて欲しい。どうして倒れてしまったのかわからないのだから。
「お兄さん、お嬢さんをあちらの部屋へ。場所を変えましょう。」
「わかりました。行こう、アンドレ。君達も、行くよ」
「きゅんきゅん!」
モナちゃんを抱き抱えた。肩に頭を乗せるような形だ。足元にいる子キツネとウサギにも声をかけた。足早に神官様に案内されるまま右側のドアに入った。その先に1つの部屋があり真四角の部屋にドアが5つあった。真っ正面の壁に3つ、左右の壁に1つずつ。神官様が真っ正面の右に進んだので私も続いた。
そのドアの先にあったのは下り階段でそれを降りるとトランプのダイヤのような形の部屋があった。行く先にドアが2つ並んでいた。ちょうどダイヤ型のとんがり部分の少し手前に、左右に1つずつあり、また神官様に続いてその左側に入った。
そのドアを入るとまた下り階段があり今度は壁が丸く円柱を描くような部屋になっていてそこには、サイズの違うドアが4つ並んでいた。私からすると、少し小さいドア、とても小さいドア、高すぎるドア、普通のサイズのドア、に見えた。神官様は、“私からすると少し小さいドア”に入ったので、また続いて入った。
不思議な形の部屋が続いたと思った。神殿によって神殿の内部構造は違うのでこういう体験は初めてだった。ハッと気づいた。護衛が・・・2人いた護衛がついてきていない。
「お兄様?」
よかった。アンドレと子キツネとウサギはちゃんとついてきている。
「着きましたよ。ここの台に寝かせてあげてください。」
神官様に言われて、部屋を見ると目の前にはステンドグラスと女神様の像が輝く部屋に来ていた。その手前に教典などを置いている台があった。壁際にも椅子や机などがあったけれど、机は飲み物などを置く程度の簡素な机だったし、椅子にはモナちゃんは座られられる状態ではないほどぐったりとしている。
神官様は台の上に乗っている本などを素早く片付けて汚れても構わないとばかりに地面に積み上げた。神官様も心配してくれているのがそれだけでわかった。
「この部屋はなんなのですか?」
「ここは私達専用のいわゆる“秘密の部屋”と呼ばれる部屋でございます。」
「秘密の部屋?」
「私達も色々ありますので“秘密”が漏れない愚痴吐き“部屋”的な使い方をしている部屋でございます。」
「ああ、そういう。」
貴族、王族にもそういう個室はある。ああ、なるほど、と、アンドレもわかったように頷いているが、アンドレがその王族専用の部屋を知るまであと2年先のはずだったけれどね。わかったフリをしつつ目が泳いでいるから、全くわかっていないのだろう。
ゆっくりと台に寝かせてあげるとモナちゃんの顔が青ざめているのが間近で見えた。さっきまで、ここまで青ざめてなんていなかったはずなのに。神官様がモナちゃんの口元に手を当てつつ、胸辺りに耳をつけた。すぐに神官様が口元の手を離し、顔をあげた。
「お兄さん、大丈夫です。少し心音は弱くなっていますが、息もしていますし、私が居ますのでこれ以上は悪くさせません。お気を確かに。」
「ああ、ああ・・・わかった。そうだな。」
悪い考えがよぎるのを振り払うように首を軽く振った。
「神官様、モナは、モナは大丈夫ですよね?さっきも倒れたんです。えっとさっきはねっちゅーしょう?具合が悪くなってモナは倒れたんです。俺、まさか祝福ごっこでモナの具合が悪くなるなんて知らなくて、ごめんなさい、ごめんなさい、モナを助けてください。」
アンドレはただならぬ雰囲気を察知してしまったが為に喋れば喋るほど涙が目に溜まり、声は震え、謝りだしてしまった。
「お坊ちゃん、大丈夫ですよ。お兄さんと手をつないでいてください。このお嬢さんは私がお助けいたします」
「「お願い、します」」
弟と手を繋ぐと自分の手より暖かい気がした。人と触れあうとこんなにもホッとするのかと、今更思う。そういえば、先ほどモナちゃんを抱いた時に慌てていたから思考を放置していたけれど、彼女、かなり軽かった気がする。
アンドレの下にもう1人弟がいるけれど、そのくらいの重さぐらいに感じた。男の子のほうが重いとは聞いたことがあるけれど、アンドレの下の弟はまだ2歳だ。もし私の勘違いでなければモナちゃんは軽すぎる。しかし痩せ細っているようには見えない。顔も腕や足の太さも普通の子供だと思える。
そんな考え事をしている最中にも神官様がモナちゃんの健康状態を調べてくれている。倒れた時に外傷があるか、口に詰まったものがないか、ベロの色、目の瞳孔反応。そこで神官様が止まった。
「やはり・・・」
「どうしたのですか?」
子キツネがモナちゃんの寝かせられている台の下できゅんきゅんともの悲しげに鳴いている。
「この子、魂と体の繋ぎ目が絡まりあっておかしい状態になっています」
「「え?」」
「こちらに来てください」
言われるままにモナちゃんの顔の前に来た。神官様がモナちゃんの閉じている片目を意図的に開いた。
「この目をよくご覧になって下さい。お坊ちゃんもどうぞ、よく見れば見えるはずです。」
目は目だ。何が見えると言うのだろう。弟と手をとりながらモナちゃんの目をじっと見つめた。
「お兄様、モナの目、なにか変です」
「ああ」
意識のないその黒っぽい茶色っぽい、瞳孔を見ているとそこには模様のようなものが奥に見えた。彼女の目を見てはいたけれどいつもの目の奥に、おかしなものが見えたのだ。
「神官・・様・・・これは、魔方陣?」
「そうです。この子は多分、祝福を受けたことがあるはずです。二重、いや、もしかすると三重以上の祝福を受けている可能性があります。そして、魂と体に異変が生じて、この子の体は生きていることが不思議なイビツな存在としてここにいるのではないでしょうか。」
言葉が何も出てこなかった。目の前にはいるこの子は一体何者なのだろう。
8歳にならないと祝福をしても祝福をちゃんと受けたことにはならない。そして基本的に祝福は1度受けたら2度目を受けても、もう祝福はそれ以上受けとることは出来ない。やりに行ったという話は結構多いが祝福の2回目は光らない。なので、気休め的なお守りを買いに行く程度の祝福の行為でしかない。二重など聞いたこともない。
なのに5歳のはずのこの子はなぜか祝福を沢山受けていて、それのせいなのか、目の奥に魔方陣が表れている。
「お兄さん、お坊ちゃん。この子はちゃんと助けますから、ご心配なさらずに」
神官様はそう言ったが、私の頭の中では、悪い方に悪い方にと考えが行ってしまって、どこかに走り去っていってしまいたかった。
「きゅんきゅん!」
子キツネが鳴いた。近くにいたウサギが子キツネが大きく鳴くので子キツネから離れたその時、子キツネまでもがモナちゃんのように光った。
「お兄様!」
「このキツネ、まさかナイトフォックスでは!?珍しい、光ってます!」
神官様は単なるペットだと思っていたようで子キツネが光ったことでかなり驚いた様子だった。子キツネが月明かりのような黄色ともオレンジともいえない光に体中包まれると、その子キツネの頭上に光の粒が集まって出来た剣のようなものが現れた。細いレイピアのようなものだ。
「きゅん!」
その光の粒で構成されたような剣がモナちゃんのお腹に刺さるとモナちゃんの体に吸い込まれるように消えていった。
「な、なにをしたんですか!?」
「わからない!」
「お前なにをしたんだ!?」
「ああっ見て下さい」
モナちゃんの顔色が良くなっていた。
「きゅん!!!」
誇らしげな子キツネを私達はポカンと見つめていた。
次回はモナに戻ります。仕事が落ち着いたのに私用が色々やることあって、次回はまた明後日更新予定です。
テンクウ「ごめんね!」
ビャッコ「許せ!」
(ФωФ)(^ω^U)