第217話
面白そうなところと言っても、結局は神殿。お祭りで入り口が解放されているので来殿する人々がそこそこ多い。ぎゅうぎゅうに多い訳じゃないのは神殿だからだろう。人、人、人。
あとは少し神聖そうな空気感が漂っているからか、アンドレもはしゃいではいるけれど、あんまり大声ではしゃいではいけないことを本能で理解しているみたいで、声を落とし気味ではある。
「きれいなガラスだな」
「ステンドグラスっていうんだよ」
「すてんどぐらす、グラス?コップってことか?」
「えっと・・・・?グラスってガラスの言い違えなだけだと思うよ?」
「なるほど!」
子供会話である。おっと真横でセイリューちゃんの目がまたキラキラしている。ステンドグラスが大層気にいったようだ。
人がやたら集まる机がある場所があるなと思ったら、お守り売り場みたいな形になっていたみたいで神官様達が祈りを込めた“護符”を無料配布していた。今日来た記念にってことで今日は無料らしい。
その横では有料の護符も売っていた。こっちはお祭り期間以外でも買えるらしく人だかりは少ない。まあ有料だからってのもあるだろうけど、結構ポツリポツリと買いに来ている人がいるから売れている方だとおもう。通常を知らないからなんとも言えないけれどね。
大体の人達は神殿内に入ったら、その護符をもらったあと、真っ正面の女神像のところにいって挨拶やお辞儀やらを軽くして、女神像のさらに右手奥側にある通路から外へ帰っているみたいだ。
用がある人は近くの神官様に声をかけて、ほかの部屋に案内されているようだ。左手側のドアは右手側と違って端角から左右に2つずつドアが設置されている。計4つのドア。入っては数分後にまた出てきているから、多分祝福とか呪い解除とかあっちのドアの先でやるんだと思う。
「モナ」
「うん?」
おっといけない、アンドレを放置してた。
「モナ」
「なぁに?」
真剣だ。ごくり・・・
「すまない・・・飽きた。」
ぶふぉ。吹いた。
「吹き出すな!モナも飽きただろう!像だって見るだけで動く訳でもないし、時間なんて潰すの無理だ!」
アンドレの言うのももっともだ。だってここは別に子供の遊び場ではない。一通り見てしまったらそれはもう退屈でしかないただの建物である。何があるのかわからないからワクワクしていたけれど、面白いものだってそんなにない。神殿だもの。
「そうだねー。ディオさんは?」
「ん。あそこ。まだ話をしているみたいだ。」
「きゅんきゅん。」
「・・・」
セイリューちゃんとツキノさんももう帰りたそうにしてしまっている。いやぁ、まだなんにもしていないんだが?祝福も何もしていないんだが?
「な、な、な!あのさ!思い付いたぞ!」
「うん?」
「俺たちだけで祝福ごっこしよう!」
「えっ」
「どうせ“ごっこ”だ。な、いいだろう!」
ほら!と腕を捕まれアンドレに女神様の像のあるところまで連れて行かれた。セイリューちゃんもツキノさんも私のあとをちょこちょこついて来てくれている。
女神様の像の所に着いた。ううん、凄いなぁ。女神様が神々しい。いや、神だから神々しいのは普通か?
女神様は、髪がウェーブしていて足元まである。そしてギリシャ神話に出てくるような服を身に纏っていて、耳には何かの牙で出来たピアス、頭には蔓で編まれた草の王冠。腰には三日月型の短剣が下げられていた。
女神様様の両隣にはイノシシとフクロウがいて、あのピアスはイノシシの牙の1つだったのだと伺えた。小さいのが1つ根元近くから失くなっている箇所が合ったからだ。良く見たら三日月型の短剣にはフクロウの模様が入っていた。模様自体が小さいものなので時間があって眺められた今だからこそ気づいた。
『助けて欲しい』
ん?
「アンドレ何か言った?」
「いいや?ほら!やろう!」
ちょうど女神様の像の前には人がいなかった。
「って言ってもやり方知らないんだけど」
「俺はお兄様達のを見たことあるから知ってる」
あ、そーなの。
「まず、祝福を受ける前に神様に頭を下げる」
アンドレがペコリと頭を下げたので私も真似した。ペコリ。真似していたら、周りからクスクスと微笑ましい笑いが起こっているのが聞こえた。うん、わかるよ。子供のこういう大人の真似っぽいやつって微笑ましいよね。・・・ってちょっと恥ずかしくなってきたな!
「頭をあげる」
「うん」
「で俺の方に向いてくれ、俺はモナの方に向く」
女神様像を前に私達は向き合った。
「モナは祝福を授けてくれる人にたいして、ひざまづく!ほら、すわってすわって!」
「えああ、うん、待ってってば」
急にせかされた。またクスクスと聞こえた。アンドレもうちょっと、紳士的に誘導頼むよ。
「俺がこれから言うことをふく、ふくしゅう?じゃなくて、えっと、あれだ!繰り返して俺に続いて言うように!わかったな!」
「わかった」
ふくしゅうだと復讐に聞こえちゃう。こわやこわや。復唱だね、ふくしょう。
「あ、目を閉じて、で、えっとー・・手はたしかこうして欲しい!」
完全に祈りのポーズ。両手を顔の前で組んでひざまづいて神に乞うポーズだよね、これ。
アンドレに言われるがままに、私は祝福ごっこをし始めた。
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