第213話
串肉のあと、野菜クレープみたいな持ち歩きできるやつを買って食べ歩きしていたその時、事件は起こった。
「あっ」
「「「ああっ!」」」
べっちゃーー・・・。なんと言うことでしょう。タイモちゃんの上に野菜クレープをアンドレが溢してしまったのです。
「あわわわわ!すまない!ヒツジの、えっとターモ?タイなんとか、すまない!」
「タイモちゃんだよ!もうっ」
すぐにハンカチで拭き取ろうとしたけれどマヨネーズがくるくる巻き毛の奥に入り込んでしまう。せめて水と石鹸が欲しい所だ。そしてタイモちゃんのストレス値が急上昇してるのが顔をみただけで丸わかり!うわぁうわぁ、待って!マヨネーズ付いた所とは別の場所が黒ずみ始めてる。うわぁ、うわぁ、な、なんとかなーれ!どうにかなーれ!えっと、どうしよう!身長無いから水場とかわかんないよーー!こういう時5歳が憎いっ!
とかワタワタしてたらヨコシャルさんがタイモちゃんを抱き抱えてこっちだ!と素早く誘導してくれた。私達はとにかくついていった。
「ここは?」
「ココね父ちゃとあとでこよーねーって言ってたトコ!」
「ここは、一時的な保育施設の場所なんだ。すみませーん、水場をお借りしたいのですがー」
ヨコシャルさんが私達に軽い説明の後、その保育施設に声をあげて聞いてくれた。一時的なと言っているけれどテント施設ではなく、キチンとした平屋の建物で、年季は入っていそうだけれど来たことは一度もないのに懐かしい感じがする場所だった。
「はいはい・・・水場はあっちです、好きに使っていいですよ~って、あれ、モナちゃん達!」
「ナカバさん!」
なぜココに?
「ハジーさぁん、モナちゃん達ですよぉ~」
「ハジーさんもいるの!?」
「うす?」
って驚いてる場合じゃなかった。ヨコシャルさんについていってタイモちゃんを真っ先にキレイにした。セイリューちゃんは私の後をちょこちょこついて来たけれど水場からは距離を取って見守ってくれていた。ツキノさんはまたディオさんに抱っこされていた。なんだかもうツキノさんはディオさんの腕が定位置になりつつある。
ある程度キレイになってから改めてナカバさんがどうしてこうなったのか聞いてきたのでアンドレがクレープを落としてしまったと話した。その横では、ヨコシャルさんが手際よくタイモちゃんの体をタオルで拭いてくれている。洗ってもらったからか、それともヨコシャルさんの手際がいいのか、タイモちゃんは目を細めて少し気持ち良さそうだ。黒ずみは少し出た程度で落ち着いている。
ストレス値が落ち着いているみたいなので、後でちゃんとブラッシングすればまた黒いかたまりがボロリとすぐに落ちてくれるだろう。
「本当にすまない。何かが光った気がしたら、足元に小さい動物がかけていってビックリして手を離してしまったんだ。たぶん、ネズミだったと思うんだが」
「本当ですか坊っちゃま。私は気づきませんでした」
「お兄様は見てませんでしたか?」
「すまない、足元は注意していなかったよ」
アンドレ以外誰もそれを見ていなかったのでそれが本当にネズミなのかわからなかった。けれど。
「うす。この近くはネコが多いからネズミはほとんど出ません」
ハジーさんがこういうんだもん。
「でも、見たんだ!」
「嘘だなんて言ってないよぉ。でも何か別のものと見間違えたんじゃ~?ハジーさんも私もこの辺りであまり見かけたことないよぉ?子猫とか子供のアライグマとかかもよぉ?」
ナカバさんがそういうのでハジーさんに聞いてみた。
「この近くにアライグマいるの?」
「あれ?いなかったっけぇハジーさん?」
ナカバさんなんだか今日はポワポワしてる、ような?
「いないな。タヌキなら。いる。」
うん。タヌキならいるの知ってる。うんうん。
「そうだ、タヌキだ。間違えたぁ。」
「タヌキ・・・じゃなかったと思うんだが」
アンドレがアゴに手を当ててぶつぶつとあれはタヌキ?いや、ネズミ?と考え始めてしまった。
「それにしてもどうしてナカバさんもハジーさんもココにいるの?お祭りのお手伝いしてるって聞いてた気がしたんだけど」
「ふふっ!実はココもお祭りの一部になってるんよぉ。」
慌てていたので建物の正面玄関口の立て看板を見ていなかった。ナカバさんに連れられてそれを見るとそこには“こども手作り教室”とこちらの字で書いてあった。プントさんもこういうのは見たことなかったようで、アンドレやディオさんに何をするところか聞かれていたけどわからなかったようで、ハジーさんに説明を求めていたよ。
ナカバさんの親戚の人がここの保育施設を経営してて、お祭りで今回実行委員で頑張っててこちらに人手が足りなくなってしまったものだから、ナカバさん伝いでハジーさんもこちらに手伝いに参加したらしい。
スミコットさんが旦那の所も行ってみてねと言っていたのはつまり子供向けの小さなイベントがあったからニコニコと教えてくれていたのだ。来てみて納得。私も大人側なら、是非行ってみてねって言っちゃう案件だ。
ぐるりと大回りをして玄関口から入ると中には子供がわんさかいた。
「ここは子供達が店長さんになってお店に来てくれた人に手作り体験をするところなんよぉ」
「「「「「いらっしゃいませーーーー!!」」」」」
たくさんの子供達が大きな声で言ってくれた。って私も今は子供ですけどね。同じくらいからアンドレより大きい子まで様々だ。
入り口を入ると、外見と同じ大きさとあまり変わらない広間がそこにあった。端にはキッチンが、入り口とちょうど反対にはドアが2つ並んでいるのが見えてそこには赤い文字と青い文字でそれぞれ“トイレ”と書いてあるのが見えた。
「あっ、ここは土足厳禁なんよぉ」
「おっと」
この世界で始めて見た。土足厳禁の家。ついついそのまま入りそうになってしまった。慣れって恐ろしい。
「あの奥から右側が、スライムづくり屋さんでぇ、右の手前がてっぽう屋さん、水てっぽうかボウガン風の木のてっぽう選べるんよぉ。んで、奥の左側が色水の手紙屋さんで、左の手前が木の実の小物屋さん、小さな置物かブレスレット作るのが選べるんよぉ。」
4ヶ所に少し大きめのローテーブルが分かれていて、それぞれお店をしているらしい。こういうの似たようなの小学校とかの秋のお祭りとかで見たことある。というか私も小学校の時こういうやつやったなぁ。懐かしい。しかしながらどれも大盛況だ。
「座るところがないな」
アンドレがスッゴいしょぼんとしている。
「そやねぇ、さっき団体さん来たとこだったからちょうど埋まった所だったんよぉ。アンドレ様ぁ、10分ぐらいしたら空くと思うんけどぉ、やるなら待つぅ?」
アンドレが興味を持ってくれてハジーさんもナカバさんも微笑ましく教えてくれた。
「坊っちゃま、神殿はもう近いので先に神殿に行って用を済ませてからにしてはいかがでしょうか。」
プントさんからアドバイス入りました。
「神殿?」
ナカバさんにきょとんとされた。
「モナちゃんも神殿行くのか?」
ハジーさんも不思議そうにして聞いてくる。あはは。
「そういえばミギィさんとレフティさんは?」
えーっと説明説明。
「そうなんかぁ、祝福~。おめでとぉ~。そやねぇ、それは早く済ませてからの方がええね~。ここのお店は混んでる時の方が少ない。神殿の方が時間かかるはずよぉ。先に済ませてからのほうが安心やよぉ」
「うす。また後で来るといい。夕方のほうが狙い目」
アンドレもそれを聞いて先に神殿にいこう!と言い始めた。でも
「タイモちゃん、まだ乾いてないや」
「うす。預かろう。」
おお!・・・ってまてまてまてまて。タイモちゃんはストレスが溜まると黒ずみが。こっそりちいさーな声でタイモちゃんに聞いた。
「タイモちゃんどうする?ヨコシャルさんがタオルでかなり乾かしてくれたけど結構濡れたままだよね?このまま神殿、行ける?」
だいぶ悩んだけれどタイモちゃんは首を横に振った。
「すぐに帰ってくるなら、ココで待ってるのよ」
「黒くならない?大丈夫?」
「ちょっとだけなら大丈夫なのよ。」
「そう?」
ちょっと不安だけれどハジーさんもナカバさんもいるし、うん!信じよう。
「父ちゃ!父ちゃ!スライム作りたい!」
「すみませんトウシャがこう言ってるので我々もココで・・・」
ヨコシャルさんとトウシャくんもココに残ることになった。
また後でと言い残して、神殿へ向かった。
すみません、予定がずれました。
リネア「出れてない!」
アンドレ「あれっ!?」
モナ「嘘の予告したらダメだよ、作者さん」
テンクウ「ボクの出番はまだ!?」
次回は明日予定です