第208話
悲しげな歌を歌っている女性を観客のほとんどの人は知っていた。腰に月のような短剣を下げ目の前の巨大なサイズの雪のようにもふもふしてそうなネコを見つめている女性は、モナをこの世界に呼んだ人。その人を模していた。
白いイノシシとフクロウは女性のすることを少し見守るような位置で立ち止まり、女性はネコに近づいて巨大なネコの足元に手を触れた。女性の歌は止み、今度はネコが鳴くように歌い出した。アンサーソングとでも言うのだろうか。そういう歌に聞こえた。
ネコが歌い出すと雪がチラチラと降り始める。この雪どこからか来てますか。空は晴れ渡っているのにこの辺りだけ急に雪が。ネコは歌い続けながら涙を流し始めた。涙が足に付くと足から溶け始め、下からネコが水に変わっていった。ネコが全て水溜まりに変わってしまうとフクロウがバサリとその上を旋回すると、水溜まりだったものが水の球となって空中に浮いた。
白いイノシシがその水の球に近づき鼻息を軽く吹き掛けたかと思ったら、1度目は氷の固まりに、2度目は雪の固まりに変化した。それを見ていた女性はその雪でわたあめでもするのではと思うような手の仕草で空中をくるくるとかき回した。
すると宙に浮いていた雪の固まりがぐにゃぐにゃと変化した。パーティー用のクラッカーが破裂したんじゃないかと思ったら、雪の固まりは小さな白いネコを量産した。雪の固まりが全て真っ白い子猫に変化して、全ての子猫はワッと跳ねるように固まりだったところから、舞台から四方八方に走り出したかと思うとすぐにどこかへ消えていってしまった。
女性は物憂げな表情で少しだけ明るい歌を歌った。すると女性足元には花が1輪咲いていた。真っ赤な6弁の小さな花だったが、赤い色など舞台にはそれしか無かったから目立った。歌声がさらに明るくなると、女性足元から温風がフワッと客席にまで届いた。春を知らせる暖かさなのかとてもいい匂いがした。
イノシシとフクロウはどこかに去っていった。氷に閉じ込められた悪役レスラーも、イエティみたいな雪男達も、氷から生まれた妖精も柱を作った踊り子達も、そして最初の司会者も、女神様の元へ集まった。
全員で声をあげて歌声を響かせると最初の柱が下から現れ、透明な階段も柱と共に生まれていく。階段を上っていくのは白い小さな子猫達。少しだけ大きさが比較的小さくない子猫を1匹悪役レスラーが抱き抱えてやると舞台の歌声を書き消さんばかりの声で「ウニャァァゴ」と鳴いた。とても喜んでいるみたいだ。
雪男と4人の女達は女神の元へ集まって忠誠を誓うポーズとでもいうのか、その場で腰を低くしてザッと床に座った。歌が最高潮になると、手のひら大の雪の結晶が空中に舞い辺りを埋め尽くした。私が使ったスキルで現れた空中に浮かぶ水風船を思い出す。客席も舞台も関係なくどこでも大きな雪の結晶が浮かんでいた。
歌が一斉に終わると同時に雪の結晶はまた幻のように消えてしまった。
「「「「「ワアァァァァァァァ!!!!」」」」」
アイスショーは終わった。拍手拍手拍手、の嵐だった。
「モナ!凄かったな!」
「もにゃ、面白かったね!」
「凄かったね~!」
「今年のアイスショーは神話でしたね。」
おおお、やっぱりそっち系かー!
「アンドレは神話って知ってる?」
「少しだけ習ったことはあるけど、さっきのは、すまん、わからない。プントは知ってるのか?」
「あの白いネコいたでしょう。あれはあの体格のいい男性の契約獣だったんですよ。いざこざで負けて死んでしまったあの男のためにネコは涙を流していたのです」
なるほどなるほど?
そんな話をしていたら、舞台に立っていた人達の自己紹介がはじまっていた。一座というか劇団というか、最高だった
仕事がここ最近忙しくって、あばばばばば。無理は禁物です世皆さん。
次回更新は明後日予定です。