第207話
アイスショー、2。
毛が長い真っ白い毛皮を全身に着込んだ男性はまるで、イエティとでもいうのか雪男という名前がふさわしい気がした。鹿の角のようなものを頭につけているから、ああいう民族でもこの世界には居るのだろうか?その男性が両手を突き出すと、倒れた悪役レスラーが大岩のような氷に閉じ込められてしまった。
あの悪役レスラーを丸ごと包み込むあの氷は本物のように見えたけれど、どうなっているのだろうと釘付けでそちらを見ていると、客席に来ていたきゃらきゃらと笑っていた妖精のほとんどはいつの間にか消えてしまっていて、残った4人がデカイ大岩の氷の周りを飛び回り始めた。するとその4人はあっという間に、氷を使ったであろう雪男みたいな男性と同じ姿の、女性4人に早変わりした。体格が全然違うので女性達だとわかる。そしてその4人の雪男風の女性の頭にもちゃんと角が生えていた。
雪男みたいな男性はその女性4人に指示を出して氷漬けのエルマッチョをどこかへ連れていったのだった。
舞台に残されたのは雪男だけだった。雪男は女性達の後を追うように歩き出したので、雪男もはけるのかと思いきや、舞台の端に来ると客席に上がろうとしてきた。私からは遠かったので良くわからなかったが近くにいた人達は驚いてしまって「きゃあ!」と声をあげていた。
・・・なんと、雪男は客席よりも上に、登っていった。私も、私の周りもついつい声を出してしまった。「え!?」って。さっきの氷で出来た柱は消えてしまったのは幻で実はまだそこに台でもあるのだろうと思っていたが、違った。近くで見ていた人達は雪男の足の裏がよーく見えた事だろう。雪男が近くに来ると私もわかった。
雪男が1歩、足を進める度に、薄くて硬い氷の階段が出来上がっていっていた。最初の舞台の氷の板を張った時のように、雪男の足の裏から氷を精製し続けていた。あっという間に客席の頭上には何層も重なるように見える氷の螺旋階段が出来上がった。キラキラと輝くそれを見て「天に登れそう」「涼しいね」と客席は盛り上がっていた。
客席が盛り上がってざわついていると、螺旋階段の中央にいきなりズドンと巨大なものが降ってきた。さっきの階段を登っていった雪男かと思いきや、降ってきたものが大きすぎて床の板の氷が割れたのか煙に包まれてしまう。螺旋階段も幻のように消えてしまった。
もうもうと舞う煙は最初の煙よりかなり濃く舞台に何が来たのかわからなかった。
「なにかゆらゆらしてゆ・・もにゃ、こわい」
トウシャくんが急に引っ付いてきた。
「おおおおお、俺はこわくないぞ」
アンドレも引っ付いてきた。怖くないと言うわりには、すっごくしがみついてますけどね、あなた。
濃い煙にスポットライトのようなものが当てられると煙の中にいる主が見えてきた。ゆらゆらと揺れる奇妙なものは大きな大きなしっぽ。舞台を埋め尽くさんとするほどの大きな大きなふわふわの雪で出来たようなネコがそこにはいた。
「「「「「おおおおおお!?」」」」」
客席の男性達の方がどよめいた。もっと怖いものでも来るのかと思ったら巨大なネコだったのだから無理もない。客席の女性や子供はネコを見てむしろ安心しただけだった。
ネコが辺りを振動させるぐらい大きな声で“ニャアァァゴ”と鳴いた。するとネコの周りの砕け散ったはずの氷の板が宙に浮いた。その割れた板はひとつ残らずネコの周りを囲むように浮いていた。土星の輪っかとでも言うのか、シャンデリアのガラスとでもいうのか、ネコを中心に回っていたり氷の板は土もついていなかったからキラキラとしていた。
割れた板に取り囲まれたネコは動かずどこかを見つめていた。すると歌声が聞こえた。悲しそうな歌声が響いた。それを歌っていたのは1人の女性だった。歌う女性の隣には大きな白いイノシシらしき動物と、大きなフウロウだった。
ネコはその女性が歌いながら近づいても身動きひとつせず、どこかを見ていた。
アイスショーは次回で終わります。長くなってしまったなう。
次回は明後日予定です