第185話
一緒に来たテンクウちゃんはこの街の祭りは何回か見ていたらしくみんなのなかではかなり冷静だ。
『でも今回は気合い入ってるね!』
こっそり小さい声で教えてくれた。テンクウちゃんが言うのだから間違いない。
スズちゃんもフテゥーロちゃんもセイリューちゃんも私とアンドレと同じく目がキラキラしている。私と同じでお祭りが楽しみで仕方ない!と顔からにじみ出ている。うんうん!
「きゅんきゅん!きゅん!」
めっちゃシッポふりよるふりよる。子ギツネコンコン可愛いなぁ可愛いなぁ~、草の実潰してお化粧したり~ほんにゃら、ほにゃほにゃ、ほにゃららら~。うん。祭りに合いそうな替え歌が思い付かなかった。ははははは。
そんなセイリューちゃんはミギィさんの腕に抱かれている。レフティさんの腕にはツキノさん。とレフティさんのその横にタイモちゃん。
「それにしても本当にお二人はこんな祭りに変装とかしなくて大丈夫なんか?」
ハッ・・!言われてみれば!王子だし!というか、アンドレはその辺の貴族の子って思われてるけど、ディオさんはその辺の知らない人にも王族ってバレバレなくらい噂が広まってたはず!!
「ふふっ今更ですが気づかれていなかったのですね。」
ディオさんの不敵な笑みも最高です。・・・じゃなくて?え?どういうこと?
「俺の魔法です。けっこースゴいんだよ俺?」
チェルキョ!チェルキョって・・・単なる護衛では?
「どんな魔法だべ?」
「認識阻害と幻影を組み合わせた物を付与していまっす!」
キリッ!って・・チェルキョに目元ピースのリア充がしそうなポーズ似合いすぎて頭を叩きたくなるのは何故なんだろう。さすが銀さん。
「おお」
「おお?でも私にはディオさんはディオさんにしか見えないよ?発動してないんじゃない?」
「付与されている本人が心を許していて、なおかつ、ディオ様のことをディオ様として認識して喋りかけたらその相手には阻害は解けます。」
なるほど。いいんだか悪いんだか。毎日疑って暮らしている人がいない限りはスパイとかやり放題では?とか思ってしまう魔法だ。コウチンさんと似たような魔法ってことかな?もしかしてコウチンさんよりスゴいのかも??
「モナちゃん、そろそろ祭りの開会式始まるべ」
お祭りは3日間。それが始まる合図。3日共に朝と晩で始まりと締めの合図があるそうだ。それにしても人がスゴいいる。祭りだからなのだけど、いつもこの商店街の近く、人は行き交っていてもここまで沢山の人は見たことない。
どこからわいて出てきたんだ、と、思ったけどよく見ると質素そうな服を着つつ育ちが良さそうな人達が結構いるように見える。あれか。貴族街があっちの方にあるから、そこからお忍びでお祭りに参加してるのか。漫画とか映画みたいだな。これで恋が始まったりする人もいるんだろうな。うーん、ちょっと気になる。ぜひ野次馬してみたい。
「モナ!始まるみたいだ!」
アンドレが少しだけ声を落として肩をポンポンと叩いて教えてくれた。合図ってなんだろう。合図っていうと定番は運動会でお馴染みの鉄砲的なものでパーンとやるとか?それかイベントでよくある「開催します!」宣言をマイクとかで拡声して広く伝えるパターンかな?
そんなことを考えていると学校の校庭にあるような少し広めのお立ち台みたいな場所に、一人のご年配の女性が立った。見たことない人だったけど、ミギィさんもレフティさんも知っている人なのだろう。そしてその人がそこに立つと合図を待っていた人達が急に静かに鳴った。よく見るとご年配の女性の手にはマイクみたいな物を持っていた。
ミギィさん達よりお年召してるその女性が口を開けると息を大きく吸い込む音がひゅっと鳴ったかと思うとそれが合図だというように、そこに集まった人々からも同じ音が奏でられた。
そう、歌が始まったのだ。
この朝の空気にぴったりなような爽やかさを持ち合わせたようにも聞こえるし、荘厳さがあるとも言えるし、なんとも言い難いがとても綺麗な歌が響き渡っていた。この街生まれの人なら誰しも知っている歌なのだろう。ミギィさんもレフティさんも歌っているが私やアンドレ、ディオさん、チェルキョさんや、一部の貴族っぽい人は見てるだけで口を開けていない。
歌詞はなさそうで、歌はいわゆるインストゥメンタル的なものなのだろう。曲調さえ知っていればアー、イー、ウー、で歌える歌だ。人々の声が重なりとてもそうは聞こえないぐらいとても素敵な音になっている。
それはそこまで長く無かったと思う。長くてもカップラーメンが出きる程度。3分ぐらいなものだ。
急に歌が終わるのではなく徐々に音が終息していく終わりだった。そしてその女性がお立ち台を降りていくと今までの荘厳さとかがまるで嘘だったのでは?と思うくらいに一気に騒がしくTHE祭り!という騒がしさ、喧騒というものが待ってました!と表れた。
スゴいオンオフの激しいことである。
「なんかスゴかったね!」
「うん!スゴかった!」
アンドレと一緒にハスハスしているとディオさんがミギィさん達に質問していた。
「んだっけ、夜も同じ歌歌うべ。もうちょっと静かめだけどな。だから覚えのええ人は朝聞いて夜には歌う人もいるべ」
「私も歌いたい!」
「俺も!」
「では私も!」
「ええべええべ、難しい歌じゃないかんな。この歌だけに参加するっつー変わりもんも世の中にいるらしいからな。下手くそでも大歓迎だべ。」
「こういう合図なら早めに知っておきたかったなー、せっかくだから練習とかしたかった」
「すまんすまん、でもアタシもレフティもこういう場じゃないとなーんか恥ずかしくなっちまってなー。教えたかったのは本当なんだけんど、少し驚いた顔も見てみたいってのも合ったしな。」
「なら、仕方ないね!」
騒がしくなった周りからは「うちの屋台は世界一上手い串肉だよー」「風船いかがー?」「今日だけの限定販売!」「王都でも流行ってるオモチャがあるよー」と色々聞こえてくる。ううっ、もっとミギィさん達に聞きたい気がしたけどもう、ウズウズが止まらん!
「アンドレ!」
「モナ!」
がしっ。
「ディオさんも!」
「うん?」
お祭りにレッツゴー!!うっひょーい!
勢いで“両手に花”ならぬ、“両手に王子”な事に冷静になって気づくのはもう少し経ってから。
明日も更新よていです