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第174話

「今・・・!なんと(おっしゃ)いましたか」


最後の方は声が消えそうな、そんなしぼんでいく声を発したのは1人の女性だった。


「いいか、我が子よ。私が悪かった。こちらのディオールウェリス様とは婚約は無かったことになった。」


女性の目の前にいるのはその人の父親であり、このロッテリーの街の領主の男だった。娘と父親がソファで対面になり、その2人の真横、いわゆるパーティー席と呼ばれる他の座っている人達全員を見渡せる端の席に、この国の第6王子、ディオールウェリスがいた。


領主様とディオ様とは朝から話し合いが(もう)けられ、話の中心人物である娘が外出から帰宅後に、今後について話そうということになっていたのだが、娘がなかなか帰ってこず夕方のこの時間になってしまっていた。


「そそそそそそ、それは、ほ・・・・本当なのですか!?」


「ああ、なんだったかな、(くだん)のお付き合いしている男性と結婚を前提にとお前は言っていたろう。」


「はい!チャルチャロス様ですわ!」


「一度連れてきなさい。ランチなどして交流してからまた決めようじゃないか」


「本当ですか!!お父様!私、嬉しいです!!」


泣き出しそうに娘は顔を手で隠した。よっぽど嬉しかったのだろう。少し肩が震えて頬が赤くなっている様が見てとれた。父親である領主は娘に対して少し呆れた様子だったが、ディオは内心ホッと胸を撫で下ろしていた。


(まだ気を緩めてはいけない)


「待ってくださいませお父様!」


急に我に返って何かに気づいたようだ。


「チャルチャロス様と一緒に領主は出来ませんわ」


領主からため息が盛大に吐かれた。娘はその姿をよく見ているのか特に気にした様子もないままキョトンとしている。ある意味スゴい精神力だ。出来ないと豪語してしまっているのに罪悪感すら芽生えないとは。


「知っている。だからこそディオールウェリス様はうちに来てもらう事になったのだ」


「・・・?お父様、意味が分かりませんわ。私、結婚はチャルチャロス様としたいです。」


「お前と縁を結ぶのではなく、私とディオールウェリス様と縁を結ぶ事になった」


「お母様を捨てて、お父様とディオールウェリス様と結婚するんですか!?そんな!?」


「「違う!」違います!」


2人とも答えるのが異様に早かった。


「・・・あら?」


「そうではなく、お前の兄としてこの家の養子に入ることとなる」


「そ、そうなのですか!?それは、まあ、あら、そう!・・・・・・素敵ですわね!」


ようやく合点がいったようでニコニコと今日一番の笑顔を振り撒いていた。


「ひとつお聞きしたいのですがよろしいでしょうか」


「はい、なんでしょうディオールウェリス様!」


ニコニコとしたままディオに振り向く。勢いついて、少しだけだが狂喜を感じなくも無く、ディオは少し身を引きつつも質問した。


「私と兄妹(けいまい)になるのは、その、チャルチャロス様は不快に思ったりはしないだろうか?」


ちょっと気持ちまで引きぎみになりすぎてこの国の王子なのにどこの誰かもしらないチャルチャロスに”様“敬称をつけてしまっていることにディオは気づかなかった。しかし、領主とその娘もそれについて気づかなかった。それよりも2人とも質問の内容に集中してしまっていたからだ。


「なりませんわ!むしろ領主という職種をやって頂けると心から賛成していただけますわ。なにせ私がチャルチャロス様の奥さまになるのですから、これ以上の幸福はないといつも仰ってくださってますのよ!今回のこと、私も大層わがままをいってしまいましたわ。でも!ディオールウェリス様のご英断のお陰で全て丸く収まるのですわ!お兄様になっていただいて本当に感謝しかありませんわ!」


「こんな娘で大変申し訳ございません。」


「いいえ、ここまでハッキリと言ってもらえたので私としても今後の憂いが減ると言うものです。」


「そうですわ!お父様!お兄様があまりにも心配でしたら私、チャルチャロス様に一筆したためてもらって来ましょうか!」


えっ


「おお、それはいいな!できるか」


えっ


「それこそ不快にさせてしま・・・」


「私の感謝の気持ちですわ!」


「いやはや、口約束だと私も不安だったんだ。ディオールウェリス様・・・は日程をずらしたとはいえ、明後日には王都に()ちますよね、書いてもらい次第そちらにお送り致します。それでよろしいでしょうか!?」


とりあえずこの目の前の女性に刺される夢はもう見ないだろうなということだけは確信をもてた。しかし名前の出てくる顔も知らないチャルチャロスとかいう男性に恨まれやしないかと新たな不安の芽が湧いてきていた。


本当に大丈夫になったのだろうか。


そう思っていたら、ふとあの小さな女の子と一緒に楽しい時間を過ごした時のことがなぜだか浮かんできた。あの子なら『きっと大丈夫ですよ!』と背中を押してくれそうだ。


「あの・・・?」


領主親子が返事を待ってこちらを伺っていた。


「ああ、すまない。チャルチャロス殿に負担のない形で書けるのであれば、送って頂けるとありがたい。あなた方の方でも一筆いただけるのならこちらとしても今後の手続きが早くすむかもしれない。出来るだろうか」


「「おまかせ下さい」」


王都に帰ったら“結婚”から“養子”になった経緯を第1王子や国王に説明しなくてはならない。その時に書状が1枚でもあれば事が進みやすいのは事実だ。


・・・・・・それにしても、『今からしたためます!』と目の前で始まってしまった。これ、いつになったらアンドレのもとへ帰れるのだろう?


どうにかこうにか断りを入れて2人の分に関しては明日中に館に書面を送って貰えることになった。ちょっと変わった家族だが、この話し合いの場を(もう)ける前と後ではだいぶ2人の印象がいい方向に変わったような気がする。


早く帰ろう。明日はこの街の祭りもある。


馬車に乗り込むその横の景色は、明日は晴れだと確信させるとても美しい胸いっぱいになるような夕焼けが広がっていた。


明日も更新予定です


作者、多分夏バテ。食欲あんましない~ははははは!まだ7月になっていないのに。ははははは・・・。

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