第111話
ディオールウェリス。愛称はディオ。この国の第6王子。王族はほとんど容姿端麗でありディオもそうだったが気立てが優しくこの時代の風潮からするとモテない部類であった。
大兄様と呼ばれる第一王子を筆頭にガタイがよく隆々武骨を絵にしたような人物がどちらかというと好まれた。もしくは子供を授かりやすそうな人物。家を守り抜けるか、家を栄えさせるか、女性にとってはそれらが最優先だった。
“チャルチャロス様と結婚したかったのにぃぃアナタなんかアナタなんかお父様に取り入っただけのくせして何が王子よおぉぉぉぉぉ”
“ザクッ”
“うわぁぁぁぁ!!!!き、君はなんて事を・・・うぐぅ・・・・・足が・・・足が”
「ハァッハァッハァッ・・・またあの夢ですか・・・・」
ディオは時たま夢にうなされていた。夢は様々だったがこの館に戻ってきてからは毎日だった。まだ現実で起きていない事を夢に見ていたがこの館に戻ってから見るこの夢に関しては妙にリアリティーがあり、この出来事が明日すぐにでも起きるのではという疑念を抱かせた。
「足がムラサキ色に変色していた・・・・ハア・・・・」
大きなため息を吐き、この夢をみた時必ず足を確認する。片足を身に寄せて足を見る。いつもと同じ足がそこにある。
「今日も私は生きている」
この先も、10年後も、その言葉を呟くことになるなど今の彼は知らない。
ディオは体を横にする気分にもなれず、しかし完全に起き上がるにはまだ辺りは暗く、ベッドの上からカーテンのわずかな隙間から入る陽射しを今か今かと待ちわびていた。
「お兄様がな少しだけ変なんだ」
「変?」
「うむ、変なのだ。」
テンクウちゃんとビャッコくんとコエキちゃんとプントさん、アンドレ、私、フテゥーロちゃん、ミギィさん。あとアンドレの護衛の人が2人くっついてきた。今日は買い物デー。
ともだち食堂の近くに馬車を預ける施設があるらしくアンドレの馬車はそちらに停車させて私達は歩いて商店街へ向かっていた。ちなみに今いないレフティさん。レフティさんは急な用事が舞い込んでしまったため、眉毛を八の字に下げながら見送りをしてくれた。
暖かい春ぐらいと言っていた陽気も、今日から本格的な夏が到来してしまったのかそこそこ熱気で暑い。そうは言っても風が吹けば冷たくて気持ちよく、日陰に入ってしまうとまだ春だと錯覚してしまう程度だ。
温暖化が進んでないって素晴らしい。そして空は青々としていてとても気持ちがいい。なのにアンドレから出たのは空まで曇りそうな思案顔。
「前にやったはずの書類をな、ひっくり返して全部やり直してたんだ。ボーっとしてたようで『間違いを見つけてしまったんだ大丈夫見直して修正するだけだからね』と言っていたがあれはおかしい。」
「どこが変なのかわからない。普通のことじゃない?」
「いつもはひっくり返したりせずに必要なものだけ抜き取って別に分けて置くお兄様だぞ。」
「ほえ。」
ひっくり返すって言うから“ちゃぶ台ガッシャーン”的なのかと思っていたら、クッキー缶持ち上げてバサバサーっとする程度ぐらいのものらしい。アンドレはジェスチャーうまいね。え、その程度で心配されるってディオさんどれだけ温和な性格なの。
まだ高校生ぐらいの年齢だったよね。ヒャッハー!とまではいかないにしろ多少ハッチャけていいんだよ?
そりゃ大人に近い子供っていう位置はめんどくさいけれども今が青春真っ盛りな時期と言われる頃合いでしょ。クッキー缶ぐらいの高さの書類バサバサーくらい、むしろもっとやれ!って応援・・・・応援はおかしいか。いやでも、そのくらいいいんじゃないかな。
ファミリーサイズのアイスをバカ食いしてみたり、我慢していたガチャガチャを“大人買いだ!”と大量に回してみたり、ぬーすんだバイクで走り出す~~♪してみたり?いや、盗みはダメだけど、海に叫んだっていい。走り出したっていい。思春期だもの。青春だもの。だもの。だもの。そうだもの。
ガチャガチャはお金かかるけど。いや、その前にこの世界にそれ自体がなさそうだからなんとも言いがたいけれども。うーん。
「モナ?」
「あぁごめん。視察とか色々大変だったから疲れが今ドバッと出てるだけじゃないかな?休めばなおると思うよ。癒しとか・・・あとは、ハジケられれば気持ちもあがるし、パアッとなにかしてみたらいいんじゃないかなー?」
具体的案はない。なぜってディオさんのことそんなに知らないからである。
「お疲れならアンドレがディオさんに肩たたきとかしてあげたら喜ぶと思うよ」
って兄弟でやることでもないか。うーん。ひとりっ子の私には親にしてあげれば喜びそうなこととかしか思い付かない。肩たたきはかなり喜ばれる部類だぞ。上手い下手にかかわらず、気持ちが嬉しいんだよ。うむうむ。
「かたタタたきってなんだ」
たが1個多い。
「肩・たたき。こう、ね、トントントントンって疲れた肩を癒してあげるの。知らない?」
「なんで叩くんだ?」
「なんでって、こるじゃん」
「こる?」
「肩こりって言ってね、肩の筋肉が固ーくなって痛いなーって感じることだよ。書類仕事してる人とか、運動不足の人とか、寒いところにいたとかで肩に力が入っちゃってる人とか、かな?」
「「「かたこり・・・」」」
おっと。プントさんとミギィさんと護衛の1人が同じ呟きをしたよ。プントさんとミギィさんは言わずもがなきっと肩こり経験者なんだろう。護衛の人の呟かなかった方は20代ぐらいだけど呟いた人は30代後半から40代ぐらいかな。こっちも呟いたと言うことは肩こり経験してるんだろうな。
「肩こりってないの?」
「聞いたことなかったべ。年取ったらなるもんだよなぁって勝手に思ってたべ。」
あちゃー。しくじったなぁ。肩こりって病名的なのついたのって昔からあったもんだと思っていたけど、もしかしたら現代日本で浸透してただけで、結構ここ最近、数百年?とかでついたものなのかも。
異世界だし、食べ物もそんなに困ってないからそこそこ流通あったりするし日本の感覚でお喋りしてしまった。肩こりを見つけた人物です、とかなりませんように。なんとかなれ~~、あ、そうだ。
「お母さんがよくなっててね、教えてくれたんだよ」
お母さんごめんよ。犠牲になってくれ。
「残念。もっと詳しく知りたかったのに」
護衛の人。ごめんよ。
「んだなぁ。ディオ様元気にすんなら、肩たたきもいいが今度の祭りとか参加すんのも気晴らしにいいんじゃないかぁ?」
「えっお祭り!?いつ!?」
「あっモナちゃんに話すん忘れてたっけか。5日後だべ」
「すぐだ!」
「無理だ。4日後が帰る日だ」
そ、そんなぁ~~~
次回は12日予定です
朝から雪降ってた~~