第108話
「上で騒いどるベ」
「さすがにあんだけ大声じゃ下に多少聞こえるってのに、モナちゃん興奮してて忘れてそうだベな。」
「つか、ミギィが言わんかったら良かっただけじゃろて。言う時はアタイが自分自身で決めると言っといたベ?」
「良いタイミングだとおもうんだっぺなぁ。テンクウがモンスターって知ってたって言うんか?」
「え、あ、うぅーーーん。テンクウらがどう出てくるかが鍵じゃな。」
「そか。んなら今は待つべ。」
ゴワーーーーッとミギィさんの風魔法でモナの髪が乾かされる。一階に戻ってきたモナと一緒にテンクウとビャッコとコエキがいた。
髪を乾かす音がうるさいからか、モナの声もそれにあわせて大きくなっていた。
「レフティさんっあのねあのね、さっきミギィさんに聞いた犬のモンスターってテンクウちゃんに似てた!?」
「んー、どうだったかなぁ。だいぶ小さい時じゃったし、あの村も今はもうないしの。モンスターにやられてな。」
「ええっ、そ・・・それは」
チラリとテンクウちゃんを見た。首を横にブンブン振っている。濡れ衣容疑らしい。
「巨大ミミズが地中からわんさか出てなー、地面がふかふかすぎて家が倒壊しまくって住めなくなったんだべ。」
「ふかふか。」
住人にとっては一大事だが想像するとマヌケな光景だなぁ。
「元々良い土壌が売りの村でな、美味しい野菜がよーけ取れてな。『ミミズは神様じゃー!』っていうバカがいたんだ。んだら、ミミズが今度は増えすぎてな、ミミズのモンスターが生まれたんだかどっからか来たのか、溢れてしまったっつー、まあ、面白い話じゃろ?」
「え、あ、うん??」
なんか不憫かなって思った。
「村失くなっちゃって寂しいね。」
「いんや、そんあとにな、村人が別の村と合併して別の町に発展したし、ミミズモンスター出た後はさらに野菜が美味しいのが育つようになったんで、問題はなかったと思うべ。」
「そ・・そっかー。」
人間はたくましいのだった。ミギィさんの風魔法が止んだ。
「そっだら昔んことだから、記憶は曖昧だが、テンクウに似てたかもなぁ。テンクウ、こっち来ぃ。」
「ワフッ?」
私とレフティさんを交互に見比べたテンクウちゃんは不安そうだ。大丈夫、大丈夫!促すとレフティさんの足元にトッタッタッタとテンクウちゃんは近づいた。レフティさんはかがんでテンクウちゃんの頬を包むようにワシワシした。犬が大好きで犬にキスでもする人の格好だ。
「いいか?テンクウ」
『いいか?ここは見捨てられたんだ』
「もしあのモンスターでもそうじゃなくても」
脳裏に同じ立ち姿でレフティさんもテンクウちゃんも、海賊だか山賊だかわからないくらいボロボロな出立ちが今いるレフティさんとテンクウちゃんに被って見えた。
『もしもなんてこと考えてる暇があったら』
これは私の妄想なのだろうか。急に?一体なんなんだろうこれは。
「モナちゃんを側で守るんだべ」
『―――・・―――――・・・』
胸がきゅっと苦しくなった。
「モナちゃん?大丈夫?」
レフティさんにテンクウちゃんがそのモンスターだよって言って楽しい夜で終わろうとしていたのに、変な映像が頭に浮かんでしまってどうしようもなくなったので、もう眠いから寝るね、と言って上へ上がって来てしまった。
ベッドにうつ伏せーの死亡中なう。なんてね。ああ、でももうほんとーっにテンションだだ下がりである。
「はーーーーーっ、むむむむむ、ごめんねテンクウちゃん。ばらす予定が逃げて来ちゃった」
「ううん、いいんだ。ボクも緊張しすぎて吐きそうだったもの。モナちゃん疲れてるんだよ。早く寝よう。」
「うん、あっそうだ。寝る前に重大発表です!ケセランパサランちゃん!」
「うぃ!なぁに?モナ?」
「名前決めたよ。」
「・・っっ!!・ん~~!、・・ホント!?やったぁ!嬉しい!」
最初はポカーンとしていたがどんどんと沸き上がる表情の高揚感に私も嬉しくなるが半面、プレッシャーが追加された。
「えと、期待に答えられるかはわからないけど。」
「モナ!モナー!早く教えて!」
空中でぴょいこぴょいこと跳ねている。癒されるなぁ。周りのみんなもこちらを見て静かに聞き耳を立てている。
「こほん、では。」
「うんうん。」
「君の名前はフテゥーロ。フテゥーロちゃん。」
ケセランパサランちゃんの正式な名前はこの時からフテゥーロちゃんだ。どうだろう。気に入るだろうか。
「意味はね、未来。私のいた日本ではね、女の子でも男の子でもどっちでも使う名前なんだ、未来ちゃんとか未来くん、とか。ね。どっちでもいいしどっちじゃなくてもいい。私は出会って間もないけれど、君は未来の私と仲が良かったんでしょ?どういうことなのかまだ色々ちゃんと聞けてないけど、私の未来にも君がいて、君の未来にも私がいて、そしてふたりとも楽しくできていたらいいな。って。えへへ、大した理由はあまりないんだけど、どうだろうか」
「モナっモナっあのね!大好き!!!」
フテゥーロちゃんはモナの胸に飛び込んだ。モナのパジャマに涙の後がどんどんついていくがモナはフテゥーロちゃんを撫でながら、少しだけホッコリした気持ちに包まれた。
「モナちゃんなぁんも言わんかったの」
「んだの」
「どうずっべ?」
「明日の買い物から帰ってきて落ち着いてから今度はちゃあんと話すべ。なぁんか色々モンスター2階に増えてっしこれからのことをちゃあんと話さねば。」
「んだな。今、話たら明日の買い物行きたくなくなるかもしれんの」
―――・・・・師匠。
「なんか言ったかぁ?」
――――――・・・・・師匠!
「「うわぁ!?」」
『聞こえたみたいで良かったです。ミギィ師匠、レフティ師匠。』
「頭ん中に声が」
「弟子なんてとった覚えねぇべ」
『俺はこの先の未来から過去の貴方がたに声を送っています。師匠達に会うのはそこから8年後です。今俺がいるのは10年後、いえ、約11年後から声を送っています。』
「悪魔とかモンスターの攻撃とかじゃないべか?」
『そ、そうじゃないんですけれど、どうしたらわかってくれるだろうか。困ったなぁ。』
「んだっけ、そっちばっかアタシ達のこと知ってるみてぇで気持ち悪いべ。あんた、名前は?」
『アンドーレリユースと申します』
次回は6日予定です。