第94話
太陽が少し傾いていた。たぶんおやつの時間くらいかその前ぐらいだろう。テンクウちゃんが言っていた通り話はそこそこ長かった。けれど、心の底から聞かなければと思っていた。
まるでずっと前から知りたかったみたいに、食い入るように聞いていたのだから。
「わかった。でもね、私も言ったハズだよ。私はテイマーにはならないよ。」
これは私の心からの決定事項であってなぜか揺るがない。揺るぎようがない。なぜって聞かれたとしても、答えようがないけれど、でも、たぶん、忘れている何かが私を作っている。そんな気がする。
お前にサンが救えるか!(もの●け姫)的にテンクウちゃんを救えるか!って世界に問いかけられている気分だ。誰に?知らない。誰にだろう。世界。世界ってなんだ。思い出せないモヤッとする何かが私の中にある。
残念ながら答えは出ない。
「ハイハイ!他に聞きたいことがあるんだけど聞いていい!?」
「はい!どうぞ!モナちゃん!」
ノリがいい。テンクウちゃん大好き。
「はい!先生!テンクウちゃんの名前っていつついたの?」
「ボクがボクだと認識した時にはわかっていたんだよ。不思議だよね。カミサマからの贈り物って他のモンスターは言ってたよ。」
「カミサマ・・いるのかな?」
「さあ、知らなーい。」
「種族っていつ知ったの?」
「モンスター同士だと見たら違う種族だなって本能的にわかる。種族名は人間が勝手につけただけだよ。その種族名をボク達もわかりやすいから勝手に使わせてもらってるんだ。いつだったかな。忘れた!」
「フフッ」
思ったよりも人間とモンスターは持ちつ持たれつだなぁ。
「私ってそんなにテイマーの素質あるの?」
「あるよ。わからないけどわかるんだ。今のモナちゃんは小さいからあまり感じないけど、サルの時、大人になったでしょ?あの時、あのテイマー達と似たような匂いがしたよ。」
ドキリ、とした。
魔力が少ないから少しだけで済んでいたとしたら、私は魔力を大きくしたらテンクウちゃん達は離れる可能性が高い・・・と言うことだ。
離れたくないなぁ。
「この街にいるモンスターってやっぱりテンクウちゃんと同じで、その暴動を体験した子達が集まって来てるってことなの?」
「そうとも言えるし、でもそれだけじゃないよ。前の領主がテイマーのためを思ってやったことのひとつにモンスターを強くすることも少し入ってたみたいでね、この土地や植物がモンスターの食事や環境に適したものになっているみたいなんだ。」
「まじかー。」
「まじだー。結果的にボク達が過ごしやすい土地になっているんだ。そして人間が少なくなってる今、年々、またモンスターが集まりつつあるんだ。」
「過ごしやすいのはいいけど、モンスター集まってるの?暴動また起きそう?」
「もうテイマーはこの街にはいないし、当分暴動は起きないと思うけど何とも言えないなぁ。本当にね、集まってるのは昔からいるモンスターだけじゃないんだよ。知らずにこの街に集まっているモンスターもいる。過ごしやすいってやっぱり魅力なんだよ。」
テンクウちゃんが木に寄りかかって座っている私の太ももからおへそ辺りにアゴをのせてきた。モスッと服とテンクウちゃんの毛が当たって擦れる音がする。
ワンちゃんの頭が来たらナデナデ1択である。眉間の辺りからワシワシしてあげて耳の合間を手でブラッシングするみたいにシャコーッって撫でるのだ。いやもう、ブラッシングかもしれない。どっちだこれ。
「んー。あ!そうそう、下っぱ小ダヌキはモンスターの暴動の後に生まれた子達みたい。ああいう子達は後から生まれてるからあのテイマー達のことも知らないから暴動なんて起こさないと思うよ。それにキジンさんとかに注意喚起はされてると思う。」
「暴動の時もサルはいたの?」
「いた。でもあんなに狂暴なやつらじゃなかった気がするんだ。あんまり覚えてないけどあんなに狂暴だったらもっと印象強く記憶に残ってそうだもの。たぶん、最近おかしくなっていったんじゃないかと思っているよ。そうじゃなかったらアイツらに襲われた時足に怪我なんてしなかったもの。だってボク逃げるの早いからね。」
サルのほとんどは捕縛されたけど多すぎて逃げたサルを追うことは誰にも出来なかった。捕縛でいっぱいいっぱい。サル達もう来ないといいな。誰も怪我なんてして欲しくない。
少しの間、話つかれたこともあってテンクウもモナも黙った。どこからか風が吹いて濃い緑の葉を揺らした。シャラシャラと葉が擦れる音を聞いて心穏やかに、テンクウの言っていた過去の話を思い返していた。
「・・・・ね。・・・やっぱりゴーレムと一緒にいた男も嫌いになった?」
「・・・・・・・・・少し、ね。・・・・・だって、もし世の中から逃げていたんだとしたらアイツも結局ボクと同じ、臆病者だったってことだもの。ボクも臆病者になっていた。でもアイツはボクを強いやつと思い込んでいて、他のテイマーについて話さなかったんだ。」
そっか話して欲しかったんだね。
「話してくれていれば近づかなかったかもしれないのに。」
「タラレバの話は際限がないね。」
「タラレバ?」
「そうだったら。そうなってれば。たら。れば。で、タラレバ。」
「私はね、テンクウちゃんの話を聞いただけで見たことはないから想像でしかないけど、その男の人はテンクウちゃんといて楽しかったから言うの忘れてただけな気がする。」
「えっ?」
私の台詞にテンクウちゃんはキョトンとしているとどこからか声が聞こえてきた。
「サーンサーン仲良く~さーんさーんさーんぽ、一歩二歩三歩~さんさんさーん。いちにーさん!いちにーさん!いち!にー!さーーーーん!」
そ、その曲はアンパン●ンのエンディングで聞く曲!?そしてこの声は!!
「モーーーーーナーーーーー!」
「ポコポン!」
「ぽっぽん!」
「にゃあああーーーお」
「ケセランパサランちゃん!?なに歌ってんの!?!?」
その後ろから豆タヌキと星タヌキと1匹の猫がこっちに向かってきていた。
「え?えっとー、なんだっけ?パンパカパン!!」
ドヤァ
「惜しい!違う!」