12 貴族の買い物
地位のある者が事故や事件のある外界に、無闇に出歩く事はない。
必要な物は使用人が買いに行き、欲しい物は商人の方が品物を持って、地位のある者の所にうかがう。
ただ、他者が居る場で見栄を張る時は別である。
移動には古今東西、運転手と護衛付きの車両を使うのが当たり前だが。
「じゃあ、このフロアの物、全ていただくわ」
ドラマなどで、よく使われるシチュエーションだが、実際にデパートや商店の全ての商品を買っているかと言えば疑わしい。
現実的に、サイズの合わない商品や、性別の伴わない商品も有ると言うのに。
恐らくは、一旦は店を閉めるが、その後に使用人が主人や家風に合った商品だけを選別して購入するのだろう。
金持ちほど予算には厳しい一面がある。無駄な金は使わないものだ。
店としては、残った商品を一度は倉庫にしまい、店内を模様替えして客のメンツを守るだろう。
それだけの労力を費やしても利のある客でなければ、客のメンツを守る益もないので、客側もソレなりの高額購入をしなくてはならないのだが。
仮に、見栄だけを張り、金を出さない客がコレを行った場合、店側は先のフォローなどする筈もなく、明らかに常連客からは実の伴わない客だと判断される。
地位のある者は、噂や評判を気にする。
実の伴わない者は、嘘を付き、騙す事を恥とは思わない。
儲け話を持って行ったり、金を払って後ろ楯を頼んでも裏切られる可能性がある。
その様な者は取り引きを控えられ、収入が激減していき、やがては名誉や過去の栄光だけの存在になっていくのだ。
貴族の様に領地があって、収穫物が有っても商人が買い取ってくれない。
その様な者と取り引きがある事自体が店の評判を落とすからだ。
領内から商人が消えていく。
既に通貨社会になった世界では、物々交換など相場が分からずに成立できない。
領民の暴動や流出が起き、貴族の生活すら成り立たなくなる。
勝手に領地を離れる事が許されない貴族は、別の場所で再起を図ることすら許されない。
なので、ドラマの様なシチュエーションは、現実には皆無だと思うべきだろう。




