表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

第6話 情報屋

 ドライと共に初任務へと向かうロスタ。

 障壁の魔法を操る、薬物の密売人を相手に苦戦する。追い詰められる二人だが、ロスタの奇策により事態は好転。憎き悪漢へ容赦無く拳を振るうのであった。

「こちらドライ、任務完了」

「ご苦労様。大丈夫だったかい?」

「ええ。少々手こずりましたが、問題ありません」

「そうかい。じゃあ、そちらに車を送るよ。後の事は任せて帰還しなさい」

「承知しました」


 携帯電話にてボスとのやり取りを終えるドライ。

 疲弊しているにも関わらず、普段と変わらぬ態度で任務を終える。


「オラ、死ね死ねッ!」


 ロスタは密売人の男の顔を掴み、何度も膝蹴りを喰らわせる。


「ブラド、もういい」

「……、へへ……どうだ、ぶっ殺さずにシメてやったぜ……っ」


 男の脚に突き刺さった棘が消え、噴水のように鮮血を撒き散らす。再度男は惨い叫び声を上げ、その場に血溜まりを作り倒れた。

 当のロスタは力が抜けたのか、腕が元の形へと戻る。がくり、とその場にしゃがみこんでいる。


「ブラド!」

「初任務……大成功だろ?」

「無茶しやがって……ほら、立てるか」


 ロスタに向け駆け寄るドライ。ロスタの肩に手を回し、どうにか立たせる。


「ブラド、あの力は何だ?」

「あーあのトゲトゲの事か?」


 抱えられながら、普段通りの口調でべらべらと語るロスタ。


「あいつ、どうにかしてぶん殴りたくてなぁ。キャノンぶっぱなしたら死ぬし、何とか動けなくしてえなって思ってよ。そんで、血ぃ固める能力、あいつにも使えねえかなって」

「それであの棘を錬成した……か」

「おう、血の塊ぶつけるだけなら簡単に出来そうだけど、そんな事したら俺がぶっ倒れるだろ? 守られるし」

「力の限界か?」

「あー俺、血ぃ撃ち過ぎると貧血になるっぽいんだよ。だから、あの辺の血溜まり使おうって思ったんだよ。真下からの攻撃なら壁も貼れねえだろ?」


 ロスタは歯を見せながら、蒼白した顔で笑う。貧血状態にあるのが客観的にわかる状態だ。


「そうか……しかし、あんな力があるなら先に言え」

「え、無理に決まってんだろ。だってついさっき思いついたんだからな!」

「ついさっき……」

「ああ、他人にあの力使うのは初めてだな。上手くいって良かったぜ!」


 ドライは顰め面で眼鏡を押さえた。


「いや……確かに魔女の力だ。まだまだ開発の余地があるな。そうだ、そういう事だな」

「ああ、そういう事!」


 ドライは無理矢理納得することにした。


 そうこう話しているうちに、事務所の車が到着する。見慣れた黒スーツにサングラスの男達。


「ドライ様、ブラド様。お二人は此方へ。その男は我々で回収します」

「ああ、頼む」


 黒スーツ達は手馴れた動作で男を担ぎあげ、黒いワンボックスカーへと運んでいく。


「なあ、そいつこれからどうなんの?」

「尋問だ。そいつの犯罪歴、所持物、その他諸々を徹底的に調べ上げる」

「終わったら?」

「解放するかどうかはそいつ次第だ。殺さなかったのはあくまで尋問の為だからな。こいつが暴れたり、存在価値無しと判定されたら……」

「そうかよ」


 ロスタはどこか拗ねたような表情を浮かべた。


「もしもだ。あいつが売人なんかじゃなかったら、今頃ベティちゃんは」

「過去の事を悔やんでも仕方がない。大事なのは、これからどう生きていくかだろう」


 ロスタは弱々しい口調で呟く。見兼ねたドライは冷静に諭した。彼なりの優しさだ。


「これから……」


 そこから先の言葉は出なかった。


 任務を終えた二人は、その報告にボスの部屋へと訪れた。


「二人ともご苦労だったね。奴はうちの牢獄に閉じ込めるよ。容態が安定したら尋問をする。君達は暫く休みなさい」

「ウス!」

「承知しました」


 二人はボスに向かい敬礼した。


「そうだね。君の実力は分かった事だし、早速自由任務をしてみようか。それから依頼任務もさせていいかもね」

「自由……依頼?」

「自由任務は上層部からの命令以外で行う暗殺及び襲撃の事だ。主に情報屋の協力を得て執り行う。依頼任務はその名の通り、一般人からの依頼による殺人任務だよ」

「あ……はい。了解っす」


 本当にわかったのか、と言いたげな目をするドライ。


「勿論、無益な殺生はしないよう我々で調べ尽くした上で任務を与える。君達は安心して任務にあたるといい。彼も一緒だし、心配要らないね」

「ハッ」

「へい……」

「では、また次の任務に宜しくね」


 二人は再び敬礼を返し、ロスタの自室へと帰還した。


「あー、疲れたぁ」


 ロスタは帰るやいなや、ベッドに沈むように倒れた。


「待て、お前宛てに荷物が届いている」

「明日……」

「今だ」

「明日ァ!」

「今だ!いつまでそんなボロボロの服のままでいる」


 首根っこを掴み、無理矢理身体を起こす。


「服ー?」

「そうだ。腕の繊維が千切れているぞ。中身はどうやら仕事服のようだな」

「へい……」


 やさぐれた顔でベッドに座るロスタを横目に、ドライはダンボールを開ける。


「ほら、着ろ」

「今?」

「ああ、サイズが合わなかったらどうする」

「きっちりしてんねえ……」

 ブツブツと言いながらも、渡された服に着替える。

「あー……こんな感じか」

 鈍色のノースリーブに真っ赤のトレンチジャック、黒のカーゴパンツを着用する。右手には手袋を着用し、魔女の刻印を隠している。

「サイズは?」

「ああ、問題ないぜ」

「では、次からそれで任務に当たれ。あとは……」


 ロスタに片手で突き出したのは、最新型の携帯電話だ。


「おー、最新の奴じゃん」

「任務に使う。使い方は」

「わかるって、舐められちゃ困るぜ」

「そうか。では翌日の正午、また会おう」


 ドライはぶっきらぼうな態度で部屋を出ていった。無機質な部屋のベッドに、一人寝転ぶロスタ。


「……なんか堅えよなぁ」

『眼鏡の男か。彼奴の性格のせいかもしれぬが、そなたを全く信用しておらん』

「だよなー。もうちょっと砕けた方が楽なのによ」

『だが、面倒見の良い男よ。人柄の良さは隠せておらぬな。案外、良き相棒となれるのではないか?』

「ま、俺としちゃあ上手くやれるに越した事ぁねえけどな」


 天井の小さな光を、ただただ見つめるロスタ。彼はいつの間にか、眠りについていた。


 翌日。インターホンが押され、ロスタの部屋へと入っていくドライ。髪を整えている最中のロスタが出迎えた。


「今日は昨日話があった自由任務について説明する。着いて来い」

「おうよ。もうすぐ髪纏まるからよ」

「先に済ませておけ……」

「あー、ついつい拘っちまって。こういう仕事してると見た目大事なんだよ」

「まったく……準備出来たら言え」


 二分後、髪にボリュームを出したロスタが表れ、事務所の車へと乗り込んだ。


「今から情報屋に会いに行く。少々癖のある奴だが、上手くやれ」


 車は発進から五分程度で止まる。ヴァンジン市北区の街、ノードフルス。街に大きな河川が貫くように伸びる街。中央区程では無いが、それなりに人の往来が多い街だ。


「ノードフルス駅喫煙所で待ち合わせをしているのだが……中々来ないな」


 屋外の喫煙スペースで佇む二人。

 駅構内を歩く人々は皆仕事に娯楽に忙しいようで、周囲など気にすること無く歩き続ける。

 その中、一人の男が手を挙げ此方を呼ぶ仕草をする。左腕に煙草の箱を握りしめている。


「よう、あんたが新人の子か?」


 顎髭を生やした長身の男。一回り身長の低いロスタを見下ろしている。


「俺は……そうだな。ダンディとでも」

「黙れ」

「ハイハイ冗談ですよ。俺ん事は『スモーク』って呼んでくれ。ま、そういう名だ」


 スモークは人差し指で頭を掻く。世間一般的にダンディと呼ばれる、渋い風貌を醸し出している。


「スモーク、ね」

「おう。じゃ、俺は一息」


 握っていた箱を開け、一本の煙草を突き上げて咥える。


「未成年が居る。煙草は控えてもらおう」

「えー、つまんねえの」


 両腕を首に回し、あからさまに不満そうな表情を見せる。


「俺は別にいいけど」

「良くない。未成年だろう」

「いいだろ。酒も飲んでたしよ」

「だから良くない」

「へへ、漫才でもやんのか?」


 悪戯に笑うスモーク。ドライをからかうように咥えた煙草を上に向かせる。


「まったく……【仕事】の話だ」

「はいはい【仕事】ね。ちょいこっち来な」

 スモーク達は待合室へと入り、3人がけのベンチへと座る。手に持っていたノートパソコンを開くと、そこには名前と犯罪歴が一定間隔で羅列されている。ロスタが外から覗き込む。


「そうだな、【捨てて】いいもので頼む。何かあった時の保険としてな。後、【服装】が軽いものだ」

「つうと、一般人あたりか。探してみるぜ」


 副流煙を大きく吹き出し、暫く左指で摘んだ後、再び口に咥えた。紫煙が空に舞いあがる。


「何言ってるか全然わかんねえ」

「……つまり、こういう事だ」


 ドライは隠語を使わない文章を携帯に書き記した。


【殺害して構わない者で、武装していない】

「ならそう言えよ、難しいぜ!」

「堂々と言えるかこんな事……」


 また彼は眼鏡を押さえた。


「こいつなんてどうよ」


 端末の画面を見せつけるスモーク。小太りな顔付きの男で、名は『チャールズ』。名前の下には【殺人 出所済】と表記されている。


「ナイフくらいならあるかもな。けど、あんたらの力なら十分だろ」

「そうか。場所は?」

「証言があったのはノードフルスの夜中だったか。何でも……」


 突如屈み、ロスタに耳打ちするスモーク。


「ムショを出た後もスリやら何やらで罪重ねてるそうだ」

「ムショを出た後……」


 呟いた途端、ドライは足を踏みつけた。


「言うな」

「わかったよ……痛ってえ」

「で、こいつのルートはある程度は掴めてる。普段はそこらのコンビニで買い物してから帰るのが基本だ。運が良ければ今日にでも張り込んでみるか?」

「今日か……ブラド」

「俺は全然いいぜー」

「じゃ、決まりだな。日が完全に沈んでから、また来いよ」


 そう言うと、スモークは新たな煙草を取り出し口に咥える。


「お前……」

「あんたも吸ったらどうだ。気持ちよくなれるぜ」

「吸わん。わざと健康を害すような行為をしてたまるか」

「わかってないな若造。人生ってのはこの煙と同じ。一瞬で消えちまうものなのさ。そんな刹那の人生、愉しむか愉しまないか。そんなの一択だろう」

「……何言ってるかわかんねえぞ?」

「同感だ。というか分かりたくないな」

「……冷たいねぇ」


 溜息にも近い紫煙が昼の空に消えていった。


 夜間、ノードフルスの街の隅。二人の男が壁に隠れている。一方は狭い道を注視し、もう一方はスモークと通話中だ。


「どうだ?」

「いねえや。いつもこの時間にいんだろ?」

「そうだな……そろそろ現れてもいい筈だ」


 ノードフルスの夜は静寂に包まれる。中央区のような夜間の喧騒は無く、街ゆく人の話し声が僅かに響く程度だ。


「……あれか?」


 ドライの目が鋭くなる。

 目の前に映る小太りの男。酒の入った袋を手に歩く。


「間違いない、例の男だ。殺るか?」

「ああ……殺っちまいな」


 スモークの一言と共に、二人は男の前へと出る。


「よう、死んでもらうぜオッサン」

「排除する」


 光鞭を構えるドライ。その間にコートの右腕を脱ぎ、腕を変貌させる。ボタンを一つだけ留め、半端にはだけた上衣から赤き火砲が剥き出しになる。


「な……何だ! 」

「大人しくすれば楽に殺してやる」

「ふ、ふざけるな! そんな事あってたまるか!」

「うるせえよオッサン、死んどけ!」


 砲門をチャールズに向け、ニヤリと笑うロスタ。人を死傷させる時の、狂気の目だ。


「う……うあああああああ!!」


 ロスタ目掛けて猛突進するチャールズ。

 走る途中、彼はポケットからナイフを取り出した。


「死ねええええええ!!」

「は?」


 スレスレで回避し、足を掛けようとしていたロスタだが、突然現れた刃物に気づくのが遅れた。

 まずい、と思った時にはもう遅く、男が目と鼻の先にいる。


 ロスタの腹部に向け突き出されたナイフ、贅肉のついた腕。

 それらは、二本の光の鞭で縛り上げられていた。刃先が届く一メートル寸前で止められている。


「気をつけろ。死ぬところだったぞ」


 男の手首に巻かれた鞭が、さらに本数を増やし伸びていく。

 最後の一本が巻き付かれた時。ドライはその鞭を引っ張り上げ、強引に男の腕をぐるりと回す。180度以上回転した腕が、生々しい音を立てる。


「ぐううっ……!?」

「厄介なものだな。10本までしか出せないというのは」


 ドライの全ての手指から、光の鞭が伸びている。それらを千切り、ようやく男は腕が自由になる。しかし、腕を回転された痛みからか蹲るばかりで、反撃をする余裕が無い。


「悪い……マネージャー」

「ブラド、怪我は?」

「ギリギリセーフだ!」

「そうか。気をつけろ」

「お前……ら……!」


 雑談をしている中、ようやく立ち上がるチャールズ。ナイフを拾い上げ、今度はドライを標的にする。


「貴様ァ!」


 ナイフを手に、再度突進を仕掛ける。ドライは表情を乱さず光鞭を広げた。


「ウッ……!」


 六本の鞭がチャールズの首に巻き付き、絞めあげるような体勢になる。


「楽に殺してやろう」


 腕を交差させ、光鞭を操るドライ。さらに四本の鞭を追加する。


「終わりだ」

「……ッ……アア……ァ……!」


 もはや言葉を発する事も出来ず。

 頚椎が折れ、首が有り得ない方向へと曲がった。

 鞭を解除すると、脱力し地面へと顔を打ち付けるようにして絶命した。


「……殺ったか」

「ああ。これから報告のやり方を説明する」


 何事もない様に立ち振る舞うドライ。彼は殺人行為に何の感情も抱かないのだ。


「なんか、スっとしねえ」

「こんなものだ。気持ちの良い暗殺など小説の世界の話だからな」

「そうかよ……」

「自由任務は俺がボスに報告を行う。お前がいずれ自由行動になったら、俺に報告しろ」

「おう……」




「おう、お疲れさん。余裕だったろ?」

「まぁ……な」

「そうそう、最近出来たあのカフェ行ったか?」


 任務を終え、ノードフルス駅周辺を歩く二人。ロスタはぼうっと外を眺めて歩き、ドライはスモークへと報告を行っていた。しかし、話は雑談へと移り変わっていく。


「あそこにいる店員の姉ちゃんがまぁ美人でなぁ」

「スモーク、関係ない話は……」


 そう話している時だった。

 街中で女性の悲鳴が響く。一瞬で周囲の人々の視線が集まる。


「ひったくりです!捕まえて!」


 二人の前方から、黒い服の男が全速力で駆け抜けていく。


「そうこなくっちゃな」


 ロスタは目をガッと開き、男を追いかけ始めた。


「やっぱりよお、ヒーローらしい事してえよなぁ!」

「んん?何かあったか?」

「ああ、ボヤ騒ぎだ……っておい、待て!」

「何あったんだよ?」

「ブラドめ、ひったくりを追い始めたぞ!」


 通話しながらロスタを追いかけるドライ。

 当のロスタは街角を曲がり、ひったくり犯を追う。


「ひっひっひっ、緊急依頼ってか!頑張れよ先輩!」

「クッ、あいつめ……!」

「待てよクソ野郎がァ!!」


 暗殺者(ヒーロー)強盗犯(ヴィラン)、騒がしい夜が始まる。

イカれた登場人物紹介⑤スモーク

見た目だけは良いヘビースモーカーのオッサンだ!

胸の内には沢山の情報とニコチンがあるぞ!

癖が強くて面倒臭い男だ!

いつも絡まれてるドライが可哀想だね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ