第2話 ヒーロー
人間と魔女の二種族が存在する世界。
ある繁華街の風俗店で働く男、ロスタはある日、悪漢達の恨みを買い傷を負ってしてしまう。手負いの彼は、魔女の老婆ユウロと出会う。彼女に半ば恫喝に近い形で、自身を彼の肉体に住まわせる契約を迫られる。彼は嬉々として契約を交わし、自身の右腕にユウロの魂を住まわせたのであった。
気付けば夜が開けようとしている。
この時間に出歩く者といえば、早朝から出勤している社会人か、道路で眠る飲みすぎた客。
ロスタはそんな人通りの少ない道を歩く。
「つか、これなんなの?この変な模様」
彼が魔女ユウロと融合した後。ユウロが住まう右腕、その手甲部には、心臓と血液を模した紋章が刻まれている。
『それは魔女の刻印だな』
「うわびっくりした。いきなり出んなよな」
ロスタはユウロと融合した右腕の掌と向き合う。肉体こそ消失しているが、こうして彼女との会話は可能だ。
『魔女の刻印……魔女の力の核となる印だ。そこを潰される事は、魔女にとって死と同義じゃな』
「死ぬって事?」
『正確に言えば魔法が使えなくなる。加えて魔女が持ちうる肉体の再生能力も低下する。魔女は心臓を潰されたとて死にはせん。時間さえあれば再生するからのう。だが、魔女の刻印に至っては別だ。再生も間に合わず魔法も使えず……死そのものよ』
「なるほどねえ。で、あれ教えてくれよ。血ィ止めるヤツ」
『ふ、傷一つ無い肉体にか?』
「いざって時使えないと不便じゃん、いいだろ?」
『そなた……儂が人命救助の為に力を得たとでも?』
「は?」
次々と放たれる会話に理解が追いついていないロスタ。
『儂はユウロ、【血の魔女】じゃ。儂の力は血の操作。ヒトを殺める事に特化しておる』
「『血の魔女』?」
『魔女は皆、己が扱う魔法の名前を冠するのじゃよ。炎を操る者は「炎の魔女」、というようにな。魔女とて全く系統の違う魔法を複数操る事はできぬからの』
「ふーん。血の魔女ねぇ。強いの?」
『儂は高位の魔女じゃ。そこらの魔法使いの人間とは比べ物にならぬよ。そなたは幸運じゃよ、儂と組めたのだからな。さぞ長生きするだろう』
「けっ、俺を嵌めようとしてたくせによく言うぜ。まぁせいぜい上手くやらせて貰うよ」
『ふふふ、そなたのような若人、簡単には死なせんよ』
一人呟くロスタは、ボロボロの自宅に向かった。
日が沈み、街が夜の営みへと入っていく時間帯。ロスタは今日も、雑用や接客に勤しんでいる。
「お疲れ様です、ロスタさん」
「お、お疲れベティちゃん」
包帯を巻いた右腕を上げるロスタ。
「腕、大丈夫ですか?怪我したと聞きましたが」
「あー、ちょっと道でコケてさ。大丈夫だよ」
包帯の下には魔女の刻印がある。魔女である事を証明する印である為、人に見せられるものではない。
「そうですか、良かったです……あの、これ」
ベティは左手を差し出す。手に握られた紙切れをロスタに渡した。
「ベティ君、出番だよ」
「はい、今行きます」
店長の呼び声に、駆け足で向かうベティ。去り際、人差し指を口元に当て恥ずかしそうに微笑み去っていく。
ロスタは紙切れを開く。
【今日の仕事終わったら、一緒にどうですか?店の裏口で待ってます】
ロスタは思考が停止した。
(は……何あれ。可愛過ぎだろ。死ぬだろアレ。死ぬぞ俺。昇天すんぞ。どうしてくれんだよベティちゃん!!!!!!)
「ロスタ、こっち手ぇ少ねえから手伝ってくれ」
「へい!!」
「うおびっくりした」
ロスタは俄然やる気が湧き上がっていた。
(ベティちゃんとデート……ベティちゃんとデート……ベティちゃんとデート!!)
その日のロスタの働きは、目を見張るものがあったという。
閉店後、ロスタは裏口で時が経つの待つ。
(デート……デート……)
そわそわと落ち着かない足取りで、約束の時間を待つ。
しかし、どれだけ時間が経とうともベティが来る様子は無い。
(ベティちゃん……遅いな)
心配になったロスタは、店を探し回る。ホール、休憩室、店の周辺を捜索する。
(後は店長の部屋だけか……)
店長に呼び出されている。理由としては妥当なものだが、それにしても時間が経ちすぎている。扉に近付いた途端、中から物音が聞こえる。
ロスタは恐る恐る扉に耳を押し当てる。
(この声、ベティちゃんだ……店長と先輩の声も……)
断続的に聞こえる「やめて」「ごめんなさい」といった声……悲鳴にも近い。
扉には鍵がかかっていない。そっとそれを開けると、そこにはベティと店長、そしてロスタの先輩。
ベティは明確な拒否の声を上げ藻掻いている。胸を掴まれ、腕を掴まれ自由を奪われている。
それをニヤニヤと見つめる先輩。
ロスタは怒りが爆発した。僅かに開けていた扉を思い切り蹴り飛ばした。
「あ……すんません。ついうっかり。で、何してんすか」
「ロスタさん……!」
平然を装ってるが、その表情は憤怒に満ち溢れている。
「ロスタ……お前帰ったんじゃ」
「ベティちゃん、離して下さいよ」
ベティの服は仕事用の露出の高い服のままだ。服が不自然にはだけ、両腕には抵抗した後がある。
「お前は関係ねえ。さっさと帰れ」
「嫌っす。ベティちゃんを離して下さい」
先輩達の鋭い視線にも怯まず、睨み返す。
「はー……。大体な。俺達だって無理矢理こんなことしてる訳じゃねんだよ」
「……」
「こいつ、店の金横領しようとしてたんだぜ? ホステスの誰かがチクったんだろうな。こいつの家が貧乏なのは知ってるが、横領はねえだろうよ」
「なら給料でも上げればいいじゃないすか。なんで嫌がってんのに触ってんすか」
「給料って、わかってねえなお前も……。で、それを問い詰めてた訳。本来ならクビでもいいんだが……それは嫌だってよ、つくづく仕事熱心な女だ。だから迷惑料払って貰ってんだよ……体で」
「ベティちゃん……マジなの?」
彼女は俯きながら、首を縦に振る。今にも泣き出しそうな顔つきだ。
「つーか、それって弱みにつけこんで好き放題してるだけでしょう。嫌だっつってるじゃないすか!」
「あーごちゃごちゃうるせえ野郎だな! てめえは関係ないっつってんだろうがよ阿呆が!」
「あ……?」
ますます怒りが増していくロスタ。今にも殴りかかりそうな勢いだ。そこに店長が仲裁に入る。
「まあまあ二人とも落ち着きなさい。これは彼女との妥協点だよ。店としてもあまり大事にしたくないし、彼女だって逮捕されるのは嫌だろう。勿論横領は良くないし、普通なら警察に言うべきだ。だが、一時の過ちに対する代償としてはあまりに重すぎる。だからこういう手を選んだんだよ。こんな行為はあまりしたくないがね」
「だからベティちゃんの体を? ふざけんのも大概にしろよ! 先輩達、無理矢理同意させて触ってんだろその汚い手で! 弱み掴んで言い逃れ出来なくさせて、ちっともベティちゃんに寄り添わねえ、自分本意のクソ共が!」
「おいてめえ!」
「口弁えろ!」
「舐めてんのか!」
雄々しい怒号がうるさく響く。その言葉を全て無視して、ベティの細い手を掴む。
「行こう、ベティちゃん」
「おい待てや!」
二人に向けて伸ばされる手。それが届く前に、強引に扉を塞いだ。暫く距離を置いたが、追ってくる様子は無かった。
「大丈夫だった?」
「その、何とか」
店を出る二人。話し合える場所を探した結果、ロスタの自宅へと向かった。狭い間取りと散らかった部屋、都会にしては家賃が安い古いアパートだ。
「ごめんなさい……あなたを巻き込んでしまって……私!」
「う、泣かないで」
床に座り込み、泣き崩れるベティ。
「気の迷いだった……どうしてもお金が足りなくて、店のレジを見たら、魔が差して……。もうこれ以上借金は出来ないし、貯金もゼロだから……ああするしかないって思って……!」
「ベティちゃん……大丈夫、俺がいる」
何が大丈夫なのか、ロスタ自身も理解していなかった。が、彼女を安心させる為に浮かんだ言葉が「大丈夫」だった。その言葉を証明するように、彼女をそっと抱きしめる。
「仕事も辞められない、誰にも頼れない、もうどうしたら」
「俺がいるよ……ベティちゃん!だからもう!」
ロスタは何も発する事無く、ただただ強く抱きしめた。
泣き続ける彼女を、ただ強く。
「ごめんなさい、子どもみたいに泣いちゃいました……」
「いいよいいよ、気にしないで」
落ち着いたベティは、ロスタと暫し談笑していた。
「これからどうするかな、俺クビかも」
「私もどうなるか……」
「ま、その辺はどうにでもなるだろ。また就職先探せばいいよ……それよりさ、さっきのアレ……」
「アレ?」
「誰も頼れないってやつ」
「ああ……私、嫌われてますから。皆から」
「ホステスの人達?」
「はい。昔からそうでした。あんまり他の皆とは馴染めなくて。それがおかしいんでしょうね。よく陰口言われてます」
「そうなの?気が付かなかった……」
「たまにですが嫌がらせなんかも……それでも働くしかないんです。お金とか生活の為に」
「真面目だなあ……」
「でも、ちょっとすうっとしました。あなたにこれを話せたから」
「そっか、良かった」
彼女はやっと安心したような笑みを見せた。ロスタは胸を撫で下ろした。
「……ちょっと、変な話していいですか?」
「何?」
「ロスタさんを見てると……昔見てたアニメのキャラクターを思い出すんです。赤い髪のヒーローを」
「ヒーロー?」
「はい。私、そのヒーローが大好きで。今はもう見てませんが、たまに見てみたくなります。そのヒーローが、その……ロスタさんに似てるというか」
「ははっ、ヒーローか。俺はヒーローなんかじゃないと思うけどな」
「けど、あそこで助けて貰わなかったら。こうやって話せなかったです」
「そっか……じゃ、ドア蹴っぽって良かったのかな」
「そうですね、ちょっとびっくりしましたけど」
「あんな光景みたらつい……」
「体が動いた、ですか?」
「うん」
「ふふ、やっぱりヒーローですよ」
「ヒーローねえ。なんか照れくせえや」
赤面しながらロスタは微笑んでいた。彼女と過ごす僅かな時間を、目一杯に楽しんでいた。
夜が深まったままの時間帯。もう数時間で夜が開ける頃。ベティは彼の家を出ようとしていた。
「それじゃ、私は行きますね」
「外暗いけど大丈夫?送ってくか?」
「いえ、申し訳ないので……私はこれで」
「うん、それじゃ!」
ベティを送り出した後、ロスタはベッドに転がり落ちる。
(ベティちゃん……とりあえず安心してくれたみたいだな……でも俺、クビになるかもな)
そんな心配をよそに、睡魔は襲ってくる。
(あー、とりあえず寝よ……)
目を閉じる彼。暫く静観していたユウロが口を開く。
『ふっ、大切な女の為に楯突くとは。若いとはいいのう』
「あんたか……もう眠いから寝るぞ俺」
『その選択に迷いはないか?』
「迷い?……別にねえよ。俺がそうしたかったんだから」
『儂はあくまで肉体の一部。主であるお前には楯突くつもりは無いとも』
「とかいってどっかで裏切んなよ?」
『儂は生き残るつもりでそなたに寄生した。それから外れるような事はしないつもりだが』
「へいへい、俺は寝ますよ。主は俺だからな」
一分も経たず眠りにつくロスタ。寝息を立てる彼に、ふとユウロは呟いた。
『お前の生き様、楽しませて貰おうぞ』
翌日、何事も無かったように出勤するロスタ。ボーイの先輩達も、何も咎める事無く業務を進めた。ベティは昨日と同様の方法で、ロスタに紙切れを渡す。
【今日こそ一緒に行きましょう。昨日と同じ場所で】
(よし今日こそデート、今日こそデート!)
そして、退勤時間。凄まじい速さで帰り支度を済ませたロスタは、屋根の下でベティを待つ。
しかし、ベティが訪れる様子は一切無い。
仕方なく店を探す彼だが、彼女の姿は一切見受けられない。
(いないなベティちゃん、ってか臭えな。先輩またドラッグかよ……)
最近だと店内でもドラッグを吸うようになっているロスタの先輩達。最近では気が抜けていたり、急に怒り出す行為も見受けられている。
店の裏口がある場所よりも、さらに奥の敷地。違法物の臭いに耐えながら進むと、薬品とは違う別の臭気が彼の鼻を突く。
「なんだこの臭い……血?」
血なまぐさい臭いを、無意識に辿る彼。最悪のビジョンが浮かび上がる。
ベティ。行方不明。約束。
(そんなわけない、そんなわけない!)
必死に想像を振り払って進んだ先。
そこにはベティの姿があった。
コンクリートに倒れ、血を流す彼女の姿。
血溜まりが出来、その一部は黒い地面に染み込んでいる。
彼は何も考えずに飛び出した。
「嘘でしょ……ベティ、ちゃん?」
彼女の体をそっと抱き抱えるロスタ。その肉体はまだ熱を持っているが、尋常ではない量の血液で全身が紅く染まっている。心臓から刃物を引き抜いたような傷跡がある。
「ロスタ……さ……ごめん……なさ、い……!」
「嘘だよな、こんなの。死ぬじゃんか」
現実を受け入れようとしない彼。手がガタガタと震え出し、手背が鮮血に染まる。
「わた……し」
懸命に伸ばされた手。小さな指先が彼の震える頬に触れようとした時、力尽きたように落下した。
「おい、ベティちゃん……ベティちゃん!」
何度も叫ぶロスタ。
その声はどこまでも夜闇に溶けていく。
彼女に届いてるかすら、分からない叫び。
「あーあー、見つかったわ」
ロスタの先輩達と店長が現れる。その目は血走っており、どこか焦点が合っていない。
「てめえらか……ベティちゃんを殺したのはてめえらか!」
「あーはいはいそうですよ。こいつウザかったし」
手に掴んでいるのは、血塗れになった包丁。
「借金払わねえわ体売らねえわ。嫌だのなんだのうるせんだよ」
「そーそー、せめてビデオでも良いってのに。それも嫌ですってよ」
「女のくせによく言うぜ」
「わたくし達でどうにか処理するつもりが、邪魔が入ったね」
「ま、ここで殺せば良いだろ。というわけでじゃあな、死ねロスタ」
刃先をロスタに向け、突進して来る先輩。
「グッ!」
既のところで回避したロスタだが、刃が腹に小さな切り傷を入れた。
「チッ、さっさと死ねっての」
「クソ、マジで殺す気かよ!」
眼球が不自然に上を向いた先輩達と店長。ギリギリ白目を剥いていないような目、半開きの口、返り血を浴びた服。
「やっぱり、てめえが!」
「はいそうでーす。金ねえくせにプライドだけは高ぇ、あんな女は生きてる価値無しだよ」
ロスタの目がカッと開く。燃え上がる憤怒が眼球に宿る。
「許さねえ」
「あ?」
「なんで真面目に頑張ってるベティちゃんが殺されて、てめえら見てえなゴミクズがのうのうと生きてやがるんだ……てめえら、マジで許さねえぞ!」
ファイティングポーズを取り、狂った男達を前に立ち向かうロスタ。
「はー、やってみろよ……その前に、死ぬけどな!」
再度刃を向けて突進する男。
その場で回避するも、すぐに包丁を振り上げロスタの頭部目掛けて振り下ろす。
(ヤバい……殺られる!)
腕でどうにか守ろうとした瞬間。
『ふふっ、やはりそなたは面白い。ここで死ぬには早すぎるな』
ガキン、と金属同士がぶつかる音がした。
その刹那、刃が空を舞う。包丁の刃が折れてしまい、殺傷能力を失う。
「何だ!?」
困惑する男達。
ロスタの右腕は、異形へと変化していた。
まるで赤い触手を腕に何重にも巻き付けたような。
まるで細長い大砲のような。
彼の左腕より少し太く長い、紅の銃器へと変化した。
『これが儂の力よ。せいぜい上手くやるといい』
ロスタは、歯を見せてニヤリと笑う。激怒から、愉悦へと変わる。
「ありがとよ婆さん……好きなだけ殺らせてもらうぜェ!!」
彼はその右腕の武器を、刃の抜けた包丁を持った男へと向けた。
「吹っ飛べええええ!!!」
その砲門から、紅き砲弾が放たれる。
男はその様子を眺めることしか出来ず。
生臭い音と共に、彼の身体は木っ端微塵に砕け散った。破裂音と、液体が飛沫を上げる音。
周囲に掌サイズの肉片と砕けた骨骨、形がちぎれた腸。何リットルもの血液が吹き飛び、ぐちゃりぐちゃりとコンクリートや街の壁に落ちていく。
「さあ、次はどいつだァ!?」
「ひっ……」
恐怖で立てなくなる男達。
いつの間にか眼球が元に戻っているが、彼は気にする事無く砲撃を続ける。
「どんどん殺るぜ……覚悟しろよゴミ共!!」
逃げる者、その場に蹲る者。許しを乞う者。
人殺しの狂人達を、容赦なく撃ち抜いていくロスタ。
撃つ度に残酷な死体が残る。
肉片と鮮血に塗れる街。
度重なる惨殺により、周囲は生々しい血の色で染まっていく。
「最後はてめえか……!」
「す、すまなかった……あの時はどうかしてたんだ!変なヤクを吸っちまって、普段なら俺は!」
「知らねえよクソ野郎!てめえも同じだ!ヤク中のクズが……人殺しといて殺さないで下さいなんて言うんじゃねえぞ!」
「許して……もう許して……!」
「クククッ、てめえぶっ殺せば俺ァもう退職だ、こんなクソ風俗店ともおさらばだなァ!」
「ひえっ……!」
「そんじゃあ死ねええええ!!」
「ごめんなさ……」
最後の一撃が、彼の肉体を粉砕した。
血みどろのロスタは、凄まじい勢いで笑い狂う。
「ありがとよう先輩ッ!これで、俺ァ自由だぜェッ!ククク……ヒャアッハッハッハッハッ!!!」
夜に響き消えていく、狂喜の叫び。
魔女の力を得たロスタは、もはや誰にも止められぬ勢いだった。
『何を叫んでおるロスタ。早く立ち去るのじゃ』
「あー、ちょっと待って」
彼は突如冷静を取り戻し、絶命したベティの元へ歩く。ハンカチで血液を拭き取り、彼女の遺体を抱き抱える。
「なあユウロ。ベティちゃんの傷口塞いだら生きて帰れたか?」
『無理じゃろうな。そなたが発見した時点で絶え絶えの息。助かる手段など無い』
「そっか」
彼女の髪。クリーム色の柔らかい髪にそっと触れるロスタ。
彼の目は、どこか儚げで迷いを見せる目だ。
「ベティちゃん。色々片付いたらあんたの墓参りに行くよ」
『聞こえておらんだろう』
「……そうだよな」
気づいた頃には、付近に警察のサイレンが鳴り響く。
『来るぞ』
「わかってるよ……ベティちゃん、俺の事許さなくていいからね。それじゃ……さよなら!」
ロスタは闇夜に逃げ去って行く。
その日、一人の殺人鬼が世に放たれた。
「……あいつ、価値があるな。殺すよりも良い価値が」
一人のスーツの男が、殺害現場に訪れる。
彼の眼鏡に映る、血の海と女性の遺体。
「離れて!危険だから!」
そう言われ、大人しく立ち去る男。暗い街並みを一人歩く。
「やはり、彼の力は……」
その日、新たな「ヒーロー」が生まれようとしていた。
イカれた登場人物紹介②ベティ
優しくて真面目な夜の街で働く女性!
タバコもドラッグも殺しもしない!酒は仕事だけ呑む!
ロスタの人生を大きく転換させた人物だ!
次の世界ではどうかハートフルな人生になりますように!