第10話 銃とナイフ
順調にアジトを制圧するロスタ達だったが、構成員の反撃に遭い、目的であった薬物を奪えず逃走を許してしまう。
ロスタ、ナイトは薬物を取り返すべく。
ドライ、リップ、レオンは構成員を撃退すべく、ギャング襲撃の後半戦へと身を投じた。
ブラドとナイト。二人のヒーローは、ジュラルミンケースを担いで逃げる男を追う。
早朝ともあって、外を出歩く者は少ない。邪魔をする者も居なければ、彼を引き止める者もいない。
「あ、やべえ、車乗ったぞ!」
男は黒い高級車へと乗り込み、公道を抜けていく。間もなく、ナイトが貧相なバイクに跨って現れる。
「ブラド、乗って!」
「お、助かるぜナイト!バイクあったのか」
「パクってきたわ」
「盗んだのかよ!」
「別にいいわよあんな安バイク。あんなとこに路駐してんのが悪いの!」
「ヒュ、お前もなかなかだな!」
朝の道路は車通りも少なく、広い車間距離を取るトレーラーやワゴン車の間を、二人乗りバイクが駆け抜ける。
「おい、あれじゃねえか?」
目の前に現れる高級車。明らかに法定速度を超えた走りを見せている。
「追うよ、掴まってて!」
「うお、やべえ落ちる!」
ナイトの肩に掴まり、膝でバイクの車体を挟むロスタ。腕を本来の形に戻し、全身に風を浴びながら進む。
ナイトはアクセルをグッと握り、さらにスピードを上げていく。敵も追手が来た事に気付いたのか、速度を上げる。
「なぁ、どうやって捕まえるよあいつ? 殺していいか?」
「いいだろうけど。目的の薬、車ごと消えるよ」
ううう、と唸った後、ロスタは急に声を上げる。
「……いい事思いついた。ナイト、ピストルとか持ってるか?」
「一応持ってるけど……」
「そうか、なら車にギリギリまで近付いて」
「うん」
「銃を構えて」
「そうね」
「車ぶんどって」
「そうそう……え」
「車ごとヤクを奪うぞ!」
「いやいや。そこまで思いつくのに、なんでタイヤを撃とうって来ないのよ……」
「あ、そうすりゃいいのか」
ロスタは口をあんぐりと開け納得の表情を見せた。ナイトは呆れ顔のままバイクを走らせる。
「あと、ピストルは要らないぜ。俺がぶち抜く!」
彼は右腕を変貌させる。ナイトの肩に掴まりつつ、砲門は車へと向ける。
「いい感じに近付いたらドカンだ、タイヤだけぶち抜いてやるぜ。この日の為に威力抑える練習だってしてきたんだからな!」
彼女はふっ、と声を出さずに笑う。
「じゃあ、お願いね!」
一方、ドライ達は迫り来るギャングの下っ端達と交戦していた。
突入時に殺害した男の死体を光鞭で括り付け、入口に吊り下げる。たらたらと血の雫が流れ落ち、床に小さな血溜まりを作っている。加えて入口で倒れる仲間に、床に開けた大穴。部屋に入ることすら一苦労だ。
「クズが!」
「この悪魔め……!」
「殺せえ!」
暖簾をくぐるように吊り下げた死体を超えるが、その先に居るのは銃を構えたレオンとリップ。突っ込んだ先には、新たな死体が積み重なる。
「君もエグいことするね……」
「俺なりに最善を尽くしただけだ。それに、長くは持たん。いつまでも防げはしない」
「十分だ」
リップは銃弾が尽きると、死体の中から銃を取り出し、残弾を確認して装備する。
「一旦こいつら下ろすぞ、敵に警戒してくれ」
魔法の長時間使用は、早期に発動限界を起こしてしまう。それを考慮し、一旦死体を床に落とす。
「うおおおお!」
「……敵か」
三人のギャングが入り込む。入口の死体達に一瞬怯みつつも、果敢に攻め込む。その中の一人が先陣を切る。
「ぶっ殺……ッ!?」
小柄な肉体は呆気なくリップの巨体に捕まり、後頭部を鷲掴みにされる。その肉体を盾にし、飛び交う銃弾を防いでいく。
「な……死んでねえ!?」
「クソ、化け物が!」
銃撃を受けた筈の身体からは血ひとつ流れていない。被弾痕はあれど、全くの無傷だ。
「もう……要らん」
仲間を目の前に、銃を撃てずにいる下っ端達。そんな男の群れに、リップは男の肉体を豪快に投げ付けた。突然の肉の塊を避ける暇もなく、直撃して倒れ込む。
「ザン」
遅効の魔法が発動。本来受けていた銃弾のダメージが遅れて発現し、心臓部と脇腹から溢れる鮮血。ギャング達の服を赤黒く染める。
「ギャアッ!?」
「ヒィッ……!?」
「ひいい、すみませんすみません! もう悪さしません!」
必死に許しを乞う男二人。リップは鉛のように重い声で告げる。
「……貴様がもう悪さをしない、という保証は何処にある」
「ひっ……」
「一度この道に踏み入れた者は……二度と更生出来ん。死を以て償え」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
「その言葉は……貴様の悪行で苦しんだ者へ向けろ」
「ごめん……なさ……」
残った者達も後を追わせるように絶命させた。
拳銃を降ろし、三人は一呼吸おき、さらなる敵襲に備える。その姿勢に応えるかのように、二名のギャングが現れる。
「おいおい派手にやってくれたな、ヒーローさんよォ!」
「まずい!」
その男はミニガンを構え、銃口を向ける。ドライはその銃撃から全速力で逃げ回り、机へと体を隠した。彼の背中の擦れ擦れを銃弾が飛び、木屑が舞い上がる。けたたましい銃声が鳴り響き、アジトの壁に無数の弾痕を遺していく。
「ギャハハハッ、ぶっ殺してやるぜェ!!」
「ッ、イカれてやがる……」
リップ、レオンも柱の影に隠れ、銃撃をやり過ごす。砂埃が舞う。
「隠れてねえで出てこいよ……ゲイル!」
「アイヨ!」
ミニガン男の背後から現れる、半裸の男。ドライが隠れた机目掛けて突進する。
「死ねえ!」
「ッ!」
ゲイルと呼ばれた男は右手に構えたナイフを一瞬で振り下ろす。ドライは咄嗟に立ち上がり後方に下がる。その一振りでスーツのボタンが切り裂かれるも、直撃は免れた。
「俺はなぁ、下っ端とは違う。時期ボス候補……ここでてめえの首取りゃ、晴れて出世ってわけだ!」
振り下ろされた一撃を、ドライは腕を押さえて止める。震える両者の腕。ナイフの先端がスーツの繊維を裂いていく。皮膚に届く寸前、彼は更に二歩引き下がる。
「ヒーローなんてクソだせえ仕事ももう終わりだよ、へっへっへっへ……」
「ドライ!」
「させるかよ!」
手助けに回ろうとしたレオンとリップに、増援の一人が迫る。
「キリが無いな」
「がっ、なんだこの糸は!?」
ドライは入口に括り付けた光鞭を伸ばし、扉を封鎖する。ギャング達は各々刃物を取り出し、光鞭を引き裂こうとする。
「畜生……おい、開けろ!」
「ナイフ程度では千切る事は出来んぞ……さて」
「イヒヒヒッ……」
ゲイルはナイフを順手に持ち替え、先端を突き出すように構える。殺気の篭った瞳で、口角をニヤリと引き上げた。
「殺してやるぜえええッ!」
ゲイルはナイフの先端を突き出し、一気に迫る。ドライは足を一歩下げ攻撃を避けるも、追撃は続く。1メートル程の距離を開け、斬撃を避ける事に集中する。
「おいおい、ビビってんのかァ? 」
「チッ……」
「さっさと死ねや。俺の出世に役立ってくれよ……」
「そんなに出世したいか……外道が」
「外道? そうさ、俺が外道だよ、てめえらが大嫌いな社会の屑さ!」
ゲイルは奇怪な目でナイフを舐め回す。
「人を殺すのは最高に気持ちが良いぜぇ……なぁ、わかるだろ!」
「知らん。貴様とは訳が違う」
「てめえも人殺して食ってんだろ、なぁ、正義のヒーローさぁん?」
「反吐が出る」
「ああ……そうかい!」
ゲイルの挑発をものともしないドライ。諦めたのか、素直にナイフを突き立てて突撃、それを間一髪で回避する。
(タイミングを見極めろ……充分な時間が取れた隙に……ッ!?)
再度突撃したかと思えば、ナイフを握らずに両手を広げながら距離を詰め、ドライに覆い被さる。ドライは姿勢を崩し、その場に仰向けになる。
「死ん……ぢまえぇ!!」
「クソ……が……」
ナイフの先端が顔の表面から数センチ程の所で止まる。ゲイルの右手首を掴み、ナイフが突き刺さる寸前で受け止める。両者眼を大きく見開き、手を震わせている。
刃先が肌を掠めようとした瞬間、ドライはゲイルの膝を蹴り、続けて膝を曲げ下腹部を突き上げるように蹴り飛ばす。蹴られた衝撃で怯んだ隙に脱出、再び二名が睨み合う体制へと戻る。
(使える鞭はあと二本……今しかあるまい)
ドライは腰に手を回し、膝を曲げ姿勢を落とす。その刹那、ゲイルはナイフを突き立て突撃する。その攻撃を往なし、左に一歩下がる。ゲイルが体制を整えた途端。
「うおっ!?」
ゲイルの視界が突如遮られた。彼の頭部には大きな布が被せられている。急な暗闇に狼狽える男。
(スーツを……脱ぎやがった!?)
「ふん、消えろ」
ドライはスーツを脱ぎ捨て、ゲイルの視界を遮るように被せていた。即座に脱げるよう、袖に裂け目が入っている。光鞭を駆使し、隠れて引き裂いていたのである。
ドライはその隙を見逃さず、腰に巻いたガンホルダーから拳銃を取り出す。露出した上半身に、容赦なく銃弾を撃ち込んだ。
「ううぐっ……あっ……!」
「くたばれ」
ゲイルは撃たれた腹を抑え、蹲る。痛みに悶え、落としたナイフを蹴り飛ばした。
「ふざけんな……下衆共がァ!!」
激昂した男はミニガンを手にし、無闇矢鱈に発砲する。網目状に張り巡らせた鞭の隙間を縫い、弾丸が打ち出される。乾いた機銃の音が激しく鳴り響く。まるで爆発音のような轟音。
ドライはゲイルの身体を持ち上げ、肉の壁にし防御する。血液が噴出し、肉片が飛び散り、肢体がぐちゃぐちゃに変形する。ドライはその人間だったものを手放し、再度机へと身を隠した。
レオンは交戦中の相手を蹴り飛ばし、その反動で柱の影に隠れる。瞬間その相手は身体に無数の穴を開け、人間の形を失い、血溜まりを作った。
「出てこい……殺す、殺すッ!!」
ミニガンの男は血走った目で怒り、激しく啖呵を切る。全身から汗を垂れ流し、息を切らしている。
「おいお前ら! 撃ち殺せ!」
下っ端数人が現れ、光鞭から銃を向け、発砲の用意を整える。
「その必要は無い」
「ああ!?」
低く冷徹な男の声が、天井から鳴る。その瞬間、天井が突如崩壊。男達が下敷きになっていく。どうにかミニガン男は巻き添えを喰らわなかったが、ほぼ全滅状態だ。
「んだとっ!?」
「死ね」
天井から現れたのはリップだった。知らぬ間に登り、破壊していたのである。
「クソ……!」
「無駄だ」
ミニガン男は応戦しようとリップの方を向き、銃を持ち上げようとした。しかし、リップが銃を踏んでおり、持ち上げる事すら叶わない。彼はミニガンを登り、大きく飛び上がる。手に持った鉈を振り上げ、その男の首元へと振りかざした。
ドスリ、と鈍い金属音。
ミニガン男の首は正確に切り落とされ、頭部が宙を舞う。赤黒い血を噴出し、周囲を赤く穢す。噎せ返るような生々しい匂い。リップは仮面の奥で、ただ静かに男を見つめる。
その瞳に慈悲は無い。
イカれた登場人物紹介⑧リップ
屈強、無口、無骨なオッサン!
いかにも人殺しみたいな仮面を付けているぞ!
攻撃を遅らせられるけど、残念ながら老化は抑えられない!
頑張れオッサン!腰痛はすぐそこまで来てるぞ!




