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祓妖のロス・ロボス  作者: ちゃぶ台
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第3話 神の一族

ナツキの大躍進に場内は一時騒然となりましたが、残りの5名は安定の成績優秀者ばかりです。


簡単に、上位5名を紹介しましょう。



七星の五:カスミ・シュナイダー 

エ・ドゥ帝国の同盟国であるゲルマ帝国人の父と邦人の母とのハーフです。

魔法の成績はもちろんですが、数々の研究で早くからその名を学会に轟かせた天才です。

彼女には白蛇の羽織とミスリル製の魔導銃が贈られました。


七星の四:ジン・サナダ 

彼は「忍術」と呼ばれる古流魔術を駆使した独特の武術に長け、近接戦闘も遠距離戦闘も非常に高いレベルでこなせる屈強な戦士です。

彼には虎の羽織とオリハルコン製の小太刀が贈られました。



七星の三:ホムラ・コンドウ 

火炎属性魔法の使い手で、その灼熱の炎は相手を寄せつける間もなく焼き尽くすと言われています。少しアツすぎるところがありますが……

彼は金獅子の描かれた羽織と、魔力で特殊な加工を施された赤樫の柄にオリハルコン製の刃が美しい十文字槍を贈られたようです。


七星の二:ソウ・キョウゴク

すでに登場しているナツキの友人ですね。掴みどころのない彼ですが魔法と戦闘のスキルは本物です。

風属性を得意とする彼には金の大鷲が描かれた羽織と魔力を良く通すミスリル製のレイピアが贈られました。


七星の一:アオイ・トクガワ

その姓からも察することができるように、彼女の家系は旧幕府の将軍家です。

高潔で勤勉な彼女は最終試験において第一学院開校以来初となる全教科満点という成績を叩き出しました。

全校生徒、そして教職員からも一目置かれる当代の首席です。

闇を一掃する光属性の魔法を得意とする彼女には、神獣の長たる黄龍の描かれた羽織とオリハルコン製の太刀が贈られました。


こうして壇上に勢揃いした卒業生100名を背に、最後にアオイ・トクガワが総代の挨拶を読み上げると、講堂のいたるところから鼻をすする音が漏れたのでした。


こうして第20期の卒業式は無事に終了し、卒業生はこれから別室へと移動するところです。


「マミヤ君すごいじゃない!」

「おう、ナツキ!おめでとう!」

「わたしビックリして倒れるかと思ったわよ!」


講堂を出てすぐの廊下でナツキはクラスメートたちに囲まれました。


「サンキュー!あの学長(ハゲ)の恨めしそうな顔、俺は一生忘れねえ!」


ナツキはまんざらでもなさそうです。


「ナツキ君、おめでとう!」


そこへソウがやって来ました。


「ソウ……お前、直前で気づいてたろ?」


「まぁね!だって、アカツキ君が呼ばれたときステージの下に残っていた卒業生はナツキ君を入れてちょうど6人しかいなかったんだもん。ま、誰かさんは寝たフリなんかして周りが見えてなかったみたいだけどね!」


ソウはいたずらっぽくニヤリと笑うと、少しヤボ用があると言って先に行ってしまいました。


「キョウゴク君、御父様が来てるんですって」


式の途中で委員長と呼ばれていた女の子が言いました。


「んぁ?あぁ…俺、あいつの父ちゃん苦手なんだよなぁ…」


「ちょっと!なんて失礼なこと言うのよ!彼のお父様といったら内務大臣のキョウゴク卿よ!?」


委員長はナツキの発言が周りの耳に入っていないか確かめるように周囲をキョロキョロと見回し大慌てです。


これから卒業後の進路が決まる身としてはこんなところで印象を悪くするわけには行きませんよね。


………


そんなわけで卒業生一同は別室へと移動し、再び整列しています。


先ほどと違うところといえば、今回は彼らの眼前にいるのが学校関係者ではなく、ずらりと並べられた長机に座る数十人の外部の人間だというところくらいです。

 

軍部、政府からはかなりの大物も参加しているようです。


「これより各方面の人事責任者が諸君に登庸の指名を下さる。名前を呼ばれたものは速やかに前に出るように」


司会進行は教頭に変わって学年主任が務めるようです。


ちなみにこのイベント、学生たちの間では「収穫祭(ハーベスト)」なんて呼ばれています。最高の環境で育成してから各所で刈り取っていくことを揶揄した表現です。


成績下位の卒業生は民間企業数社から同時に指名を受けることがありますが、上位の学生が受けるオファーは1つです。


予め裏で話し合いが済んでいる、と言うわけです。


そのため上位の学生としては、出されたオファーを受けるか断るかしか選択肢がありません。

 

「1番、アオイ・トクガワ!」


「はい!」


学年主任に名前を呼ばれ、トクガワ氏が前に進み出ます。


当代の首席の進路はいかに!?というわけで、室内に緊張が走ります。


「お主、うちへ来ぬか。統合参謀本部配属じゃ」


そして、前方の長机の中心に座る軍の制帽をかぶった老人が立ち上がり、ゆっくりとサングラスを外しました。


「あれは……」


「国防大臣ゲンマ・トウドウ……天帝陛下から軍の指揮権を預かる元帥だね……当たり前だけどいきなりすごい人が出てきたや」


ナツキとソウは軍部のトップの登場に目を見開きました。


「トウドウ閣下、このお話、謹んでお受けさせていただきます」


「うむ。細かいことは後ほど書面で……では、ワシはこれにて」


それだけ言うとトウドウ元帥は部屋から退出してしまいました。


同時に卒業生たちの緊張もわずかに緩みます。


「あの人が、華國大戦の英雄……」

「すげぇ……俺、初めてトウドウ元帥見たよ……」

「俺もだよ……なんつーか、オーラがハンパなかったな……」


ナツキとソウの周りでもざわめきが起きていました。


「2番、ソウ・キョウゴク!」


「おっと、次は僕の番だね~」


ソウは特に物怖じする様子もなくいつもの調子でふわふわと前に進み出ました。


「君がキョウゴク君か、御父上にはいつも世話になっている」


立ち上がったのはスラリとした容姿の、少し垢抜けた感じのする男性です。元々細い目の上から掛けている、さらに細い眼鏡がキラリと光ります。


「そうですか…」


父親という言葉が出て、ソウの声が少し曇ったのをナツキは聞き漏らしませんでした。


「ハハハ、そう身構えなくても大丈夫。私は内務省の人間ではないよ」


男は続けます。


「私は外務省で大臣補佐官をしているフミヤ・ソガというものだ。キョウゴク君、私のところへ来ないかね?」


「ほんとですか!?はい!!よろしくお願いします!」


ソウは男性に一礼すると茶封筒を受け取り戻ってきました。


「良かったな、父ちゃんのとこじゃなくて」


「うん!しかも希望通りの外務省だし、ラッキー!」


その後、七星は順に名前を呼ばれていきそれぞれが軍や政府からスカウトを受けました。


そしてナツキの番……


「6番、ナツキ・マミヤ!」


「お!んじゃ行ってくらぁ!いや~どうせなら駄菓子屋に近いとこの勤務がいいな~」


「いや、七星が……」


そんな役どころに収まるわけ無いでしょうが……とソウが言おうとした時にはナツキは先の5人に倣って前に出ていました。


ものすごく堅物そうな、髪をビタッと七三分けにした男性が立ち上がりました。


ナツキは、少し表情を曇らせます。きっとこういうタイプの相手とは馬が合わないんですね。


「ナツキ・マミヤ君、私はくないち……」


男性が自分の所属を名乗ろうとしたときでした。


部屋の外がずいぶんと騒がしくなり、突然部屋の扉が外から開けられたのです。


「いや~、すっかり遅くなった!」


寝癖のついた髪があちこち重力に逆らって跳ねている、お世辞にも軍や政府の高官には見えない若い男がズカズカと室内に入り込んできます。


「ん?……おぉ!もしかしてドンピシャ?」


当然の乱入者に室内にどよめきが走ります。


そして長机に座っていた軍部・政府の高官はみんな目を飛び出させそうなほどに見開いて、一斉に立ち上がりました。


男はナツキの前までやってくるとナツキの肩や背中をペシペシと叩き始めました。


「うんうん、本物だ!」


男は何やら一人で納得している様子です。


「いや……そりゃ本物ですけど……」


ナツキは状況が飲み込めずにいるようです。


「うんうん、やっぱりいいね!君、ウチね!もちろんいいよね!?」


男はどうやらナツキのことをスカウトしに来たようです。


「え……ていうかアンタは誰っすか?」


とナツキからしたら当然の疑問を口にした瞬間、先ほどまでナツキをスカウトしようとしていた七三分けの男が怒声を上げました。


「き…貴様!な、な、な、何という不遜な態度か!!」


ナツキは真面目そうな彼が、目の前の乱入者を糾弾しているのだと思っているようです。


今度はナツキが眼前の寝グセ男の肩に手を置いて言いました。


「そうそう……割り込みはダメっすよ」


すると、七三の男は先ほどの比ではないほど声を張り上げ、顔を真っ赤にして絶叫しました。


「だぁーー!き、き、貴様だ!ナツキ・マミヤ!そ、そ、その御方をどなたと心得るか!?」


「御方?………俺?」


ナツキは改めて眼前の男の顔を見ますが、やはり見覚えはなく、首を傾げるばかりでした。


「アハ…アハハハ!タチバナ、そんなに怒らなくても僕は気にしちゃいないよ」


寝グセ男が七三の男をなだめます。


「で…ですが……」


タチバナと呼ばれた七三の男はまだ溜飲が下がらない様子です。


「まぁまぁ、僕の事を見てすぐに分かるのなんて君たちみたいな軍か政府の人間くらいだよ」


寝グセ男は言葉を続けます。


「やぁ、ナツキ・マミヤ君!僕の名前はアサヒ。一般的にはアサヒ・シエンと呼ばれてるんだけど……そこまで言えば分かるかな?」


寝グセ男の口にした「シエン」というワードを聞いて、それまで展開についていけず置き去りになっていた卒業生も、未だに起立していないままの大人たちも、そしてナツキも、皆が息を呑みました。


「シ…シエン…って……まさか……」


「お!分かってくれた!?ほら、この通り!」


寝グセ男は右手から小さな炎を出して見せました。それは明るい炎に闇が溶け込んだような紫の炎でした。


椅子に座っていた大人たちが一斉に起立し、卒業生たちも姿勢を正し、皆が胸に手を当てる敬礼の姿勢を取りました。


紫炎はエ・ドゥ帝国広しといえど、いやおそらくは世界広しといえど天帝の一族しか出すことのできないと言われる固有の炎魔法と言われています。


もちろん単に色が変わっているだけではありません。不思議なことに、水をかけてもフタをしても消えないのです。


それが長い歴史の中で不滅炎<きえずのほのお>と崇められるようになり、天帝の一族は国に恒久の安寧をもたらす現人神の一族として尊ばれるようになりました。


シエン家とは、つまりこの国の民からすれば神の家系というわけです。


「す、す、すんませんでした!!」


ナツキはアサヒの肩から素早く手をどけると、顔を青くしてその場に平伏しました。 


「アハハハ!いやいや、やめてよー!別に僕が天帝なわけじゃないんだし」


アサヒはナツキの謝罪をかぶせ気味に遮ると、頭を上げて再び立つように促しました。


「でさ、話を戻すんだけど……うち来てくれないかなー?前に手紙も送ってあったでしょ?」


アサヒは友達を家に呼ぶくらいの軽いノリで誘っていますが、ナツキはそんなわけに行きません。


「手紙……ですか?いや……」


「えー、ちょっとタチバナ!どういうことだい!?」


「い、いえ……殿下。手紙は確かに届けたはずです。ナツキ・マミヤ……最終試験のあの日、赤い封筒に入った手紙が貴様の部屋に置いてあっただろう?」


「赤い……手紙………………あ……そういえば……」


そうです。ナツキが開けもせず捨てたアレです。


「殿下!この通り、ちゃんと届けております!」


タチバナ氏が慌てふためいています。


「ふーん……で、読んでくれた?僕からのラブコール」


「い、いえ……それが…………すいません!喧嘩の果し状だと思って読まずに捨てました!」

 

「ぷっ……アハハハハ!そっかそっか、そりゃ仕方ない」


アサヒは目に涙を浮かべて爆笑しています。


「あ……あの……うちというのは、宮内庁と言うことっす……ですか?」


「違うよー!僕あそこ嫌いなんだよねー、堅苦しくて」


アサヒは横目でタチバナを見ています。


「は……はぁ……」


ナツキは目の前で宮内庁の文句を言う王族に戸惑います。


「で、殿下!あまり滅多なことを仰らないでくだされ……」


タチバナも慌てています。


「ごめんごめん、つい本音が……」


「殿下……」


「冗談だってば!で、配属の話だったね。君にはね……禁軍に来てほしいと思ってる」


アサヒの発言に部屋のあちこちでざわめきが起こった。


「禁軍、ですか?」


「そうそう!どうかな?」


禁軍というのは陸海軍とは違う枠組みにある天帝専属の精鋭軍と言われています。


噂では天帝の世界征服に向けて各国に散らばっているとか、敵国の要人を誅殺して回っているとかなんとか。


しかし、実際のところほとんど何も公になっていないのです。


「は……はぁ……でも、俺……警察官になりたいんですけど……」


一瞬の完全な沈黙……場が凍りつく、とはまさにこういうことを言うんですね。


そして、前方の大人たちからカチカチと続けて金属音が発せられました。


ナツキ本人は全く気づいてないですが、軍の関係者たちが一斉に軍刀の鯉口を切ったのです。


「貴様ぁぁぁ!殿下の直々のお誘いを断るなど……死ね!もう死ね!」


タチバナ氏は衝撃で我を失っているようです。


「タチバナ。彼が驚いてしまうだろ?ナツキ・マミヤ君、ごめんね?悪いようにはしないからさぁ~、ね?」


アサヒはそう言ってわざとらしく上目遣いでナツキに視線を送っています。


あるいは、本当にナツキに判断を委ねるつもりだったのかもしれませんが通例上、卒業生が出されたオファーを断ることはありません。


「……」


「……ふぅ、あの人に似て頑固だなぁ。じゃぁ、ちょっと切り口を変えよう」


アサヒは音もなくナツキの真横に移動し、耳元に口を近づけました。


「アスカ…アスカ・マミヤ。君のお母さんだね」


「なっ…!?」


自分にだけ聞こえるような小声で耳打ちされた母の名にナツキは息を呑みました。


「 あれは……ただの通り魔じゃ無いんだ。君も覚えてるでしょ?たとえ警察に入ったとしても絶対に真相にはたどり着けないよ?」


アサヒは呆然とするナツキに優しく笑みを見せました。


「アンタ……あ、すいません。シエン様のところ……禁軍なら真相がわかるん……ですか?」


「うん、僕たちはそのためにいる」


アサヒは即答で頷きました。


「……分かりました。じゃぁ、禁軍に入れてください」


ナツキはアサヒに深々と頭を下げました。


「お!やったー!じゃぁ来月また会おう、タチバナ、後のことはヨロシク!」

 

「ぎ、御意……」


そしてアサヒは鼻歌交じりで部屋から出ていったのでした。


その後はまた元の通りにスカウトが再開され、最後にシン・オオクボが諸星重工業という財閥企業から内定をもらうと、すぐに卒業生も大人たちも会場から退出しはじめました。


「ナツキ君……すごいことになったね……」


ソウが横から話しかけました。


「へへっ……ホントにな……」


「……ナツキ君の首が飛ぶんじゃないかと思って冷や汗かいたよ。あの辺にいた人たち、みんな凄い殺気だったの気づいてたでしょう?」


「あぁ……でも、それちょっとどころじゃなかったわ」


そんなことを話していると先に外に出たはずのタチバナ氏が部屋に戻ってきました。


「ナツキ・マミヤ……こちらが内定通知書と内定承諾書だ。承諾書は今書きなさい」


タチバナからペンを渡されたナツキはすぐに承諾書にサインします。


「先ほどは殿下がお怒りでなかったからよかったものの……あの様な無礼を次にはたらいた時はどうなるか、よく肝に命じておきなさい」


ナツキから承諾書を受け取ったタチバナは鋭い目つきでナツキを睨みつけると、またすぐに部屋の外へと出ていきました。


「ひえぇ……おっかねぇ」


「さっそく目を付けられちゃったみたいだね!ほんと、得意だよね!」


ソウはいつもの調子でナツキをからかうのでした。

 

………

…… 


そして学生生活最後の下校です。

二人は並んで正門を出ました。


ソウは、学校中の女子から制服のボタンをせがまれ(むしり取られ)、大変な姿になっています。


「ったく、少しくらい断るとかしねえのか」


「そんなの不公平じゃん?まさかワイシャツのボタンまで取られるとは思ってなかったけど………で、ナツキ君は配属までの2週間、どうするの?」


「あぁ、どうせ4月からカンサイ勤務みたいだし、明日にでも実家に帰るわ」


「そっか、実家はあっちだったね……じゃぁ次に会うのはお互い仕事し始めてからになるかな?」


「そうだな、速攻クビにならねえように頑張るわ」


「うん……それは頑張ってね……じゃ、また連絡するねー!」


二人はお互いに軽く手を上げて挨拶を交わすと、そのまま通りを左右別々の方向に歩いて別れたのでした。

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