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最優の劣等生  作者: みけねこ
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4 『限定品と女の子』

「裸の王様のライオスが、劣等生に敗けるとか、メシウマだな。」


「あいつ、いつも偉そうだったからいい気味だぜ。しかも、あいつのスキルって実はヘボスキルなんだぜ。」


「じゃあ、何であいつが学年一位の秀才なんて呼ばれていたんだ?」


「実はよー、ライオスのスキルがヘボいのを知った王様が、『王族のくせに弱いなどはありえん』とか言って、カンカンに怒りだして国中の優秀な魔法師を家庭教師に雇ってあいつを鍛えたらしいぜ。一日中魔法の修行と勉強をしてやっとあの実力らしいぜ。」


「それで、偉そうにしているって失笑ものだな。俺も鍛えたら、あいつよりも強くなったりして。」


「じゃあ、俺らも本気でやっちゃいますか?」


 眼鏡に黒髪のどこにでもいそうな情報通の学生と、茶髪に染めたクラスのお調子者は軽口を言いあう。


「ほー、いうじゃねぇか。そこまで言うんだったら相手になってやるよ。だが、殺されても文句は言うなよ。」

 唸るような低い声で二人の後ろから声を掛けるものがいた。

 二人が振り向くと、目の前には今しがたまで悪口を言っていたライオスがいた。


「「ひーーーーーー」」

 彼らは、自分が愚かなことを言っていたことに気付いていなかった。才能だろうと、努力だろうと、ライオスが学年一位の秀才であることには変わりなく、学校全体を見回してみても五本の指に入る実力者であることは紛れもない事実であった。

 彼らは既にライオンの口の中にいた。彼らに逃げ場はなかった。


 *

「しっかし、俺が強いと知ったから告白してくるとか、足の速い子を好きになる小学生かよ。」

 ユリウスは、この日、三人目となる告白してきた少女を、バカにしたような目で見送った。ユリウスがライオスの攻撃を寄せ付けなかったという噂は瞬く間に広がった。それによって、ユリウスに対する周りの見方は一変した。一八〇度変わったと言ってもいい。

 

 今までは覇気がないとみられていた淡々とした物言いすら、噂が広まった途端に、クールで知的だと言われる始末である。


「もうっ!そんなこと言わないのっ。きっと、ユリウスの姿が格好よかったんだよ。よかったじゃない。大体、今の子なんて学年で一番可愛いって呼ばれているんだよ。性格も恥ずかしがり屋で可愛いし、何が不満なの?」

「え⁉あの子可愛い?」

 ユリウスは、驚いたように姉であるヴィクトリアを見つめる。


「そうだよ。クラスの子達みーんな、『可愛い、あんな子と結婚したい』って言っているんだよ?」


「僕にはブサイクに見えるよ。」


「はあ。あんた、あの子がブサイクに見えるなら世の中の女の子全員ブサイクになっちゃうよ?我が義弟ながら心配ね」


 ユリウスの傲慢な物言いにヴィクトリアは呆れたようにため息をつく。


「だって、義姉ちゃんを毎日見ているんだから仕方ないだろ?」


 透き通るような瞳でヴィクトリアの方をチラッとみる。


「はいはい。分かったわよ。冗談は、もういいから早く帰りましょう!」


 ヴィクトリアは、その白い肌をほんのり朱に染めながら、義弟の瞳を払うように帰宅の途に着く。少しだけいつもよりも早いヴィクトリアの歩みに追いつくように、ユリウスもほんの少し急いで大好きな義姉を追いかけるのだった。


 *


 ヴィクトリアと、ユリウスが住む家は簡素な家だった。学校から、徒歩二〇分ほどにある住宅街—そういうには少々雑多な空気を含む裏路地のような場所だが—にある小ぢんまりとした煉瓦の家で、ものもあまりなかった。

 木とレンガでできた台所は、少し黒みがかって割れ目があったし、備え付けの暖炉は小さく、一メル四方のもので、とてもではないが家全体を温めることはできなかった。

 それでも、ユリウスは努力も怠らなかったために、(炎熱系の)魔法を使えたし、ヴィクトリアも生来の気性が生真面目だったために、魔法に関しては、ユリウス以上に使えるのだった。

 そのため、二人は快適に暮らしていた。


「ユリウス、おすわり。とりあえず反省の弁はあるかしら?」

 前述した状況にも関わらず、その家は現在、凍えるように寒くなり、水分を含んでいた木が凍り、それに伴い膨張した水の体積に、木が耐えられず割れていくのだった。


「あの、義姉ちゃん、台所がまた壊れるよ?」


 ユリウスは必死になって義姉をなだめようとするが、


「あら?ユリウスは私が悪いとでも言いたいのかしら?」


 むしろ、温度は更に低くなっていた。

「いや、もちろん、僕が全面的に悪かったよ。償いはするから許しておくれよ」

必死のユリウスの懇願も


「あなたは償えない罪がこの世にはあるということを知らないのかしら?」

 償えないほどの大罪を犯した義弟を可愛らしい瞳がにらむ。


「で、でも今回はただの()()()だろ?また、今度代わりのプリンを買ってくるから許してよ。」


「やっぱり、あなたは事の重大さが何も分かっていないわね。私の買ってきたプリンは、あの有名な天甘堂が地下鉄工事のセレモニーに伴い販売した卵を贅沢に四つも使った限定百個のプリンなのよ?それを、あなたは食べたのよ、分かっている?死ぬ前に言い残していることがあったら、お菓子の神様に代わって聞いてあげるわ。」


 我を失って自分の体温調整さへ忘れている彼女と自分を、炎熱系の魔法でこっそり暖めながら、プリン如きで家を壊しそうな彼女の怒りにユリウスは心の中でため息をつくのだった。


 ユリウスも風呂上がりに勝手にプリンを食べた自分が悪いというのは分かっているのだけれど、それでも、ここまで怒られると、愛する人とはいえ、ただただ呆れることしかできないのだった。


 その日は、町の温度が二十度下がり雪が降ったがユリウスの知ったことではないのだった。


 *


 ユリウスは明くる日に、海匠という、天甘堂にも劣らない名店に同じように限定で販売されているプリンを買いに行った。こちらは販売個数が少し多かったこともあり、何とか買うことができた。


「騎士学校の生徒さんかい?鋭い目つきのわりには、甘いものが好きなんだねぇ。うちの夫の自慢の品だからきっと、坊やにも気にいってもらえると思うよ。」

 海匠のお喋りな体格のいい名物オカンが、ユリウスを子ども扱いしながら、喋りかける。

 天甘堂と、海匠は味の評価は同じなのだが少しだけ天甘堂の方が人気なのだが、その原因はこのオカンではないかとユリウスは真剣に思い始めるのだった。


「いえ、義姉に…」


 義姉が食べるのだと伝えようとした時、肩を強く引っ張られた。


「面貸せよ」

 大きな手で引っ張ったのは案の定ライオスだった。


「コテンパンに負かしたことのあるやつにかまうとか、学年一位の秀才様も案外暇なのな」


 ユリウスはナチュラルにライオスを煽る。それを受けて、ライオスは、今にも殴りかかりそうなくらい顔を真っ赤にし、唇を怒りでプルプルと震わせる。


「とにかく来やがれっ!」

 怒りを少しでも霧散させるようにライオスは、強く言う。彼も店の中で揉め事を起こすのを避けようとする理性は残っているらしい。


「はあ、しゃーない。いいぜ。()()、俺が負けるだけだろうけどな」


 やる気のない脱力した声でライオスの怒りの原因になった決闘--あきらかにユリウスが手を抜いていた決闘--について言及する。

 ユリウスはどこまでも無自覚にライオスを煽るのだった。


 *


「おいおい、これはどういうことだ?一対一じゃなかったのかよ?」


 ライオスに連れてこられた裏路地には、騎士学校の生徒一学年の凡そ三分の一にあたる百名ほどの生徒がいた。

 その中には、ライオスの悪口を言っていた眼鏡の生徒たちもいた。


「俺はそんなこと一言も言ってないぜ。それに、こいつらは正真正銘、俺の力で言うことを聞かせた奴らだぜ?俺の力によって言うことを聞かせたってことは、つまりはこいつらも俺の力っていうわけだ。まるで俺が卑怯みたいに言うのはよしてくれよ」


 理屈が通っているようで、やはりちゃんと聞くと屁理屈でしかない理論をライオスは述べる。

 だが、


「ああ、そうだな。早く始めようぜ。」

 ユリウスは余裕の表情を崩さない。透き通る蒼い瞳が、冷静に百人をくらうことを考え始めた。

 さっきまではわざとまた負けようと思っていたユリウスだったが百人の軍勢をみて、気が変わっていた。


 これだけの人数をわざわざライオスが連れてきてくれたのならば、それを利用しない手はなかった。徹底的に全員を潰して、プライドすら粉々にして、この戦いについて全員に口止めをさせ、二度と戦いを挑まれないように彼らの身体に教え込むことに決めていた。百人全てを倒してしまえば如何なライオスといえども諦めてくれるだろうと思っていた。


「クソガキがぁああああああああああ!!!!!やるぞ。」


 ユリウスがぼんやりと考え事をしていると、ライオスの雄叫びが裏路地に響いた。その気合いの声が開戦の合図となり、百人からの攻撃が一斉に始まる。身体を自由自在に伸ばすスキル、努力の要素が強い魔法力を向上させる稀有なスキル、快速のスキル、毒のスキル、色々なスキルをもつ攻撃が、魔法が、物理攻撃が、ユリウスに襲い掛かる。


 だが、


「「「「「「「「「「ぐわぁあ。」」」」」」」」」」」


 何もできず、ユリウスの攻撃を視認すらできずに、百人全員が一瞬で倒れてしまう。実力差がありすぎた。


戦いとは、拮抗した戦力がするものである。ありが百匹いようが、象に勝てるかと言われれば間違いなく否だ。まして、今回はそれ以上の差がユリウスと彼らの間にはあった。勝負にすらならないのは明白だった。


「てめぇらが二度と僕に攻撃してこないように、僕の恐怖を味あわせてやるぜ。死の恐怖を味わえ!」


 とどめにユリウスが百人に向かってそう告げる。その言葉だけで、彼らは目がとろけ始め、戦意を消失した。言葉だけによる精神的な異常。物理的な攻撃の方は何が起きたのか誰にも分からないものだったが、こちらは、明らかにスキルによる効力だった。


 そして、スキルは一人に一つしか発現しないものである。それを学年一位の秀才は知らないはずはなく、

「ちっ。全知全能ってのは、ただの精神系スキルだったのかよ。ただの名前だけかよ。だせぇな。」

 とユリウスに向かって唾を吐く。

 ライオスだけは、ユリウスに対する執念が違うのか、スキルらしい精神攻撃にも操られず、何とか自我を保つ。だが、それが不幸だったか。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ


 次の瞬間には、ライオスが決闘の時にした攻撃と同じ攻撃が、あの時よりも威力を上げて、ライオス自身に向けられた。ライオスの大きな身体が無重力に包まれながら空間の一点に制止する。


「馬鹿なのか?それだけなら、お前に殴られたのにノーダメージだったことに説明がつかないだろ?」


 そう言って、ライオスにとどめのけりを繰り出す。すでに身体も動かせない状態だったライオスは、巨体を地面に引きずりながら、白眼を剥いて倒れるしかなかった。


「ちっ。殴ってくんだったら、殴られる覚悟もしやがれっ。」

 だが、起き上がる気配のないライオスに向けてユリウスは、掌に白い魔力を集めて治療を開始する。このままではライオスが死んでしまうと判断したのだ。

 魔法はユリウスにとってはスキルに比べると得意ではないながらも、何とか、ライオスの応急処置を終える。


「というか、プリンが少し傾いちゃったんだけど、また義姉ちゃんに叱られるじゃねぇか。」


 治療を終えたライオスの広いおでこに恨みを込めて、デコピンをし、ユリウスは急いで帰宅するのだった。


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