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最優の劣等生  作者: みけねこ
3/8

2 『雷帝 ライオス』

「ふんっ。よくきたじゃねーか。学年最下位の落ちこぼれ君。」


 ヴィクトリアと別れた後、ユリウスが決闘のための競技場に行くとすでにライオスがいた。

 いや、ライオスだけではない。審判のための教師、取り巻きたち、それに、見知らぬ人も多くいた。競技場は、学校の本館から少し離れた場所にあり観客席も多くある。毎日のように、己の能力の研鑽のために決闘が行われており、戦闘の勉強のために見に来るというだけのものも多い。


 だが、それにしても百人を超すかというほどの生徒が集まることはまれである。

 どうやら、ヴィクトリアの言っていたように、学校中にライオスとユリウスの決闘の噂が広まっているらしい。その様子にげんなりしながら、ユリウスはライオスに声をかける。


「早速、はじめて、とっとと、終わらせちまおーぜ。」


 学年一位のライオスの前にも関わらず、飄々とした態度には、審判の先生も面を喰らったか、先生含め、皆一様に呆ける。


 そして、一瞬の静寂が広がった後、

「うぉおおおお!さすがは、全知全能(オール・マスター)。雷帝ライオスに向かってよゆうじゃねぇか。」


「ライオス、あんな奴に敗けんなよっ。」


「よしゃっ。大穴でユリウスお前に全財産かけたぞ!勝ってやれ。」


 だとかの歓声が広がる。

 ユリウスはそれすらも退屈そうに見つめ、

「先生、開始の合図を。」


「よしっ。ライオスもいいな。」


「はい。」

 ライオスは、短く気合いを入れる。


「それでは、ユリウス・マクガン対ライオス・センチネルの試合を始める。カウントを開始してから、きっかり六〇秒後に試合の開始となる。両者の学内用腕時計に試合のカウントは表示される。0になった瞬間に戦闘開始になり、審判である私が試合続行不可能と判断するか、この決闘場から出た場合、及び、いずれかが、降参を口にすれば負けとなる。いいなっ。それでは、始…」


「ちょっと待ってくれよ。」


 先生の開始の合図をライオスが野太い声で遮る。


「なんだ。ライオス。」


「それじゃあ、つまんねー。せめて、開始五分は降参しようが殺されようが、試合のストップはなしにしようぜ。」


「だが、それは危険な行為だ。当校規定2-1『死人防止法』により、ユリウスの承諾が必要となるぞ。」


「だそうだっ。いいよな?ユリウス・マクガン。」


「はい、大丈夫ですよ。」


 冷たいブルーの瞳がライオスをにらむ。


「では、特別ルールにおいて始めるが両者に異論はないな。」

 どちらも命のやり取りをするにも関わらず特に気負った様子もなくうなずく。



「ではっ、はじめぇぇ。」


 高らかに宣言をして、カウントがスタートする。


 この間は何もしてもいいことになっているが、多くの学生は、『開幕ブッパ』というものを使っており、主流になっている。この場合は、それぞれの最大の技を互いに出して行う、力と力のぶつかり合いとなる。

 だから、カウントの間に力をためて、その技が最大の効力を発揮する距離を保つ。遠距離攻撃と近距離攻撃の対決では、距離も大切となり駆け引きが繰り広げられる。


 ライオスは、その主流の方法に乗っ取り、右の拳を背中に回し、腰を捻りパワーをためている。魔力も拳に込めているようで、雷を表す黄色の魔力が見て取れる。


 一方の、ユリウスはというと、特に何もせずにあくびをしていた。


「てめぇ、殺されても文句は言うなよ。」


「殺されたら、喋れねーだろ。バカなの?お前が学年一位の秀才とか笑っちまうな。」

 ユリウスは、ライオスの言葉を鼻で笑う。


 そうこうしているうちに、カウント0が近づく。


 …20、19、…10,9,8…3,2,1,


 0



 戦闘の始まりは一瞬だった。ライオスの金色に輝く拳がユリウスのみぞおち目がけて襲い掛かる。雷帝の名にふさわしい高速のストレートだった。

 それを、ユリウスは見つめる。その行為は、高速に動くライオスの身体を視界に捉えていることを意味した。


 審判をしていた先生は意外な熱戦を期待した。


 しかし、ユリウスは特に受け身を取ることなく、ライオスの拳をもろにくらう。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ



 高速で()()()()が決闘場に響く。それは、速いだけでなく、重いパンチであることを示すにたるものだった。


「おいっ、ライオスやり過ぎだ。ホントに死んじまうぞ。」


「はあ、先公が何言ってんだ?ルールは何だったか考えてみなよ。」


 ライオスは、これまでのうっ憤を晴らすように殴り続ける。ユリウスの身体は地面に落ちる間もなく拳が当てられる。

 その蹂躙と言っていい姿に、見ていた者は吐き気すら及ぼす。


 決闘前の白熱とした空気は、何処へ行ったのか。ちらほらと帰り始めるものもいた。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ


 止まない雨はないように、やがて、五分がたつ。


「ライオス。五分だ。やめなさい。」


 先生が顔を歪めながら止めに入る。


「ちっ。もうかよっ。ま、もうこいつ死んでいるだろ?いい気味だぜ。」


 拳の追撃が止み、ユリウスの身体は、重力に任せてドカッと落ちる。


「おい、大丈夫か。しっかりしろ、ユリウス君。」

 先生が涙声で揺する。だが、いつまでたってもユリウスは起きない。

「くそっ。すまなかった。先生が君を止めて入ればよかったな。裁量権10-7を使えばできたのに。すまなかった。」


「裁量権10-7って、減俸を覚悟で生徒の決闘をやめさせる制度じゃねぇか。てめぇみたいな似非善人の先生が使えるもんじゃねぇーよ。歴代でも一人しか使った奴はいねぇらしいぜ。」


 ライオスは先生すらもバカにする。だが、ユリウスをタコ殴りにして満足したのかスッキリした表情をしている。


 皆が沈黙し、あまりの光景に言葉を失う。

 ユリウスは地面に伏せたままだった。

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